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6(side フィーリア)
しおりを挟む周囲に目配せをすれば、確かに先程までいらっしゃったある方の存在が見当たらない。大方ベアトリス様の登場により血相を変えて、何処かへ行ってしまったのだろう。
「お久しぶり……? 大変申し訳ないが心当たりが無いな」
「まあ残念ですわ。でも、仕方ないですわね。ビジュー王子殿下は覚えていらっしゃらないのかもしれません。何せ私達は、幼少期に一度だけお会いした程度ですものね」
訝しげな様子のヴァルル王子はベアトリス様を何方か存じ上げないようで、上から下まで一瞥している様子。
一方のベアトリス様は心底残念と肩を落とし、覚えてないのも無理はないですわ、などと帝国のただの一介の令嬢ともとれる雰囲気だ。王子側の周囲も彼女の介入と帝国からの使いの者と言う事に目を見張るが、一人は意を唱えたにも関わらず、眼中にもされていなかった為に苛立ちが透けて見える。何も無ければいいけれどと思うが、今は暫し見守るしかない。
「まあ、良い。今大事な審議の最中なんだ、いくら帝国からの使いだとはいえ、君のような一介のご令嬢が割って入れるところでは無い。立場を弁えたまえ」
「ええ、そうなんですのよ。その事について、ぜひご相談させて頂こうかと思いまして、こちらに合間見えましたの! 御無礼承知で恐縮ではございますが、ビジュー王子殿下……フィーリア侯爵令嬢と婚約破棄をなさると言うのは本当に本当の事何ですの?」
嘗められているだろうと恐らく本人も理解しているのだろう。
そんなものは一切構わず、ずいずいと迫り来る勢いで問い掛けるベアトリス様に、場を乱されたのもあるのだろうが、ベアトリス様が近づく度に一歩また一歩と後退るヴァルル王子。
「あ、ああ! そうだ」
「二言はございませんか?」
「ああ、そうだよ! 僕はフィーリアとは婚約破棄をし、ローズマリーと結婚を前提に婚約をすると言っているんだ! 二言も無い!!」
何度も聞き返され、痺れを切らしたヴァルル王子が声を上げて言い切った。迫り来る勢いの彼女をきっと止めたかったのだろう。
うん、多分苦手なタイプよね。
どちらかと言えば王国では謙虚で、慎ましやかで控えめな方が好まれる。彼女は凄く堂々としている全く持って真逆なタイプで、何より帝国民だ。帝国では女性の進出も目覚ましいので、ベアトリス様のような人は立場にも異なるが、それほど珍しい訳では無い。
彼女はきっと、愉快そうに笑っているのだろうなと表情は後ろに座っている為見えないがそう思う。
「──その言葉しかと受け取りました。それでは、私が帝国の名の元に、その婚約破棄を承認致しましょう。こう見えても私、皇室からの使いの者ですのよ」
ベアトリス様はバッといつの間に準備していたのか扇を広げ、ヴァルル王子を指し示した後、直ぐに顔半分を隠すように持った。
恐らくあの扇には帝国の紋章が刻まれている。それだけでも、この状況が既に異質だと気付いてくれたら良いのだけれど。
しかし、王子殿下は少々面食らった様子を見せたが、その方が都合が良いとこちらに有利に事が進んでいると思ったのだろう。その言葉を理解するととても嬉しそうに笑った。
「きっと、表情筋を保つのが耐えられなくなったのでしょうね……」
そこに不意に私の近くで待機をしているベアトリス様付きの従者エクラは、ボソリと呟くと哀愁を漂わせた。目線の先には常にベアトリス様がいる。私以外には恐らく聞こえていない言葉に苦笑すると慌てて扇で顔を隠す。
そもそもヴァルル王子殿下は彼女の正体に気づいてないのだろうな、と思わずにはいられない。
でも、私としてももうこれ以上、醜態を晒さず、婚約破棄も王国よりも権威のある帝国に承認されて、終わりになればもう私だけが多少の被害を被るだけで済む。
ただ彼女がそれだけで、終わるとは思えなかった。
「それは願ってもない事だな」
「ええ、その代わりにフィーリア・ディプロマシ侯爵令嬢を帝国が貰い受けても宜しいですわね?」
「何だ、そんな事なら別に構わない。好きにしてくれ」
「なっ!? ヴァルル殿下!」
ヴァルル王子殿下は、私を見る事も無く、寧ろこれからもう私を見なくても済むのならと考えるまでも無く、即行で了承した。目の前にいる私の同意もお構い無しだ。
また周囲がざわめき出すと同じく今まで後ろに控えていた伯爵子息がヴァルル王子の名を叫んだ。
どうした? と言う顔のヴァルル王子に対して直ぐに押し黙った。ぐっと何かを堪え、こちらを切なげに見る素振りの彼に不思議に思うも、それ以上に私の処遇が別方向に歪曲してしまったのに、驚いてしまいあまり気に留める事もしなかった。
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