稀有な魔法ですが、要らないので手放します

鶴れり

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【8】新生活(2)

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「天使さま、待って……!」

 初対面の人に対してどう話しかけたら良いのか、勿論知りもしないフラミーニアは思いつくままを言葉にする。
 振り返りもしない美女に最後の力を振り絞って叫んだ。

「私が死んで悪魔になったらお友達になって……! 私、ずっと貴女の側にいるから! ずっとずっと寄り添い続けるから!」
「貴女何を言っているの? 気持ち悪いこと言わないで頂戴」

 整った顔を大きく歪めた美女が振り返る。
 どうやら言葉選びを間違えたようだ。

「貴女、死にたいの? 生きたいの?」
「生きたい! 出来れば悪魔ではなくて、生きて貴女とお友達になりたいっ!」

 濁った瞳と菫色の瞳が交錯する。
 何も持たない醜い自分だが、希望だけは捨てなかった。

 数秒見つめ合うと、美女は諦めたように大きく溜め息を吐いた。

「……はぁ、本当なんて最悪な朝なのかしら。もういいから、ついてきて。どうせ何も持ってないんでしょう」
「ありがとうっ。天使さま……!」

 力を振り絞って立ち上がったフラミーニアはよろよろと美女の後をついていく。
 先程まで全ての力を使い果たしたと思っていたのに、不思議と気力が湧き上がる。

 数分歩くと木材で出来たログハウスのような家に着いた。

「ここが私の家よ。私はね、鼻が利くの。汚れた人は家に入れたくないわ。消毒消臭をするから、裏へ来て」
「うんっ」

 大人しく美女についていく。言われるがまま汚れたワンピースを脱ぎ、水が張ってある樽に身を沈めた。

「あったかい……」

 もくもくと白い煙が上がる。今まで湯に浸かったことのないフラミーニアは感嘆の声を漏らした。
 長時間汚水に浸かり汚れきった骨の髄まで、温かさが染み渡っていく。

「はい。これ匂い消しのハーブ」
「わぁっ」

 樽から溢れるほど山盛りにハーブの葉が積まれ、湯に浮かぶ。

「ちゃんと頭から爪先まで綺麗にしてよね!全く、どうしたらこんなに汚れるのかしら」
「一晩中、地下下水の中を歩いてたの」
「げすいっ?!」

 よくそんな所歩けるわね……と悍ましいものを見るかのように顔を顰める天使。

 湯に浮くハーブを心許ない頭に乗せた。

「ピカピカにするから、そうしたらお友達になってくれる?」
「絶対に嫌だわ!」
「私いい匂いがするように頑張るから!」
「ちょっと、私のことなんだと思ってるのよ。私は虫じゃないんだけど!」

 頭上から熱めの湯をかけられて、樽から湯がザブンと溢れ出た。

 自然と笑みが漏れる。上を見上げると空には雲一つない青空が広がっていた。


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