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《10》締切の鬼はやっぱり鬼(4)
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目を瞑ったまま大和の手が、瑛美の肩に触れてビクンと体が反応する。
「瑛美、鏡を見て。まず、瑛美の腰は反り気味だ。だからヒップの上あたりに補正を入れる必要がある。あとお腹……みぞおちとウエストあたりも凹凸を埋めたほうが良い。あとは意外と盲点になりがちなんだが……ここ」
肩に置かれていた大和の手が、するりと骨ばった鎖骨を撫でる。
「鎖骨の下。ここがくぼんでいると着姿が一気に老けこむんだ。特に瑛美はなで肩で華奢だから、ここにも補正は入れたほうが良い。鳩胸をつくるイメージだな」
「はい。でも何故目を瞑っていてそこまでわかるのですか?」
「一目見れば大体その人の体格や骨格はわかる。あと仕事中の姿勢とか立ち姿とかな」
「さすが師範ですね」
目を閉じたまま、的確に指導する大和に感心する。会社でも若くして仕事ができる大和は、部長という地位についているが、着付け師範としても大変優秀なようだ。
(できる人は何でもできるんだなぁ……)
なにをしても平均点しかこなせない自分には、遠い世界の人のように感じる。
そんなことを考えていると、胸をタオルで押さえていた手を取られた。
慌てて大和の顔を鏡で確認すると、目は閉じたままだったので安堵した。
「あと、胸に関しては大きさ関係なく押さえつけたほうが良い。ただし、きつく締めるのは厳禁だ。ガーゼ包帯でサラシのように押さえるのが一番だけど……一人でできそうか?」
「はい!」
手伝ってもらうつもりは毛頭なかったので、力強く返事をする。
「じゃあ三十秒で巻いて。きちんとできていなかったら、俺が問答無用にやり直す。三十……二十九……二十八……」
「えええぇっ」
瑛美の同意もなく勝手に数え始めた大和に慌てて包帯を手に取り、とりあえず胸を隠すようにぐるぐると巻いていく。巻き終わりは取れないように固結びをした。
「二……一……終わったか?」
「はい、なんとか……」
とりあえず無事に胸は平らにできたし、隠すこともできた。
パチッと目を開けた大和は、鏡越しに瑛美の姿を確認すると「全然駄目だ」と息をついた。
「まず、そもそも胸に巻くだけじゃずれてくる。腰部分から巻き始めるんだ。あと補正では、絶対に結び目を作るのは駄目。結んで玉になった部分が着物を着た時に肌に直接当たると、痛みを伴うし着姿も乱れる。失格」
淡々と駄目出しをすると、固く結んだ結び目をはらりと解かれた。
とっさに腕を交差して胸を押さえる。着付けのためとわかっていても、やはりどうしても胸を見られるのは嫌だった。
「瑛美、鏡を見て。まず、瑛美の腰は反り気味だ。だからヒップの上あたりに補正を入れる必要がある。あとお腹……みぞおちとウエストあたりも凹凸を埋めたほうが良い。あとは意外と盲点になりがちなんだが……ここ」
肩に置かれていた大和の手が、するりと骨ばった鎖骨を撫でる。
「鎖骨の下。ここがくぼんでいると着姿が一気に老けこむんだ。特に瑛美はなで肩で華奢だから、ここにも補正は入れたほうが良い。鳩胸をつくるイメージだな」
「はい。でも何故目を瞑っていてそこまでわかるのですか?」
「一目見れば大体その人の体格や骨格はわかる。あと仕事中の姿勢とか立ち姿とかな」
「さすが師範ですね」
目を閉じたまま、的確に指導する大和に感心する。会社でも若くして仕事ができる大和は、部長という地位についているが、着付け師範としても大変優秀なようだ。
(できる人は何でもできるんだなぁ……)
なにをしても平均点しかこなせない自分には、遠い世界の人のように感じる。
そんなことを考えていると、胸をタオルで押さえていた手を取られた。
慌てて大和の顔を鏡で確認すると、目は閉じたままだったので安堵した。
「あと、胸に関しては大きさ関係なく押さえつけたほうが良い。ただし、きつく締めるのは厳禁だ。ガーゼ包帯でサラシのように押さえるのが一番だけど……一人でできそうか?」
「はい!」
手伝ってもらうつもりは毛頭なかったので、力強く返事をする。
「じゃあ三十秒で巻いて。きちんとできていなかったら、俺が問答無用にやり直す。三十……二十九……二十八……」
「えええぇっ」
瑛美の同意もなく勝手に数え始めた大和に慌てて包帯を手に取り、とりあえず胸を隠すようにぐるぐると巻いていく。巻き終わりは取れないように固結びをした。
「二……一……終わったか?」
「はい、なんとか……」
とりあえず無事に胸は平らにできたし、隠すこともできた。
パチッと目を開けた大和は、鏡越しに瑛美の姿を確認すると「全然駄目だ」と息をついた。
「まず、そもそも胸に巻くだけじゃずれてくる。腰部分から巻き始めるんだ。あと補正では、絶対に結び目を作るのは駄目。結んで玉になった部分が着物を着た時に肌に直接当たると、痛みを伴うし着姿も乱れる。失格」
淡々と駄目出しをすると、固く結んだ結び目をはらりと解かれた。
とっさに腕を交差して胸を押さえる。着付けのためとわかっていても、やはりどうしても胸を見られるのは嫌だった。
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