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第六章 多々良さん探し 開始
小菊さんとキスをする(3)
しおりを挟むしかし、どうして多々良さん以外の多々良達が、真似をするのだろうか。ただ単に面白がっていて、僕をからかっているだけだとしたら、こんなにも残酷なことなんてないように思える。
僕が、一体何をしたと言うんだ。
「どうして、あなたは、僕を混乱させることばかり言うんですか?」
「好きだから」
悪魔的な口元で彼女は笑った。
冗談なのか、本気なのか。
僕には区別がつかない。
「恋愛事は嫌いなんじゃなかったんですか?」
フラッシュバックしたのは、図書室の中、心底嫌そうな口調で、恋愛について語っていたセーラー服の女の子。
「良く覚えてたね」
「ちょっと思い出したんです」
「嫌いだよ。男女のあれこれ、恋愛事。でも、自分のことは、別」
多々良さんはシニカルに笑う。
「声さえ同じなら、君は、探すべき『多々良』だと、私のことを認識してくれる。あなたが興味を持つ『多々良』に、私は成ることができるかもしれない、そうだよね」
彼女の言っていることが、異国語になったように理解ができなかった。
「多々良に、なり変わることができるの」
声も、出ない。
「あなた相手なら、私は、どの多々良にでも、なれる」
絶句、しかない。
「ま、本当に私が自殺しようとした多々良だから、なり変わる必要なんてないんだけど」
ふふふ、とお昼休みの騒がしい教室の中、溶けるような声で笑う―――多々良さん。
ダウト、と言い切ることなんてできない。
面白がっているにせよ、本気にせよ。
彼女たちの中から、本物を見つけなければいけない。
確固たる証拠がない限り、断言できるほどの何かがない限り。
そう、顔が見えない限り、僕は多々良さんの行いに、何の口もはさめないのだ。
神様の行動に人間が口をはさめないように、多々良さんの行動に、僕ごときが何かを言えるわけがないのである。
多々良さんが何人いようとも、彼女たちは好き勝手に動くだけだ。
「セーラー服の多々良はね。小菊。多々良小菊。覚えた? 小菊が、あなたの多々良。私の名前は、多々良小菊。あなたのことが好きな完璧な人間」
多々良さんの―――いや、小菊さんの柔らかな両手で、顔を掴まれる。強制的に目を合わさせられて。それでも僕は、彼女の顔を見ることができなくて。
「一緒の学校に通っているのが、私。小菊。一緒にご飯を食べて、一緒に図書委員をしているのが、小菊。自殺しようとしたのも、私。私が、多々良。あなたの好きな、多々良」
ぐい、と、力強く顔は引っ張られ、同時に彼女の靄がかかった顔も近づいて。
僕は彼女にキスされた。
「私を選んで?」
初めての唇の感覚に、うろたえながら僕は。
大変なことになった、と今さらに気付いてしまった。
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