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【30】新しい変化(4)
しおりを挟む繋いでいた手を解き、アルトゥルは立ち上がりメリッサに寄り添った。
「フランごめんね。暫くこの家を離れるから、薬草の管理をお願いしても良いかしら」
「私からもお願いします。メリッサのお腹にいる小さな命を守るために、今は設備の整った王城で療養するべき時なのです」
「いのち……」
「はっ? お前らいつの間に……っ」
頭の中にある医学の知識をひっくり返す。
嘔吐、吐き気、眠気、倦怠感。今思えば医学書で読んだ妊娠の初期症状と一致している。
メリッサが妊娠……!
全てを理解したフラミーニアは、一気に感情が溢れ出し勝手に目から雫が溢れた。
「めりっさ、めりっさ……!」
「フラン、何泣いてるのよ。私は病気じゃないんだから」
「うん、うん、っ……!」
寝台の隅に顔を伏せてわんわんと泣くフラミーニアの頭をそっと撫でてくれた。
「よがっだ、病気じゃ、なく、て」
「うん」
「おめでどう」
「ありがとう」
「めりっさ、幸せ?」
涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げる。
一瞬紫瞳を丸くし、目尻を細めて笑顔になった。その表情は天使のように美しくて光を纏っていた。
「ふふ。なんとなくアルの前では言いたくないから、また今度ね」
「何だよイチャイチャすんなよ。おめでとう。メリッサ、アル」
はにかんで礼を言うメリッサの表情が幸福を物語っていて、フラミーニアはまた涙が伝った。
自分の大切な人が幸せそうにする姿を見ることが、こんなに嬉しいことだなんて知らなかった。
垂れそうになる鼻水を思い切りすすり、顔をくしゃくしゃにして笑う。
「不在の間は任せて! メリッサは安心してゆっくり身体を休めてね」
「こんな森の中一人じゃあ不安なこともあるでしょう。セノもここで暮らしたら良いじゃない。フランの料理は美味しいわよ、多分」
「いやいや……!」
「メリッサほど確証のない美味しい、はありませんね」
「えっと、レシピ通りだから多分大丈夫だよ……?」
三人の視線がセノフォンテに集まる。セノフォンテは深緑色の髪を掻き乱して頬を赤く染めていた。
「いや、俺と二人暮らしは駄目だろ!」
「何が駄目なのです?」
「常識的に!」
「セノ、またフランを独りぼっちにするつもり?」
メリッサの言葉に虚を突かれたように固まる。
一瞬部屋が無音になった。
「…………フランは俺がいない方が良い?」
「ううん。私はセノと一緒にいたい。……一人で食べるご飯は美味しくないから」
フラミーニアの屈託のない笑顔を見て、セノフォンテは覚悟を決めて息を吐き出した。
「ぅ…………分かったよ」
セノフォンテの一言にフラミーニアの心が浮き足立った。嬉しいと言葉にすると、何故か「黙って」と怒られてしまった。
「セノが居るなら私も安心だわ。フラン、セノの変な匂いが家に染みつかないように、頻繁に香を焚いておいてね」
「おい」
「わかった! でもセノは変な匂いなんてしないよ?」
「フラミーニアさんはセノの匂いをよく嗅ぐのですか?」
「頬を擦り付ける時とか、抱っこした時とか、んんっ!」
「言い方! 語弊がありすぎる!」
「へぇーそれは是非とも見て記憶しておきたいですね」
フラミーニアの鼻口を両手で塞いでくるセノフォンテの腕をパシパシと叩く。
「あっ、ごめん」
「うぅー、窒息するかと思った……」
「こういうことよ」「成程、理解しました」と言い合うメリッサとアルトゥルを見て、再び顔を赤くしたセノフォンテが再び声を荒げていた。
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