【R18】御曹司とスパルタ稽古ののち、蜜夜でとろける

鶴れり

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《12》無言は肯定(1)

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 着物姿のまま荷物を持って大和とエレベーターに乗り込む。カードキーを当てると、ボタンを押さずとも勝手にエレベーターが動き出した。

「大和先生はいつも最上階で暮らしているんですか?」
「あぁ。立地も良いし、社員用の食堂もあるから食事を用意する必要もないし、楽だからな」

 大和との会話に驚きながら、外の景色を見る。
 小さくなっていく建物を見ながら、感嘆の声を漏らす。
 二十階からの夜景も美しかったが、三十階はさらに視界が開けてキラキラと輝いていた。

 大和に手を引かれて部屋に入る。このワンフロア全てが大和の部屋らしい。一体家賃はいくらなんだろう……と庶民臭い疑問がわいたが、そっと胸にしまっておいた。

 先週も座ったソファーに腰かける。ベッドのように広いソファーの前にはエレベーターから見た夜景が一面に広がっていた。

「きれい……」

 先週はカーテンが閉まっていて、このような絶景が広がっていることに気がつかなかった。
 宝石が散りばめられた宝箱のような景色に見とれていると、急須と湯呑を手にした大和が隣に腰かける。

「毎日見てると何も思わなくなるけどな」という金持ち発言をしながら、大和は緑茶を淹れてくれた。ふぅふぅと息を吹きかけながら、ゆっくり口に含むと爽やかな緑の香りが鼻から抜けていく。

「ありがとうございます。美味しいです」
「ん。よかった」

 少しの間、静寂が二人を包む。緑茶が喉を通っていく音と、ほぅっと息をつく音が繊細に響いて穏やかな時間が流れる。

 会社とも教室とも違う。胸が高鳴っていて、でもどこか落ち着く……そんな不思議な感覚に身を任せる。
 こんな気持ちになるのも、二人とも着物を着ているからなのかもしれない。

「瑛美、キスしたい」

 突然の直接的な言葉に、ボンっ頭が茹だったのがわかった。

「大和先生、あの、」
「稽古が終わった後は先生じゃない」
「じゃあ……やまと、さん……?」
「呼び捨てでいい」

 手を取られて指を絡め合う。
 瑛美の小さな手をすっぽりと包む手のひらはあたたかくて、少しカサついていた。

「一つ聞いていいですか。あの、私の匂いが好きって……」
「あぁ。瑛美からは焼き立てパンのような、甘くて食べたくなる香りがする」
「パン?」

 意外な単語に思わず目を丸くする。

「あんまり上手くは言えないけど、香水や柔軟剤じゃない、瑛美から発せられる匂い……特にうなじ辺りが濃くなるんだ」

 顔が近づいてきてスンスンと鼻を鳴らされる。瑛美は石のように固まってされるがままになった。
 人工的な香りではなく、瑛美本来が持つ体臭のことを指していると言われて、どうすればいいのかわからなくなる。

「嗅がれるのは嫌?」
「恥ずかしいです……汗のにおいがしたら、どうしようって」
「嫌な臭いは一切ないよ。ずっと嗅ぎたくなる」

 首筋に埋まっていた大和の唇が首筋に触れて鼓動が速くなる。変な声が出そうになって、下唇を噛み締めた。

「瑛美、返事は?」
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