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【2】初めての友人(2)
しおりを挟む次の日。いつものように屋敷が寝静まった頃、屋根の上に行くと深緑色の犬が待っていてくれた。ユラユラと尻尾が揺れている。
「来てくれたの……っ? すっごく嬉しい! ありがとう……」
抱き締めたい衝動をぐっと堪える。これで警戒されて逃げられたら立ち直れそうにない。慎重に一歩ずつ距離を縮めていく。
籠に詰めた今日の分の食事を見えるように差し出した。
「今日のご飯はサンドウィッチだったの。こっちは野菜が挟んであって、もう一つはお肉。犬って何が好きか分からなくて、全部取っておいたの。あなたは何が好き?」
籠を置いて少し後ろに下がる。害がないということを示す為だった。
犬はゆっくりと近づいて籠の中を見ると、再び顔を上げてフラミーニアを真っ直ぐに見つめる。夜空に輝く星のような金色な瞳がキラリと煌った。
「お前、馬鹿なの」
何処からか低い声が聞こえて周りを見渡す。こんな夜も遅い時間なのに、起きている人が居たのだろうか。
「こっち。俺だよ」
「えっ、あなた……!」
目の前にいる小型犬を目を見開いて凝視した。
「犬が喋ってる……! 犬って確かワンと鳴くのではなかったっけ?」
「話せる動物くらい、何処にでもいるよ」
「そうなんだ、知らなかった……!」
「犬すら見たことなかったのなら、そうかもな」
何度もパチパチと瞬きをする。
人語を話す犬は面倒臭そうに目を細めている。
「それより、これお前が食えば。全部取っておいたって、つまり今日何にも食べてないってことでしょ」
「あなたに会えるかもって思ったら、それだけでお腹いっぱいになっちゃって。良かったら一緒に食べない?」
「なにそれ。……あぁ、分かったよ。俺は肉」
屋根の上の平らな部分に腰を落ち着けて、籠からサンドウィッチを取り出し、清潔な紙の上に乗せた。
「どうぞ」というと、犬はかぷとパンにかぶりついた。
フラミーニアも自分の分を取り出して口に運ぶ。
時間が経ったサンドウィッチは乾燥してパサパサだったが、いつもの食事の何倍も美味しく感じた。
「誰かと食べるご飯ってこんなに美味しいんだね。ありがとう、今日も来てくれて」
自然と頬が綻んで笑顔になる。横を見ると、そこにあったはずのサンドウィッチは無くなっていた。
「あれ、もう食べたの?」
「うん。ご馳走様」
「早いね。私の分も食べる?」
「要らない。ちゃんと食べないと倒れるよ」
そう言って隣に並び、伸びをして寝そべった。
(私が食べ終わるまで待っててくれるんだ。優しいな……)
フラミーニアは胸に温かいものが広がっていくのを感じながら、食事を胃に収めていった。
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