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第一章 王子様のプロポーズ
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誰もいなくなったオフィス内でパソコンを起動させる。電気をつけると警備員さんにいることが気付かれて面倒くさいので、あえていつも薄暗いまま仕事をしている。
視力が下がりそうだけど、そんなことも言っていられない。とにかくやり残した分を片付けなければ。
個人情報に厳しいので、会社のパソコンを外に持ち出すことはできない。営業は認められているけれど、事務職は禁止されている。
薄暗く静かなオフィス内の中で、存在を消すようになるべく音を出さずにタイピングを打つ。
誰にも邪魔されることなく適度な緊張感を持って仕事できるので、日中の勤務時間以上に集中して量をこなすことができた。
ふと、顔を見上げ時計を見ると、時刻は二十三時五十八分。ああ、もう日付が変わってしまう。
その時だった。
エレベーターが開く音が聞こえた。慌ててノートパソコンをシャットダウンもせずに閉じる。この時間に会社にいることが知られるとまずいので、デスクの下に隠れた。
誰かがオフィス内に入ってくる。デスクの下からこっそり見つからないように顔を出すと、スーツを着た高身長の男の人だった。
警備員さんかなと思っていたけれど、会社の人だったらもっとまずい。どんどん奥に進んできて近付いてくるので、腰を屈めながらサッとデスク下から出て、別のデスク下に隠れながら入口へと向かっていく。
見つからずに無事にオフィスルームを出て、エレベーターホールまで行けたので、こっそりと誰が来たのか確認するために中を覗き見た。
薄暗くてよく見えないけれど、ただならぬオーラを発している人物だ。モデルのように細く、高身長で顔が小さい。
こんな人、うちの部署にいたかなと記憶を探る。佐伯さんも美丈夫だけど、こんなに身長は高くない。
謎の人物は、私のデスク前に立ち、閉じたノートパソコンをじっと見つめている。その横顔を見て思い出した。
(社長だ!)
二十代の若さで、一流企業の社長となった御曹司、伊龍院いりゅういん大翔ひろと。
本来、跡を継ぐはずだった大翔さんのお父様は、大翔さんが幼い頃にお母様と一緒に事故で亡くなられたと聞いている。社長だったおじい様は、高齢で体調不良のため相談役となり、大翔さんが跡を継いだ。
たしか、大翔さんが大学を卒業して四年後くらいに社長に就任していた気がする。若いため不安視されていたけれど、年々実績を積み重ねて海外からも高く評価されているとか。
社長と初めて対面したのは、就職の最終面接。役員の方と一緒に座っていたので驚いた。
近くで見ると、俳優のように整った顔をしていた。瞳は鋭く切れ長で、鼻筋が通っていて、シャープな形のあごが美しく引きたっていた。手足は長く、黒い柔らかな髪はしっかりとセットされている。白シャツにブラックスーツというクラシックなスタイルにも関わらず、品があって洗練されて見えた。
あまりにも完璧に整い過ぎていて、独特の魅惑的なオーラをまとった社長は、まるで別世界の住人のようだった。あまりにも緊張していたので、その時なにを話したのかは覚えていない。
なんでよりにもよって社長がいるのよ!
こんなに夜遅くまで仕事していたわけ? 帰りなさいよ!
自分のことは棚に上げ、心の中で悪態をつきながらも、顔は真っ青になっているのが自分でもわかる。手汗びっしょりだ。
社長には、絶対に見つかるわけにはいかない。
バレたらまずい相手のトップに君臨している。なにがなんでも逃げ切らなければ。
深呼吸をして覚悟を決めた。エレベーターに乗るわけにはいかない。エレベーターホールを忍者のような素早い忍び足で走り、廊下端にある階段を下りる。
下りながら二十三階であることに絶望したけれど、今は逃げ切ることが先決だ。気合だ、根性見せろ、工藤捺美!
階段が絨毯仕様で良かったと心から思う。黒のリクルートパンプスで階段を駆け下りた。
二階か三階分下りた時、上から怒るような声が降ってきた。
「誰だ、止まれ!」
社長の声だ。もう、絶対、止まれない。止まれるわけがない。さらに足を加速させる。
元陸上部を舐めるなよ! 体力というか、根性には自信がある。
(どぉぉりゃあああ)
心の中で叫びながら階段を駆け下りる。気合が先走ってしまったのか、片方の靴が脱げた。
一度止まって、階段を見上げる。靴は数段上に落ちていた。取りに行こうと思った瞬間。
「待て、こらあ!」
ヤクザが怒鳴るような社長の声が聞こえて、もの凄い速さで迫っていた。
もう恐怖だった。靴は諦めて、片方の靴も脱いでバッグに突っ込み、なりふり構わず駆け下りた。リクルートパンプスを履いていた時は、一段ずつしか下りられなかったけれど、二段、三段飛ばしで転がるように下りた。
もう怪我をするかもとかどうでもいい。とにかく逃げなければ!
しばらく無我夢中で駆け下りていると、後ろから追いかけてくる足音が消えた。
おそるおそる後ろを振り返ると、階段には誰の姿もなかった。
諦めてくれた?
視力が下がりそうだけど、そんなことも言っていられない。とにかくやり残した分を片付けなければ。
個人情報に厳しいので、会社のパソコンを外に持ち出すことはできない。営業は認められているけれど、事務職は禁止されている。
薄暗く静かなオフィス内の中で、存在を消すようになるべく音を出さずにタイピングを打つ。
誰にも邪魔されることなく適度な緊張感を持って仕事できるので、日中の勤務時間以上に集中して量をこなすことができた。
ふと、顔を見上げ時計を見ると、時刻は二十三時五十八分。ああ、もう日付が変わってしまう。
その時だった。
エレベーターが開く音が聞こえた。慌ててノートパソコンをシャットダウンもせずに閉じる。この時間に会社にいることが知られるとまずいので、デスクの下に隠れた。
誰かがオフィス内に入ってくる。デスクの下からこっそり見つからないように顔を出すと、スーツを着た高身長の男の人だった。
警備員さんかなと思っていたけれど、会社の人だったらもっとまずい。どんどん奥に進んできて近付いてくるので、腰を屈めながらサッとデスク下から出て、別のデスク下に隠れながら入口へと向かっていく。
見つからずに無事にオフィスルームを出て、エレベーターホールまで行けたので、こっそりと誰が来たのか確認するために中を覗き見た。
薄暗くてよく見えないけれど、ただならぬオーラを発している人物だ。モデルのように細く、高身長で顔が小さい。
こんな人、うちの部署にいたかなと記憶を探る。佐伯さんも美丈夫だけど、こんなに身長は高くない。
謎の人物は、私のデスク前に立ち、閉じたノートパソコンをじっと見つめている。その横顔を見て思い出した。
(社長だ!)
二十代の若さで、一流企業の社長となった御曹司、伊龍院いりゅういん大翔ひろと。
本来、跡を継ぐはずだった大翔さんのお父様は、大翔さんが幼い頃にお母様と一緒に事故で亡くなられたと聞いている。社長だったおじい様は、高齢で体調不良のため相談役となり、大翔さんが跡を継いだ。
たしか、大翔さんが大学を卒業して四年後くらいに社長に就任していた気がする。若いため不安視されていたけれど、年々実績を積み重ねて海外からも高く評価されているとか。
社長と初めて対面したのは、就職の最終面接。役員の方と一緒に座っていたので驚いた。
近くで見ると、俳優のように整った顔をしていた。瞳は鋭く切れ長で、鼻筋が通っていて、シャープな形のあごが美しく引きたっていた。手足は長く、黒い柔らかな髪はしっかりとセットされている。白シャツにブラックスーツというクラシックなスタイルにも関わらず、品があって洗練されて見えた。
あまりにも完璧に整い過ぎていて、独特の魅惑的なオーラをまとった社長は、まるで別世界の住人のようだった。あまりにも緊張していたので、その時なにを話したのかは覚えていない。
なんでよりにもよって社長がいるのよ!
こんなに夜遅くまで仕事していたわけ? 帰りなさいよ!
自分のことは棚に上げ、心の中で悪態をつきながらも、顔は真っ青になっているのが自分でもわかる。手汗びっしょりだ。
社長には、絶対に見つかるわけにはいかない。
バレたらまずい相手のトップに君臨している。なにがなんでも逃げ切らなければ。
深呼吸をして覚悟を決めた。エレベーターに乗るわけにはいかない。エレベーターホールを忍者のような素早い忍び足で走り、廊下端にある階段を下りる。
下りながら二十三階であることに絶望したけれど、今は逃げ切ることが先決だ。気合だ、根性見せろ、工藤捺美!
階段が絨毯仕様で良かったと心から思う。黒のリクルートパンプスで階段を駆け下りた。
二階か三階分下りた時、上から怒るような声が降ってきた。
「誰だ、止まれ!」
社長の声だ。もう、絶対、止まれない。止まれるわけがない。さらに足を加速させる。
元陸上部を舐めるなよ! 体力というか、根性には自信がある。
(どぉぉりゃあああ)
心の中で叫びながら階段を駆け下りる。気合が先走ってしまったのか、片方の靴が脱げた。
一度止まって、階段を見上げる。靴は数段上に落ちていた。取りに行こうと思った瞬間。
「待て、こらあ!」
ヤクザが怒鳴るような社長の声が聞こえて、もの凄い速さで迫っていた。
もう恐怖だった。靴は諦めて、片方の靴も脱いでバッグに突っ込み、なりふり構わず駆け下りた。リクルートパンプスを履いていた時は、一段ずつしか下りられなかったけれど、二段、三段飛ばしで転がるように下りた。
もう怪我をするかもとかどうでもいい。とにかく逃げなければ!
しばらく無我夢中で駆け下りていると、後ろから追いかけてくる足音が消えた。
おそるおそる後ろを振り返ると、階段には誰の姿もなかった。
諦めてくれた?
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