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第十ニ章 きっと運命だった
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「捺美を見失った⁉」
なにやっている、バカか!
心の中で思うも、さすがに口にはできない。
突然、携帯に向かって大きな声を出したので、八王子駅のロータリーにいた人々が俺をチラチラみてくる。
捺美を追いかけていた探偵は、急に腹が痛くなったらしく、八王子駅のトイレに駆け込んで用を済まして出てくると、捺美を見失っていたらしい。
探偵の人数を増やすように指示はしていたが、義理の母親や娘、そして父親の動向にも付かせていたため、彼らが出払っているとき、実家を見張っていたのは一人しかいなかった。
捺美が八王子に向かっていると聞いた俺は、すぐに電車に乗ってあとを追う。そして八王子駅に着いて電話をしたら、見失ったという報告を受けたところだ。
(どこに行った……)
駅のロータリーを見渡して、途方に暮れる。八王子は、捺美が以前住んでいた場所だ。昔住んでいた場所に行ったのか? それとも……。
とりあえずタクシーに乗り、行き先を告げる。
捺美が住んでいた場所は知らない。俺が知っているのは、あの場所だけだ。
いるかどうかはわからない。でも、そこに行けと〝昔の俺〟が言っていた。
あの日、俺は死に場所を求めて八王子駅に来ていた。
どうして八王子だったのか。たまたま終着駅が八王子だったからだ。
そして、八王子で自殺できそうな場所を携帯で調べて滝山城址に辿り着いた。滝山城址のことはよく知らない。たまたま検索がヒットしただけだ。
山道の階段を登ると、すごく嫌な気配がした。死者が手招きしているような錯覚がして、身震いする。
頂上に着くと、広大な草地が太陽に照らされていた。明るく開放的な場所だったのに、俺は不気味に思えてならなかった。
おそらく、滝山城址は心霊スポットで有名というネット記事を読んでしまっていたからだろう。ここでたくさんの人が亡くなったという歴史を考えると、土塁や井戸の見方も変わる。
その頃の俺は、生きていること自体が苦痛だった。自分の未来は、すでに生まれ落ちた瞬間から決まっていた。俺は跡取りとして誰よりも優れていなければいけないし、失敗なんて許されない。
両親の死に方は強烈だったし、学校に行けば生意気だのなんだのと難癖をつけられていじめられた。
家にも居場所はないし、学校にも居場所がない。未来にも希望が持てないし、それならどうして苦痛しかない人生を送る必要があるのかと思って、俺は自殺を決意した。
どこでなら死ねるだろうと辺りを探索していると、井戸の後ろから女の子が現れた。
幽霊だと思った俺は、女子のような甲高い悲鳴を上げた。するとその女の子も驚いて、俺よりも大きい声で悲鳴を上げた。
お互いに驚いているので、生身の人間だったのかと気付く。バツの悪さを感じ、つっけんどんな口調で虚勢を張った。
「うるせぇよ、俺は人間だぞ」
「そんなことわかっているよ! そっちが大きい声出したから驚いたの!」
女の子は頬を膨らませて怒りを表した。青い小花柄のワンピースに、麦わら帽子を被っている。俺よりも背はだいぶ小さかった。
「お前、何年だ?」
「え? 小学二年生だけど」
「俺は六年だ。口を慎め」
口を慎めという言葉の意味がわからなかったようで、きょとんとしている。これだからガキは嫌だ。
「お前、こんなところでなにをしている。子どもが遊ぶところじゃないだろう」
「君だって子どもでしょ!」
「俺は六年だ。ガキと一緒にするな」
「君こそなにしに来たの?」
「俺は……」
どうする? 本当のことを言うか? 今知り合ったばかりの子に。でも、俺はもう死ぬわけだし、最後に人と本音で話すのも悪くはないか。
「俺は自殺しにきた。ここは心霊スポットって知らないのか? この崖から飛び降りて死ねば遺体も見つからずひっそりとこの世からいなくなれるだろう。つまり、ガキが遊びにくる場所じゃない。さっさと帰れ」
「心霊? 幽霊が出るってこと? まさか、私はよくここにくるけど見たことないよ。それより君、死にたいの? どうして?」
「ガキに説明してもわかりっこないさ。俺の苦悩は海より深いからな」
「自分だけが不幸とか思っているの、ダサ」
腕を組み、目を細めて見下した口調で言われた。俺は頭にカーっと血がのぼって大きな声で詰め寄る。
「お前になにがわかる! 親が死んだ苦しみなんて、まともに想像すらできないだろ!」
「私のお母さんも死んだよ」
「え?」
「一年前に病気で」
嘘を言っているようには見えなかった。一瞬言葉に詰まったが、反論する。
「俺は両親が死んだ。俺の方が不幸だろ」
「お父さんは、最近再婚したの。意地悪な継母と継姉ができて、一緒に住まなきゃいけないの。両親がいない方がマシでしょ」
たしかにそれは嫌だなと思った。だが、妙な対抗心が芽生えているので、負けられない。
「俺は、ずっと不登校だった。ようやく学校に行けるようになったと思ったらいじめられる。最悪だろ?」
「私だって友達一人もいないけど?」
なんでもないことのように言われてたじろぐ。
「それに俺はお金持ちで、家業を継がなきゃいけない。勉強だってスポーツだって一位を獲るのが当たり前で、失敗は許されない。わかるかよ、このプレッシャーが」
「一位獲れるわけでしょ。じゃあ、いいじゃない。私は例え一位を獲ったって褒められない。求められてもいない。空気どころか邪魔な存在なの」
なんだか、反論するのがバカらしくなってきた。そもそもどちらが不幸かを競うなんておかしい。
「お前も大変なのは、認めてやるよ」
「君も大変だね」
互いに労うと、肩の力が抜けた。原っぱに腰かけて、空を見上げる。すると、女の子も俺の隣に腰かけた。
なんだかドキドキする。この子、よく見ると可愛いし、歳のわりに妙に大人びている。
「私は悔しいから絶対死なない。私が死んだらあいつら喜ぶと思う。だから、意地でも死んでやらない」
「お前、強いな」
女の子の瞳は、辛い思いを乗り越えた者しかわからない深い悲しみの色が淀んでいた。
「生きていたらさ、きっといいこともあると思うの。私は、自分の力で幸せを掴み取ってみせる。そのために頑張るって決めたの。私は誰のためでもない、自分のために頑張るの」
胸に深く刺さった。
(自分のために頑張る……)
そんなこと考えたことなかった。勉強もスポーツも、周りが一位を期待するから、そうあらねばならないと思っていた。でも、そうか、自分のためか。自分の力で幸せになるのか。幸せは、他者や環境から与えられるものじゃない。自分の力で掴み取るものなのか。
自分よりも幼く、小さな女の子が、とても大きく感じた。
「俺、自殺はやめようと思う。お前も頑張っているからな」
「うん、それがいいと思うよ」
柔らかく微笑んだ彼女の可愛さと、芯の強さに胸を打たれる。
初めて恋に落ちた瞬間だった。
「俺は伊龍院大翔。お前は?」
「私は工藤捺美」
「ここに来れば、また会えるか?」
すると、彼女は悲しそうに首を振った。
「引っ越しするの。だからもう、ここには来られない」
「どこに?」
「知らない。聞いても、うるさいって言って教えてくれない」
「携帯はある?」
「もってない」
そうだよな、と思って落胆する。俺たちはまだ小学生で、大人の都合に振り回される。もう二度と会えないのかと思うと胸が苦しくなった。
「俺さ、今後どんなに辛いことがあっても、お前も頑張っているのだから俺も頑張ろうって思うことにするわ」
俺の言葉に、〝捺美〟は嬉しそうに笑った。
これが、俺と捺美との出会いだった。
あの時以来の滝山城址。
薄気味悪く思えた山道だが、大人になった今見てみると、なにが怖かったのかわからない。普通によくある山道だ。
会社から飛び出してきたので、スーツに革靴。およそ山には不釣り合いな格好だが、そんなことどうだっていい。気合を入れて山道を駆け上がった。
頂上に着き、辺りを見渡すと、崖近くに一人の女性が立っていた。
昔の捺美を思い出して、感慨深くなる。
あれからずっと、捺美を心の支えにして生きてきた。自分のために一位を獲ると思ったら楽しくなってきて、周りは気にしなくなった。
絶対に継がなければいけないものだと思っていたけれど、自分の意志で選択できるのだと気がついた。もちろん、大きな反対に合うだろうが、それらを跳ねのけるほどの実力を蓄えていた。
俺はなんでもできるし、何者にもなれると思ったら、やりたいことは家業を継ぐことだと気がついた。二代目は無能だと世間は固定観念から思っている。だからこそ、覆してやりたい。俺が、じいちゃんの会社を、もっとでかくして世界に通用する企業にのし上げてみせると闘志が湧いた。
そして本格的に経営に携わり、社長になった頃、捺美と再び出会った。
最終面接に捺美が来たとき、運命だと思った。
俺は一目見て、あのときの女の子だとわかったけれど、捺美は俺のことを忘れてしまったようだった。
面接官の質問に答える捺美は、堂々としていて話し方も聡明だった。根性と意思の強さは相変わらずで、変わっていないことが嬉しかった。
ただ、一つだけ大きく変わっていたことがあった。昔は、明るくエネルギッシュな雰囲気だったのに、憂いの影をまとっていたことだ。
大人になった捺美は誰もが息を飲むほど美しく成長していたが、人との間に大きな壁を作っているので、なかなか気軽に話しかけられる雰囲気ではない。
彼女の希望する職種に限ったことではないが、コミュニケーション能力も必要だし、愛想の良さも重要だ。それに捺美の学歴は他の応募者よりも低かったので、採用に難色を示す面接官もいた。
ただ、学歴で採用を選ぶ方針は俺の代で撤廃していたので、捺美はからくも採用を勝ち取った。
捺美が入社してから折を見て様子を見に行ったりしていたが、肝心の本人が俺のことを忘れていたので話しかけることができなかった。
運命だと思っていたのは俺だけで、きっと運命じゃなかったのだと自分に言い聞かせていた。それが、急展開で結婚することになって今に至る。
捺美との出会いは、運命か、運命じゃないかって?
そんなの、決まっている。たとえ運命じゃなかったとしても、俺が運命にしてみせる。
俺の人生は、俺の手で切り開く。
捺美、お待たせ。助けにきたよ。俺が、捺美を闇の世界から救い出す。
「捺美を見失った⁉」
なにやっている、バカか!
心の中で思うも、さすがに口にはできない。
突然、携帯に向かって大きな声を出したので、八王子駅のロータリーにいた人々が俺をチラチラみてくる。
捺美を追いかけていた探偵は、急に腹が痛くなったらしく、八王子駅のトイレに駆け込んで用を済まして出てくると、捺美を見失っていたらしい。
探偵の人数を増やすように指示はしていたが、義理の母親や娘、そして父親の動向にも付かせていたため、彼らが出払っているとき、実家を見張っていたのは一人しかいなかった。
捺美が八王子に向かっていると聞いた俺は、すぐに電車に乗ってあとを追う。そして八王子駅に着いて電話をしたら、見失ったという報告を受けたところだ。
(どこに行った……)
駅のロータリーを見渡して、途方に暮れる。八王子は、捺美が以前住んでいた場所だ。昔住んでいた場所に行ったのか? それとも……。
とりあえずタクシーに乗り、行き先を告げる。
捺美が住んでいた場所は知らない。俺が知っているのは、あの場所だけだ。
いるかどうかはわからない。でも、そこに行けと〝昔の俺〟が言っていた。
あの日、俺は死に場所を求めて八王子駅に来ていた。
どうして八王子だったのか。たまたま終着駅が八王子だったからだ。
そして、八王子で自殺できそうな場所を携帯で調べて滝山城址に辿り着いた。滝山城址のことはよく知らない。たまたま検索がヒットしただけだ。
山道の階段を登ると、すごく嫌な気配がした。死者が手招きしているような錯覚がして、身震いする。
頂上に着くと、広大な草地が太陽に照らされていた。明るく開放的な場所だったのに、俺は不気味に思えてならなかった。
おそらく、滝山城址は心霊スポットで有名というネット記事を読んでしまっていたからだろう。ここでたくさんの人が亡くなったという歴史を考えると、土塁や井戸の見方も変わる。
その頃の俺は、生きていること自体が苦痛だった。自分の未来は、すでに生まれ落ちた瞬間から決まっていた。俺は跡取りとして誰よりも優れていなければいけないし、失敗なんて許されない。
両親の死に方は強烈だったし、学校に行けば生意気だのなんだのと難癖をつけられていじめられた。
家にも居場所はないし、学校にも居場所がない。未来にも希望が持てないし、それならどうして苦痛しかない人生を送る必要があるのかと思って、俺は自殺を決意した。
どこでなら死ねるだろうと辺りを探索していると、井戸の後ろから女の子が現れた。
幽霊だと思った俺は、女子のような甲高い悲鳴を上げた。するとその女の子も驚いて、俺よりも大きい声で悲鳴を上げた。
お互いに驚いているので、生身の人間だったのかと気付く。バツの悪さを感じ、つっけんどんな口調で虚勢を張った。
「うるせぇよ、俺は人間だぞ」
「そんなことわかっているよ! そっちが大きい声出したから驚いたの!」
女の子は頬を膨らませて怒りを表した。青い小花柄のワンピースに、麦わら帽子を被っている。俺よりも背はだいぶ小さかった。
「お前、何年だ?」
「え? 小学二年生だけど」
「俺は六年だ。口を慎め」
口を慎めという言葉の意味がわからなかったようで、きょとんとしている。これだからガキは嫌だ。
「お前、こんなところでなにをしている。子どもが遊ぶところじゃないだろう」
「君だって子どもでしょ!」
「俺は六年だ。ガキと一緒にするな」
「君こそなにしに来たの?」
「俺は……」
どうする? 本当のことを言うか? 今知り合ったばかりの子に。でも、俺はもう死ぬわけだし、最後に人と本音で話すのも悪くはないか。
「俺は自殺しにきた。ここは心霊スポットって知らないのか? この崖から飛び降りて死ねば遺体も見つからずひっそりとこの世からいなくなれるだろう。つまり、ガキが遊びにくる場所じゃない。さっさと帰れ」
「心霊? 幽霊が出るってこと? まさか、私はよくここにくるけど見たことないよ。それより君、死にたいの? どうして?」
「ガキに説明してもわかりっこないさ。俺の苦悩は海より深いからな」
「自分だけが不幸とか思っているの、ダサ」
腕を組み、目を細めて見下した口調で言われた。俺は頭にカーっと血がのぼって大きな声で詰め寄る。
「お前になにがわかる! 親が死んだ苦しみなんて、まともに想像すらできないだろ!」
「私のお母さんも死んだよ」
「え?」
「一年前に病気で」
嘘を言っているようには見えなかった。一瞬言葉に詰まったが、反論する。
「俺は両親が死んだ。俺の方が不幸だろ」
「お父さんは、最近再婚したの。意地悪な継母と継姉ができて、一緒に住まなきゃいけないの。両親がいない方がマシでしょ」
たしかにそれは嫌だなと思った。だが、妙な対抗心が芽生えているので、負けられない。
「俺は、ずっと不登校だった。ようやく学校に行けるようになったと思ったらいじめられる。最悪だろ?」
「私だって友達一人もいないけど?」
なんでもないことのように言われてたじろぐ。
「それに俺はお金持ちで、家業を継がなきゃいけない。勉強だってスポーツだって一位を獲るのが当たり前で、失敗は許されない。わかるかよ、このプレッシャーが」
「一位獲れるわけでしょ。じゃあ、いいじゃない。私は例え一位を獲ったって褒められない。求められてもいない。空気どころか邪魔な存在なの」
なんだか、反論するのがバカらしくなってきた。そもそもどちらが不幸かを競うなんておかしい。
「お前も大変なのは、認めてやるよ」
「君も大変だね」
互いに労うと、肩の力が抜けた。原っぱに腰かけて、空を見上げる。すると、女の子も俺の隣に腰かけた。
なんだかドキドキする。この子、よく見ると可愛いし、歳のわりに妙に大人びている。
「私は悔しいから絶対死なない。私が死んだらあいつら喜ぶと思う。だから、意地でも死んでやらない」
「お前、強いな」
女の子の瞳は、辛い思いを乗り越えた者しかわからない深い悲しみの色が淀んでいた。
「生きていたらさ、きっといいこともあると思うの。私は、自分の力で幸せを掴み取ってみせる。そのために頑張るって決めたの。私は誰のためでもない、自分のために頑張るの」
胸に深く刺さった。
(自分のために頑張る……)
そんなこと考えたことなかった。勉強もスポーツも、周りが一位を期待するから、そうあらねばならないと思っていた。でも、そうか、自分のためか。自分の力で幸せになるのか。幸せは、他者や環境から与えられるものじゃない。自分の力で掴み取るものなのか。
自分よりも幼く、小さな女の子が、とても大きく感じた。
「俺、自殺はやめようと思う。お前も頑張っているからな」
「うん、それがいいと思うよ」
柔らかく微笑んだ彼女の可愛さと、芯の強さに胸を打たれる。
初めて恋に落ちた瞬間だった。
「俺は伊龍院大翔。お前は?」
「私は工藤捺美」
「ここに来れば、また会えるか?」
すると、彼女は悲しそうに首を振った。
「引っ越しするの。だからもう、ここには来られない」
「どこに?」
「知らない。聞いても、うるさいって言って教えてくれない」
「携帯はある?」
「もってない」
そうだよな、と思って落胆する。俺たちはまだ小学生で、大人の都合に振り回される。もう二度と会えないのかと思うと胸が苦しくなった。
「俺さ、今後どんなに辛いことがあっても、お前も頑張っているのだから俺も頑張ろうって思うことにするわ」
俺の言葉に、〝捺美〟は嬉しそうに笑った。
これが、俺と捺美との出会いだった。
あの時以来の滝山城址。
薄気味悪く思えた山道だが、大人になった今見てみると、なにが怖かったのかわからない。普通によくある山道だ。
会社から飛び出してきたので、スーツに革靴。およそ山には不釣り合いな格好だが、そんなことどうだっていい。気合を入れて山道を駆け上がった。
頂上に着き、辺りを見渡すと、崖近くに一人の女性が立っていた。
昔の捺美を思い出して、感慨深くなる。
あれからずっと、捺美を心の支えにして生きてきた。自分のために一位を獲ると思ったら楽しくなってきて、周りは気にしなくなった。
絶対に継がなければいけないものだと思っていたけれど、自分の意志で選択できるのだと気がついた。もちろん、大きな反対に合うだろうが、それらを跳ねのけるほどの実力を蓄えていた。
俺はなんでもできるし、何者にもなれると思ったら、やりたいことは家業を継ぐことだと気がついた。二代目は無能だと世間は固定観念から思っている。だからこそ、覆してやりたい。俺が、じいちゃんの会社を、もっとでかくして世界に通用する企業にのし上げてみせると闘志が湧いた。
そして本格的に経営に携わり、社長になった頃、捺美と再び出会った。
最終面接に捺美が来たとき、運命だと思った。
俺は一目見て、あのときの女の子だとわかったけれど、捺美は俺のことを忘れてしまったようだった。
面接官の質問に答える捺美は、堂々としていて話し方も聡明だった。根性と意思の強さは相変わらずで、変わっていないことが嬉しかった。
ただ、一つだけ大きく変わっていたことがあった。昔は、明るくエネルギッシュな雰囲気だったのに、憂いの影をまとっていたことだ。
大人になった捺美は誰もが息を飲むほど美しく成長していたが、人との間に大きな壁を作っているので、なかなか気軽に話しかけられる雰囲気ではない。
彼女の希望する職種に限ったことではないが、コミュニケーション能力も必要だし、愛想の良さも重要だ。それに捺美の学歴は他の応募者よりも低かったので、採用に難色を示す面接官もいた。
ただ、学歴で採用を選ぶ方針は俺の代で撤廃していたので、捺美はからくも採用を勝ち取った。
捺美が入社してから折を見て様子を見に行ったりしていたが、肝心の本人が俺のことを忘れていたので話しかけることができなかった。
運命だと思っていたのは俺だけで、きっと運命じゃなかったのだと自分に言い聞かせていた。それが、急展開で結婚することになって今に至る。
捺美との出会いは、運命か、運命じゃないかって?
そんなの、決まっている。たとえ運命じゃなかったとしても、俺が運命にしてみせる。
俺の人生は、俺の手で切り開く。
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