親友令嬢が婚約破棄されたので、隣国の使者ですが貰っても宜しいですよね?

あらわ 宵

文字の大きさ
12 / 19

終幕の狂想曲

しおりを挟む


『そもそも何であんたが、だってあんたが星の名を賜わるのもここに来るのも有り得ないのに、だってそうでしょう? 本当は私がその名は、私が貰うはずだったのにこんなに可愛いくて、これから王太子妃になる筈だったのに! あんたは私を助ける為だけのただの脇役姫だったはずなのに!!』


 地団駄を踏む子爵令嬢は周りにはわからない言語で話を始めるとヴァルル王子殿下の手から離れ、勢い良くこちらに迫って来た。少し目を見開くも彼女の手が私に掴みかかる事も何かされる事も無く、従者エクラが瞬時に反応し、駆け付けると彼女を取り押さえ、身動きを封じた。

 突然の子爵令嬢の行動に止めることも出来ず唖然と立ち尽くす王子殿下と騎士子息。周りは何を言ってるのかわからず、ただ狂ったように乱心している令嬢に対して影で何かを囁き合う。


『あら、貴方もその言葉が話せますのね』

『な、何でアンタもまさか……』


 少し驚きはしても、私はぱあっと嬉しそうな笑みを浮かべると取り押さえられた子爵令嬢にこちらから近付き、耳元に囁いた。


『でも、残念ですわね。その言葉はこの世界には存在しないんですのよ?』


 まあ、でも、もしかしたらまだ行けていない海に囲まれた東の異国になら通じる言語かも知れませんけど。等とは決して伝える事は無い。
 その事を何の交友もない、今日初めて会った彼女に教える必要がどこにあるのだろう。ましてや、こちらに刃向かって来た者に淡い期待をさせるなんて。どっちにしても、彼女はもうそこに行くすべも無いのだから。

 その言葉を聞いた瞬間、嘘よ、だってこの言葉は等とぶつぶつとここにはある筈の無い物を繰り返し呟く。
 しかし、我に返ったように何を思ったのか壊れた機械のように戦意を消失した彼女は、私にだけわかる異国の言葉でまた何かを口走るも、それは誰にも理解される事は無く、子爵令嬢は駆け付けるのが後手に回っている王国護衛騎士に引き渡された。それにもずっと心配している様子であった騎士子息が近付くもそれすら気付く事も無かった。


「……申し訳ない、ベアトリス皇女。他の者の処遇は改めてお伝え致します。此度は大変不徳の致すところご迷惑をお掛け致しました。直ちに彼らは、全員退場させ、危害を加えようとした子爵令嬢にはそれ相応の処罰を」

「あら、退場させなくて良いですわ。だって、まだダンスも始まってませんし、他国の貴賓の方も皆様とは話したいと思いますわ。だって、こんなに注目をお集めになったんですよ? こんな状態で退場されたら……それこそ諸外国に失礼ではありませんか?」

「で、ですが、ベアトリス皇女殿下それあまりにも」


 憔悴しきってしまった国王陛下は、それでも人の親だった。今すぐにでも王子をこの場から解放したいだろう。
 そもそも謝罪をするべき者も謝罪をするべき相手すら違うのだけれどとは、言わなかった。国王陛下の進言はご最もな話ではあるが、誰がこの場からの退席を許すと言ったのか。皇帝陛下はそうしても、皇后陛下はそうはしないだろう。
 それに、私は愚か者に容赦は一切しない。


「だって、彼は継承権は無くなりましたが、王子でしょう? この舞台の主役ですのに、途中退場何て赦され無い。他の配役も同義です。確りお相手をして頂かないと……皆様お待ちかねですよ」


 周囲には今か今かと妖しげに目を輝かせている貴賓と来賓の存在があった。帝国と同等の地位を持つ諸外国を含めこの不祥事に爪を研ぎ、今か今かと待ち侘びている者と好奇の視線が一斉にヴァルル王子達を貫いている。


「国王陛下は大変慈悲深い方だとお父様からお伺いしております。この意味がおわかり頂けますね?」


 ふふっとにこやかに笑うと国王陛下は苦悶の顔をした後、何も返答せず、手を挙げる。そうすると楽器の演奏が始まり、わっと歓声が湧いた。
 まるで、その舞台が無かったとでも言うように周囲を囲んでいた者が続々と動き出す。勿論、無かった事になる訳も無いのは残って動かずにずっとこちらに狙いを定めている貴婦人方やその他貴賓を見ればわかるのだけれど。

 その奏でられる狂想曲を了承と取り、スっと一歩引くと軽くお辞儀をする。
 これで、もう何の用も無くなった。
 後の始末は、この祝宴が終わってからでもなんら問題は無かった。何よりも今此処で、それ以上の事に言及してしまうのは、無粋な事だろう。何より帝国と同等の諸外国の貴賓に対してこれ以上は大変不躾で、配慮に欠けた行ないになってしまう。


「それでは、皆様。これにて劇は終幕となりました。私は、親友であるフィーリア令嬢が心配ですので、一足先に退室させていただきます。改めまして、皆様、ご卒業おめでとうございます。今宵の宴を心行くまでお楽しみ下さいませ」


 満面の笑みで完璧なお辞儀を披露すると、後ろに振り返る。今まで見守っていたフィーリア令嬢は何とも言えない表情をしているように見えたが歩み寄り、手を差し出す。フィーリア令嬢は気持ちを伝えるかのようにその手を力強く握り返してくれた。
 礼儀がなってない等とは言わせない。
 私はただ友人の名誉を守る為に動いたそれだけなのだから。
 二人でそのまま扉の前でまた会釈をしてから会場を後にした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました

丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、 隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。 だが私は知っている。 原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、 私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。 優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。 私は転生者としての知識を武器に、 聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、 王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。 「婚約は……こちらから願い下げです」 土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。 私は新しい未来を選ぶ。

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

婚約破棄されたから、とりあえず逃げた!

志位斗 茂家波
恋愛
「マテラ・ディア公爵令嬢!!この第1王子ヒース・カックの名において婚約破棄をここに宣言する!!」 私、マテラ・ディアはどうやら婚約破棄を言い渡されたようです。 見れば、王子の隣にいる方にいじめたとかで、冤罪なのに捕まえる気のようですが‥‥‥よし、とりあえず逃げますか。私、転生者でもありますのでこの際この知識も活かしますかね。 マイペースなマテラは国を見捨てて逃げた!! 思い付きであり、1日にまとめて5話だして終了です。テンプレのざまぁのような気もしますが、あっさりとした気持ちでどうぞ読んでみてください。 ちょっと書いてみたくなった婚約破棄物語である。 内容を進めることを重視。誤字指摘があれば報告してくださり次第修正いたします。どうぞ温かい目で見てください。(テンプレもあるけど、斜め上の事も入れてみたい)

不器量で可愛げが無くて僻みっぽくて小賢しい私の話

あんど もあ
ファンタジー
王太子が真実の愛とか言って婚約破棄を宣言。廃太子と決まりました。おかげで妹の私に王太子になれと言われたのですが、不器量で可愛げが無くて僻みっぽくて小賢しくて政略結婚の役にも立たないと言われていた私がですか?

「お前の代わりはいくらでもいる」と笑った婚約者が、翌日から報告書一枚書けなくなった件

歩人
ファンタジー
子爵令嬢リーゼロッテの取り柄は、文章を書くことだけ。 華やかさのかけらもない彼女は、婚約者アルベルトの政務報告、外交書簡、 演説原稿——その全てを代筆していた。 「お前の代わりはいくらでもいる」 社交界の花形令嬢に乗り換えたアルベルトは、笑ってそう言った。 翌日から、彼の机の上には白紙の報告書だけが積み上がっていく。 ——代わりは、いなかった。

処理中です...