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《29》日本文化と便利グッズ(3)
しおりを挟む「あとは組紐で結んで、はい。出来上がり」
「おい、何してるんだよ」
「大和も見てよ。瑛美ちゃんの髪に僕の組紐がよく似合ってるでしょう?」
「確かに可愛いけど、瑛美の髪を勝手に触るな」
「ええー。だって絶対に似合うと思ってさ」
「あのぉー、ありがとうございます……?」
手元に鏡がないので仕上がりがよくわからないが、とりあえず礼を言う。終始文太郎のペースに巻き込まれっぱなしだ。
「余った糸で作った組紐なんだ。瑛美ちゃんにあげるよ」
「良いのですか? ありがとうございます」
「全然いいよ~」
「こら、文太郎も遊んでないで仕事しろ」
福本工房の商品を手にしたご婦人がやってきて、文太郎は接客へ戻った。
「楽しい人ですね」
「職人だから自分の商品に絶対の自信を持っているんだよ。変わったやつだけど悪いやつじゃない」
「私も上手に着付けられるようになったら、文太郎さんの帯締めで結んでみたいです」
「あいつの帯締めは結びやすくて緩まないからおすすめだよ」
顔を見合って微笑む。
会社とは違う大和のプライベートな友人と会って、また一歩大和との距離が近づいた気がした。
展示会場の出口付近には下着や紐などの、着付けに必要な道具のコーナーがあった。
紐にも様々な色や模様があって、見ているだけでも楽しい。
「あの、大和先生。これ……」
「あーあ、見つけちゃった?」
震える手で取ったのは、和装ブラジャーと補正用の腰パッドだ。ベスト型になっているものもある。
「この和装用の下着をつければ、サラシって巻く必要ありませんよね……?」
「ないな」
「このベストみたいなやつ……これを着るだけで全ての補正が完成するって書いてありますよ?」
「そういう便利グッズもあるな」
下唇を噛み、あっけらかんとしている大和をキッと睨めつける。
サラシをきつく巻きすぎて傷ついた肌に軟膏を塗られたり、胸が見えないように必死でタオルで隠していた記憶が蘇る。
(あんなに補正、補正と言って肌を見られて……! これさえあれば着るだけで簡単に補正が完成するじゃない! あんなに恥ずかしい思いをしなくて済んだのにぃ!)
瑛美の心の声が聞こえたのか、大和はいたずらに成功した少年のように「だって瑛美のこと深く知りたかったからさ」と笑った。
「私、これ買います」
「えー買うのか? 別に要らないんじゃ」
「買、い、ま、すっ!」
強めに言うと、声をあげて笑われた。
目を細めて笑う大和をぐぬぬ、と睨めつけながらレジへと向かった。
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