シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜

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第九章 これから始まる結婚生活

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「ありがとう、大翔」

 感動で胸がいっぱいになりながら大翔の目を見てお礼を言うと、大翔はその言葉に胸を打たれたようで、とろけるような笑みを浮かべた。

「ヘリコプター遊覧デートはできても、専用のヘリコプターを持っているのは、日本ではそうそういないだろう」

「そもそも庶民は、ヘリコプターデートなんてしないよ」

 大翔の発言に笑う。規格外のお金持ちだ。

「俺の会社は、平均よりも給料がいい方だと思う。でも、ただの会社員だと、望むもの全てを与えてあげられるほど裕福なわけではない。その点、俺なら捺美の要望に全て応えることができる。エルメスのバッグも、宝石も、海外旅行にだっていつでも行ける」

 大翔はやけに真剣な表情で語りかけた。

 どうしてそんなことを言い出したのだろうと思って、不思議な眼差しで大翔を見つめた。

「俺は誰よりも捺美を幸せにできる」

 確信のこもった声で大翔は告げた。

「私は、お金が欲しいわけじゃないよ」

 大翔を批難するわけでもなく、拒絶するわけでもなく、眉を下げて微笑みを投げた。

 私が大翔を好きになったのは、お金持ちだからじゃない。大翔が普通の会社員でも好きになっていたと思う。大翔と一緒にいるのは居心地が良くて、自然と胸が高鳴るのだ。理屈じゃなく、ただ大翔が好きなだけだ。

「そうだな。大切なのはお金じゃない」

 そして、大翔は大きく息を吸い込むと、覚悟を決めたかのように驚きの発言を口にした。

「俺は誰よりも捺美を愛している。断言できる、信じてほしい」

 真剣な眼差しで愛の言葉をぶつけられ、息が止まった。

「本当?」

 信じてほしいと言われたにも関わらず、震える声で思わず聞いてしまう。

 だって、大翔が私を好きだなんて、信じられない。

「ああ、本当だ」

 大翔は真剣な表情ではっきりと告げた。

 胸が高鳴る。一番、求めていた言葉だ。

 私は、大翔の愛が欲しかった。

 胸の奥から喜びが込み上がるように、涙で視界が滲んだ。

 これ以上好きになってはいけないと、必死で蓋をしていた気持ちが溢れだす。

「離婚、しなくていいの?」

「しない。したくない。ずっと俺の側にいてほしい」

 溢れた涙が頬を伝う。

「私も、大翔の側にずっといたい」

 零れ出た私の言葉に、大翔は驚いたように目を見開いた。

 そして、大翔は泣き笑いのように顔を歪ませると、身を乗り出して私を抱きしめた。

 シートベルトをしているから、正面から抱き合えないが、それでも十分気持ちは伝わった。

「佐伯と一緒に海外なんて行くな」

 大翔の言葉に、思考が止まる。

「どうして知っているの?」

 今日、佐伯さんに『一緒についてこないか』と打診されたことを思い出す。

「いや、ちょっと、風の噂で」

 大翔の声が上擦っている。とてつもなく怪しい。

 抱き合っていた体を離し、私は座った目で大翔を睨みつける。

「何か勘違いしていない? 私が佐伯さんについていくはずないでしょ。佐伯さんとは上司と部下の関係であって、佐伯さんを男として見たことは一度もないの」

「じゃあ、断ったのか?」

 大翔は大輪の花が咲き綻ぶように、清々しい笑顔を見せた。

「だから、どうして知っているのよ」

「会社の人事のことだから、社長の耳に入ってもおかしくないだろう」

 佐伯さんが部長あたりに言ったっていうこと?

 そんなこと話すだろうか。もしかしたら私を海外赴任に連れていってもいいか、佐伯さんが部長に言っていたとか?

「まあ、そんなことはどうでもいいだろう。そうだよな、俺の方が佐伯より何倍もいい男だからな」

 大翔は満更でもない顔で自慢げに言った。

「佐伯さんは大翔よりも落ち着いていて、真面目で紳士的よ」

「おい」

 大翔は目を細めて、不機嫌な物言いだった。

「佐伯さんの方がタイプとして好きな女性は多いかもしれない」

 大翔の眉が寄る。意地悪で言っているわけではなく、おそらく事実だ。

「でも、私は大翔が好き。大翔と一緒にいるとドキドキするけれど、佐伯さんと二人きりになってもときめいたことはないの」

 なぜかはわからない。でも、本能が大翔を求めているのだ。

「そうか」

 大翔は嬉しさを押し殺すように、小さく呟いたけれど、口元の緩みは隠せていなかった。

 だいぶ失礼なことを言ったけれど、まったく気にしていないようで良かった。というよりも、たぶん前半部分は綺麗に忘れている。そういうところも、一緒にいて居心地がいい。

 大翔も口が悪いけれど、私も大概口が悪い。佐伯さん相手なら、こんなことは言えない。

 佐伯さんはとてもいい人だけど、素でいられるのは大翔の前だけだ。

「あのさ、今夜は俺の部屋で一緒に寝ないか?」

 大翔は伺うような目で口火を切った。手はしっかりと恋人繋ぎをしている。

 私が返事をできずに固まっていると、畳みかけるように大翔が訊ねる。

「嫌?」

 またずるい言い回し。でも、そういうところも嫌いじゃない。

 私は大翔から目線を外して、煌めくような夜景を見下ろしながら答えた。

「……嫌、じゃ……ない」
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