【R18】御曹司とスパルタ稽古ののち、蜜夜でとろける

鶴れり

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《8》締切の鬼はやっぱり鬼(2)

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 次の日も年末年始の一大イベントに向けて、データをかき集めてエクセルに落としていく。
 今日の終業までに膨大なデータをまとめてしまわないと。瑛美は時計とやることリストを何度も睨めっこして作業を進めていた。

「深谷……」
「きゃっ! 清澄部長っ」

 低くハスキーな声が聞こえたと思うと、すぐ横に整った顔面があって、肩が飛び跳ねた。気のせいか、スンと鼻を鳴らした音が聞こえた気がする……。

「な、なんですか?」
「それ、一昨年のデータだぞ。深谷は二年分のデータ分析をしてくれるのか……随分と仕事熱心なことだ。なぁ?」
「――……っ」

 口端を吊り上げているが、完全に目が座っている。そんな大和の表情を見て、サァと全身から血が引いていき、指先に感覚がなくなっていく。

 大和に指摘されて急いで日付欄を見ると、確かに精査していたのは一昨年のデータだった。

「やばい……今からやり直し……っ」
「頑張れよー深谷。締切厳守だからな」

 注意するだけして、放置するなんて酷い。少しくらい手伝ってくれてもいいのに……と思わず涙があふれそうになる。
 時計を見ると時刻は朝の十時。昼食を食べる時間を返上してやって八時間……定時までに果たして間に合うだろうか。

(ひどいぃっ! いっそのこと残業出来たらどれだけ気が楽か……。確かにミスしたのは私の責任だけど! 悪いのは私だけどっ!)

 うぅ、と涙目になりながら休憩時間を返上して数字と睨めっこする羽目になった。



……

「今週は特に疲れたぁ……」

 無事に定時に仕事を終え、瑛美は着付け教室へ向かっていた。

 セール前のこの寒い時期は一年で最も企画部が忙しくなる時期だ。それでも鬼部長は決して残業をさせてはくれないので、必然と休憩時間返上で作業を進めることになる。

 企画部の残業なしのやり方には賛否両論ある。プライベートな趣味を優先したい人からしてみれば、終業時間が決まっているので時間を確保しやすいと好評だ。しかし仕事に邁進したい人からしてみれば、作業時間が限られているので物足りなく感じるらしい。
 瑛美はそのどちらでもないが、大和の鬼の圧力は勘弁してほしいと思う。精神が削られるのはたまらない。せめて心穏やかに仕事がしたいものだ。

 エレベーターに乗り、二十階のボタンを押す。
 この三十階建ての高層ビルは着物の販売からお手入れ、着付け教室まで、すべての着物に関する事業が集結している。
 着物や帯はもちろん、着付けに必要な道具も全て貸し出されているので、手ぶらで来て着付けを学べるのは大変ありがたい。会社からも近い立地もあり、迷いなくこの着付け教室を選んだのだ。

(今からは大和先生、そして私の彼氏……大丈夫かな)
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