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《13》無言は肯定(2)
しおりを挟む「瑛美、返事は?」
「……え?」
「何も言わないのなら、肯定とみなす」
大和の整った端正な顔が視界いっぱいに広がって、唇に熱いものが触れた。これって――
「き、す……っ」
「うん」
男性と肌を重ねるなんて数年ぶりだ。バクバクと心臓が跳ねる。
(キスのときって、どのタイミングで目を瞑るんだっけ。手、手はどうしよう。あ、息継ぎってどうするんだっけ……っ)
休みなく重ねられる唇にパニックになる。ぺろりと舐められて、熱い舌が隙間をこじ開けて侵入してきた。
流されるがまま、縦横無尽に動き回るそれを受け入れる。
「瑛美ももっと絡めて」
「んっ……」
久々の口づけは蕩けそうに繊細で優しくて。大和に求められるがまま小さな舌を動かす。
上手くできる自信なんてない。けれど、この熱に応えたい、と思ってしまった。
大和の手が背中を撫でる。その手つきは明らかに男女の情事を意識して動いているのが分かって、瑛美は動揺した。
「や、まと……」
「ん?」
息継ぎの合間に名を呼ぶと、瑛美の顔色を窺ってくる。
「私、こういうの大学生の時以来で。全然上手じゃないし、顔も可愛くないし、体もたるんでいるし……」
「俺は美人や上手い人とこういうことをしたいわけじゃない。瑛美だから触れたいと思うんだ」
「でもっ」
瑛美は自分に自信がない。秀でたところもなく、胸を張って語れる趣味や功績もない、三十路手前の地味女。
仕事ができて、素敵な部屋に住む見目麗しい大和を前にすると、自分なんて霞んでしまう。こんな可愛くも面白くもない女が、男性に選ばれること自体、現実だとは思えないのだ。
「大和に比べたら、私なんて月とスッポン……いや、高級食材なんておこがましい、私はミドリガメです」
「ははっ、なんだそれ。たとえミドリガメでも小さくて可愛いよ」
亀発言に笑い声を漏らしながら、瑛美の帯を解き始めた。
「あの、きっと大和が幻滅するだけだと思うから……」
「俺は瑛美がいいって言ってるんだ。誰に何を言われても瑛美がいい」
「でも、」
それでも否定的な言葉を続けようとする瑛美を咎めるように、顎を掴むと強制的に目を合わされた。
「何度言ってもわからないのなら、身体が理解するまでとことん刻み込んでやる」
「き、きざむ、って……」
「俺の気持ち」
あむっと食べるように唇に歯を立てられて、再び濃厚な口づけが始まる。
シュル、と布が擦れる音がする。次第に体の締めつけが緩んできた。
ショーツとサラシを巻いた情けない姿になると、大和は瑛美を抱きかかえて別の部屋へと移動した。
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