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拝啓 元婚約者殿
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拝啓 元婚約者殿
梅雨も明けて、もうすぐ朝顔が見ごろの時期になるな。さて。元婚約者殿については元気であろうか?
2ヶ月前、私の誕生日パーティーで私との婚約破棄を一方的に宣言した挙句、新しい恋人だとかいう魔法使いの手でカエルにされた私のことを忘れたとは言わせない。いや、君にとってもトラウマのように脳にこびりついていることだろう。
体全体にまとわりついた粘着物質、少し衝撃を加えるだけで今にも飛び出してきそうな貧弱な目、鮮やか過ぎで吐き気さえもするこの表面部分の緑肌。両手を見れば4本の根元が太い指の上に丸い玉が1つずつくっついている。
一言で言うと、気色が悪い。
毎日池から私の姿形を見るたびに嫌でも思ってしまうのだ。
確かに私は君以外の女性と話したり、お茶をしたりした。
君と会う機会もほとんどなかったから名前さえ忘れてしまった。
けれどもそんなことで、王国の第2王子たる私を、このように醜いカエルの姿に変えてしまうと言うのはあまりにも罰が重いのではなかろうか。
お茶をしていたのも、元婚約者殿が学園で勉強が忙しいからと毎日2時間のお茶会の約束を断ったからではないか!
私は元婚約者殿と仲を育めるよう努力をしてきたと言うのに…。君ときたら。
お陰様で私は毎日薄汚れた池の中で、昔はあんなに小さかったメダカを虚しく食べる日々だ。
私は、おたまじゃくしなんぞになることもなく、青緑色の泥臭いカエルになってしまったものだから、カエルの鳴き声というものがさっぱり分からない。
一応他のカエルの者たちにも聞いてみたが話は通じても発声の話となると言っていることの意味が全くわからない。
薄っぺらくベタついた舌の下の部分に音をためて、喉の真ん中より下半分からそこへ向かって腹から息を出すことで一般的なカエルの鳴き声を作れるらしいが…。そんなこと、できるわけないだろう。
お陰様で私はまともにカエルとして鳴くこともできず、毎日「けろけろ」とか「クワックワッ」とか、低俗そうな鳴き声しか出すことができない。惨めでしょうがない。
けれども、私は王国の第2王子。意外と適応能力なるものが高かったららしい。
鳴き声は置いといて、カエルのジャンプの仕方は完全にマスターをした。
尻と大腿の中間あたりを中心に力を込めて、足を離すその瞬間に、溜めていた手も解放する。それだけだ。
それにしても、初めてメダカを食べた時は、正直生臭さ以外はそこまで嫌ではなかったのが逆に怖かった。
ザリガニが、カエル目線だと同等かそれ以上の大きさをしていて萎縮してしまったものだ。
梅雨の時は私の頭の中にある‘カエル脳’が大喜びして、何があったと言うわけでもないのに大層気分が良かったよ。
まぁ、そんなこんなで、人間でなくても想像以上に楽しく私は生きていけている。
おそらく脳裏に焼き付いているであろう昔の私のショッキングな記憶を消して、このカエルとしての私の人生…いやカエル生に埋め変えといておくれ。
それでは、私のこれからの人生の希望と、発展にお祈り申し上げろ。
貴女の元婚約者 金髪がトレードマークだった第二王子より
――という手紙を頭の中で書いていたが、この妙に粘着力のある4本指の手では私は手紙を書くことなんてできるわけがない。
それに、見栄を張って楽しく過ごしていると言ったが、この鳴き声のせいで周りのカエルのグループに入れてもらうことができていない。
孤独だ。
……だから、今日も私は池の水際で歌を歌う。
自分の特徴的な歌声と、いつまで経っても人間に戻れないと言う状態が永遠に続いていくと言う意味を込めた輪唱がポイントです。
聞いてください。
「かえるの歌」
梅雨も明けて、もうすぐ朝顔が見ごろの時期になるな。さて。元婚約者殿については元気であろうか?
2ヶ月前、私の誕生日パーティーで私との婚約破棄を一方的に宣言した挙句、新しい恋人だとかいう魔法使いの手でカエルにされた私のことを忘れたとは言わせない。いや、君にとってもトラウマのように脳にこびりついていることだろう。
体全体にまとわりついた粘着物質、少し衝撃を加えるだけで今にも飛び出してきそうな貧弱な目、鮮やか過ぎで吐き気さえもするこの表面部分の緑肌。両手を見れば4本の根元が太い指の上に丸い玉が1つずつくっついている。
一言で言うと、気色が悪い。
毎日池から私の姿形を見るたびに嫌でも思ってしまうのだ。
確かに私は君以外の女性と話したり、お茶をしたりした。
君と会う機会もほとんどなかったから名前さえ忘れてしまった。
けれどもそんなことで、王国の第2王子たる私を、このように醜いカエルの姿に変えてしまうと言うのはあまりにも罰が重いのではなかろうか。
お茶をしていたのも、元婚約者殿が学園で勉強が忙しいからと毎日2時間のお茶会の約束を断ったからではないか!
私は元婚約者殿と仲を育めるよう努力をしてきたと言うのに…。君ときたら。
お陰様で私は毎日薄汚れた池の中で、昔はあんなに小さかったメダカを虚しく食べる日々だ。
私は、おたまじゃくしなんぞになることもなく、青緑色の泥臭いカエルになってしまったものだから、カエルの鳴き声というものがさっぱり分からない。
一応他のカエルの者たちにも聞いてみたが話は通じても発声の話となると言っていることの意味が全くわからない。
薄っぺらくベタついた舌の下の部分に音をためて、喉の真ん中より下半分からそこへ向かって腹から息を出すことで一般的なカエルの鳴き声を作れるらしいが…。そんなこと、できるわけないだろう。
お陰様で私はまともにカエルとして鳴くこともできず、毎日「けろけろ」とか「クワックワッ」とか、低俗そうな鳴き声しか出すことができない。惨めでしょうがない。
けれども、私は王国の第2王子。意外と適応能力なるものが高かったららしい。
鳴き声は置いといて、カエルのジャンプの仕方は完全にマスターをした。
尻と大腿の中間あたりを中心に力を込めて、足を離すその瞬間に、溜めていた手も解放する。それだけだ。
それにしても、初めてメダカを食べた時は、正直生臭さ以外はそこまで嫌ではなかったのが逆に怖かった。
ザリガニが、カエル目線だと同等かそれ以上の大きさをしていて萎縮してしまったものだ。
梅雨の時は私の頭の中にある‘カエル脳’が大喜びして、何があったと言うわけでもないのに大層気分が良かったよ。
まぁ、そんなこんなで、人間でなくても想像以上に楽しく私は生きていけている。
おそらく脳裏に焼き付いているであろう昔の私のショッキングな記憶を消して、このカエルとしての私の人生…いやカエル生に埋め変えといておくれ。
それでは、私のこれからの人生の希望と、発展にお祈り申し上げろ。
貴女の元婚約者 金髪がトレードマークだった第二王子より
――という手紙を頭の中で書いていたが、この妙に粘着力のある4本指の手では私は手紙を書くことなんてできるわけがない。
それに、見栄を張って楽しく過ごしていると言ったが、この鳴き声のせいで周りのカエルのグループに入れてもらうことができていない。
孤独だ。
……だから、今日も私は池の水際で歌を歌う。
自分の特徴的な歌声と、いつまで経っても人間に戻れないと言う状態が永遠に続いていくと言う意味を込めた輪唱がポイントです。
聞いてください。
「かえるの歌」
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