30 / 41
第九章 これから始まる結婚生活
①
しおりを挟む
今日はなんだかどっと疲れた。
今朝、おもわず口に出してしまった、離婚の二文字。
大翔と離婚したいのかといったらそうじゃない。むしろ逆で、離婚なんてしたくない。
でも、このままずるずると結婚生活を続けていったら、辛くなるのは目に見えていた。
どんどん大翔が好きになって、離婚することを拒否してしまいそうになるほど。
大翔を好きにならない女だと思ったから私を結婚相手に選んだのに。いつでも離婚できるように。それなのに、好きになって、離婚したくないなんて言ったら契約不尾行だ。そんなの絶対、駄目に決まっている。
だから『そろそろ離婚しない?』と言った。
これ以上、傷つきたくないから。
それなのに大翔は、『また今度な』と言ってはぐらかす。
今度じゃ駄目だよ、今じゃなきゃ駄目なの。私が契約破ってもいいの⁉ なんて、そんなこと言えないままこの話は流れた。
そろそろ帰ろうかと身支度を整えていると、大翔からラインメッセージが届いた。
『仕事が終わったら社長室に来てほしい』
急速に胸がざわつき、不安に駆られる。
いつもは別々に帰っているのに、どうしてだろう。
話があるなら、自宅でいいはずだ。わざわざ社長室に呼ぶ意味とは?
今朝は離婚を切り出しているので、余計に大翔の真意が気になる。
深呼吸を一つしてから、エレベーターに乗り、最上階のボタンを押した。
最上階のフロアに降り立つと、社長室のドアが開いて高城さんが出てきた。
「お待ちしておりました」
高城さんはまるで執事のように、上品な微笑みを浮かべると、社長室に入るように手で促した。
妙に緊張してしまう。大翔はどうして私を呼び出したのだろう。
社長室に入ると、壁際で夜景を見下ろしていた大翔が、おもむろに振り返った。
目が合うと、独特の緊張感が二人の間に流れた。互いが相手の出方を窺っているような目線の交わし合い。
「デートしよう」
大翔は少し不器用に微笑みながら言った。
「デート?」
思わず眉間に皺を寄せて、聞き返した。
離婚を切り出したばかりなのに、デートしようとはどういうことだろう。
『また今度な』と言っていたから、今朝の話はなかったことにするつもりだろうか。
それにしては、大翔の様子が変だった。傷ついて怯える大型犬のような瞳をしながら、口元には微笑を携えている。
「いい……けど」
断る理由もないので、承諾したけれど、どこか居心地の悪さもあるので目線を逸らして言った。
大翔の顔が真っ直ぐに見られない。離婚しなければという強迫観念にも似た思いが、大翔への恋心に蓋をする。
私がこんなにも大翔を好きだなんて、本人は絶対に気がついていないだろう。気がつかれてもいけないのだけれど。
大翔は私に向かってくると、私の手を取って強引に歩き出した。
社長室を出ると、非常階段を登り、屋上へと繋がる分厚い扉の鍵を開けた。
屋上は社員ですらも出ることを禁止されている。なぜなら屋上には何もなく、あるのは『H』のマークが表記されたヘリポートだけだからだ。
扉を開けると、突風と轟音が体を襲った。
「え! どういうこと⁉」
ヘリコプターが飛行の準備をしている。大翔は迷いなくヘリコプターに近付いていく。パイロットは操縦席に着いており、ヘリコプターの中から関係者らしきスタッフの方が出てきた。
「いつでも離陸可能でございます」
スタッフは恭しく大翔にお辞儀をした。
「急にすまなかったな。ありがとう」
いきなりのヘリコプター登場に驚きを通り越して固まっている私をよそに、大翔はヘリコプターの中に入ると、大きなバラの花束を持って出てきた。
「はい、プレゼント」
大翔は少し気恥ずかしそうに笑いながら、バラの花束を渡してきた。
「あ、ありがとう」
とりあえず受け取ったものの、記念日でもないのに、どうしてバラの花束をプレゼントされたのか意味がわからない。
「さあ、乗ろうか」
大翔が私の腰に手をあてエスコートするようにヘリコプターに誘導する。
「やっぱり乗るの?」
ヘリコプターが目の前にある時点で予想していたとはいえ、心の準備も一切なく乗り込むのは勇気がいった。
「高い所は苦手か?」
私を気遣うような大翔の瞳に、首を振って答える。
「ううん、大丈夫。乗ってみたい」
笑顔で大翔を見つめると、大翔も安心したように目を細めた。
バラの花束を抱えながら、ヘリコプターに乗り込む。大翔は甲斐甲斐しく私のシートベルトを締め、機内にあった専用ヘッドホンを取り、頭に装着してくれた。
そして、自身もシートベルトを締め、ヘッドホンを装着すると、パイロットに合図を送る。
すると、ひときわプロペラの音が大きくなり、浮遊した。
「わあ、本当に飛んだ」
まるで遊園地のアトラクションに乗っているような気分だった。心臓がドクドクと拍動する。すると、私の不安に気がついた大翔は、しっかりと恋人繋ぎをして私を安心させてくれる。
東京の夜景は、まるでジオラマを見ているかのように非現実的だった。地上から見上げると聳え立つように大きく感じるビル群も、上から見下ろすとまるでおもちゃのようだ。
「凄い、綺麗」
感動しているのに、自分の語彙力の低さに呆れる。隣に座っている大翔は、夜景よりも喜んでいる私を見つめて微笑んでいた。
バラの花の匂いに包まれながら、非日常感に酔いしれる。
今朝、おもわず口に出してしまった、離婚の二文字。
大翔と離婚したいのかといったらそうじゃない。むしろ逆で、離婚なんてしたくない。
でも、このままずるずると結婚生活を続けていったら、辛くなるのは目に見えていた。
どんどん大翔が好きになって、離婚することを拒否してしまいそうになるほど。
大翔を好きにならない女だと思ったから私を結婚相手に選んだのに。いつでも離婚できるように。それなのに、好きになって、離婚したくないなんて言ったら契約不尾行だ。そんなの絶対、駄目に決まっている。
だから『そろそろ離婚しない?』と言った。
これ以上、傷つきたくないから。
それなのに大翔は、『また今度な』と言ってはぐらかす。
今度じゃ駄目だよ、今じゃなきゃ駄目なの。私が契約破ってもいいの⁉ なんて、そんなこと言えないままこの話は流れた。
そろそろ帰ろうかと身支度を整えていると、大翔からラインメッセージが届いた。
『仕事が終わったら社長室に来てほしい』
急速に胸がざわつき、不安に駆られる。
いつもは別々に帰っているのに、どうしてだろう。
話があるなら、自宅でいいはずだ。わざわざ社長室に呼ぶ意味とは?
今朝は離婚を切り出しているので、余計に大翔の真意が気になる。
深呼吸を一つしてから、エレベーターに乗り、最上階のボタンを押した。
最上階のフロアに降り立つと、社長室のドアが開いて高城さんが出てきた。
「お待ちしておりました」
高城さんはまるで執事のように、上品な微笑みを浮かべると、社長室に入るように手で促した。
妙に緊張してしまう。大翔はどうして私を呼び出したのだろう。
社長室に入ると、壁際で夜景を見下ろしていた大翔が、おもむろに振り返った。
目が合うと、独特の緊張感が二人の間に流れた。互いが相手の出方を窺っているような目線の交わし合い。
「デートしよう」
大翔は少し不器用に微笑みながら言った。
「デート?」
思わず眉間に皺を寄せて、聞き返した。
離婚を切り出したばかりなのに、デートしようとはどういうことだろう。
『また今度な』と言っていたから、今朝の話はなかったことにするつもりだろうか。
それにしては、大翔の様子が変だった。傷ついて怯える大型犬のような瞳をしながら、口元には微笑を携えている。
「いい……けど」
断る理由もないので、承諾したけれど、どこか居心地の悪さもあるので目線を逸らして言った。
大翔の顔が真っ直ぐに見られない。離婚しなければという強迫観念にも似た思いが、大翔への恋心に蓋をする。
私がこんなにも大翔を好きだなんて、本人は絶対に気がついていないだろう。気がつかれてもいけないのだけれど。
大翔は私に向かってくると、私の手を取って強引に歩き出した。
社長室を出ると、非常階段を登り、屋上へと繋がる分厚い扉の鍵を開けた。
屋上は社員ですらも出ることを禁止されている。なぜなら屋上には何もなく、あるのは『H』のマークが表記されたヘリポートだけだからだ。
扉を開けると、突風と轟音が体を襲った。
「え! どういうこと⁉」
ヘリコプターが飛行の準備をしている。大翔は迷いなくヘリコプターに近付いていく。パイロットは操縦席に着いており、ヘリコプターの中から関係者らしきスタッフの方が出てきた。
「いつでも離陸可能でございます」
スタッフは恭しく大翔にお辞儀をした。
「急にすまなかったな。ありがとう」
いきなりのヘリコプター登場に驚きを通り越して固まっている私をよそに、大翔はヘリコプターの中に入ると、大きなバラの花束を持って出てきた。
「はい、プレゼント」
大翔は少し気恥ずかしそうに笑いながら、バラの花束を渡してきた。
「あ、ありがとう」
とりあえず受け取ったものの、記念日でもないのに、どうしてバラの花束をプレゼントされたのか意味がわからない。
「さあ、乗ろうか」
大翔が私の腰に手をあてエスコートするようにヘリコプターに誘導する。
「やっぱり乗るの?」
ヘリコプターが目の前にある時点で予想していたとはいえ、心の準備も一切なく乗り込むのは勇気がいった。
「高い所は苦手か?」
私を気遣うような大翔の瞳に、首を振って答える。
「ううん、大丈夫。乗ってみたい」
笑顔で大翔を見つめると、大翔も安心したように目を細めた。
バラの花束を抱えながら、ヘリコプターに乗り込む。大翔は甲斐甲斐しく私のシートベルトを締め、機内にあった専用ヘッドホンを取り、頭に装着してくれた。
そして、自身もシートベルトを締め、ヘッドホンを装着すると、パイロットに合図を送る。
すると、ひときわプロペラの音が大きくなり、浮遊した。
「わあ、本当に飛んだ」
まるで遊園地のアトラクションに乗っているような気分だった。心臓がドクドクと拍動する。すると、私の不安に気がついた大翔は、しっかりと恋人繋ぎをして私を安心させてくれる。
東京の夜景は、まるでジオラマを見ているかのように非現実的だった。地上から見上げると聳え立つように大きく感じるビル群も、上から見下ろすとまるでおもちゃのようだ。
「凄い、綺麗」
感動しているのに、自分の語彙力の低さに呆れる。隣に座っている大翔は、夜景よりも喜んでいる私を見つめて微笑んでいた。
バラの花の匂いに包まれながら、非日常感に酔いしれる。
16
あなたにおすすめの小説
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
Marry Me?
美凪ましろ
恋愛
――あの日、王子様があたしの目の前に現れた。
仕事が忙しいアパレル店員の彼女と、王子系美青年の恋物語。
不定期更新。たぶん、全年齢でいけるはず。
※ダイレクトな性描写はありませんが、ややそっち系のトークをする場面があります。
※彼の過去だけ、ダークな描写があります。
■画像は、イトノコさまの作品です。
https://www.pixiv.net/artworks/85809405
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長(吉本)
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
雄一郎 ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師(川木えみ)
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。
ねーさん
恋愛
「氷の彫刻」と呼ばれる美貌の兄を持つ公爵令嬢のクラリッサは不審な視線に悩まされていた。
卒業を二日後に控えた朝、教室のクラリッサの机に置かれた一通の偏執狂者からの手紙。
親友イブを通じてイブの婚約者、近衛騎士団第四分団員のジョーンズに相談すると、第四分団長ネイトがクラリッサのパートナーとして卒業パーティーに出席してくれる事になって───
〈注〉
このお話は「婚約者が記憶喪失になりました。」と「元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?」の続編になります。
恋色メール 元婚約者がなぜか追いかけてきました
國樹田 樹
恋愛
婚約者と別れ、支店へと異動願いを出した千尋。
しかし三か月が経った今、本社から応援として出向してきたのは―――別れたはずの、婚約者だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる