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第六章 多々良さん探し 開始
小椿さんと、うさぎのお世話(1)
しおりを挟む校庭の隅にあるウサギ小屋に来ていた。
緑色の大きなゲージに入れられた三匹の白いウサギは、形容しがたいほどに可愛かった。
弱い動物というのは、あたり構わず可愛らしさを振りまいて、動物の庇護を得ようとするものなのだろうか。真偽はともかくとして人間に対し、それはとても有効に働いている。
鼻をヒクヒクと動かし、時折水を飲みにひょこひょこと動く彼らを三角座りで見つめていた。
警備員さんや他の人間の目から隠れるため、ウサギ小屋の裏、校舎からも見えない場所にいるので、誰も僕を見つけることはできないだろう。
保護者達が校門へと向かう時を見計らって、同じようについていこうと言う算段だ。
校舎の門をもう一度、その他の保護者にまぎれることなくくぐるのは、僕のメンタルではできっこないのだ。警備員さんと気まずい空気になるのは嫌だ。
「みつけたー」
「今、誰にも見つからないという設定なので、遠慮してもらっていいですか、多々良さん?」
「マリちゃんと呼んで。多々良小手毬こでまりの、マリちゃん」
なにくわぬ顔をして、僕の隣に腰掛ける小学生の多々良さん―――通称マリちゃん。
高校二年生の男が「マリちゃん」と小学生に呼びかけるのはいささか犯罪臭がする。
「マリ、ちゃん。授業はどうしたんですか?」
「先生が、保護者を追いかけなさいって。授業を中止するわけにもいかないから、私は放置されたの。私立学
校って適当よね」
そうだね、と適当に相槌を打った。
「なんで逃げたの?」
「マリちゃんがとんでもない事を作文したからですよ」
『私の婚約者について』。九割九分九厘、その婚約者とやらは僕のことである。
「事実だよ? 婚約者でしょ? あなた」
「マリちゃん、僕、記憶が割とあやふやになってますが、婚約者を作った覚えはないと大脳君が主張してます。
変な記憶を刷り込まないでください」
「ちぇ。良く書けたのに」
唇をとがらせて、手元にあった石を、グラウンドめがけて投げたマリちゃん。あきらめの早いものだ。
もし流されてしまっていたら、小学生の婚約者ができる所だったのか。光栄なのか、不幸なのか。
「じゃあさ、覚えてる? このウサギ、私が風邪ひいた時、話したウサギだよ?」
脳みそは応答せず。
僕が黙っているとマリちゃんは、頬を膨らませてから、肩を落とした。
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