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その後(side フィーリア)
しおりを挟むそれから三日が過ぎて、正式な婚約解消の通達が届いた後、更に一週間が過ぎて、計十日と言う異例の速度で、侯爵家の濡れ衣は晴れた。
元々、ただ順当に、真髄に職務を全うしていたのだ。その信憑性は評価されるなら兎も角として、汚名を着せようなどと言語道断である。まあ、そうはいかないのが貴族社会ではある。
何より尽力してくれたベアトリス皇女殿下の存在は大きかった。彼女の専属従者であるエクラは、ある程度調べてあげていた事もあった為、そんなに時間をかける事も無かったとは聞いてはいたけれど。
言葉の応酬で、彼女に勝てる者など、私を含めても知ってる限り場数を踏んだ数人がいい勝負と言ったところだと思っている。
デルニエール公爵家は、全責任を第二子息のアロガン・デルニエールの独断として着せ、彼は廃嫡される事になったと言う噂だった。当然、王子の従者の地位も無いだろう。哀れだとは思うが、公爵家存続と天秤に掛けるなら例え実の子でも切り捨てるのだろう。
そして、あの祝宴から十一日目の本日、ビジュー王国王宮に来るようにとのお達しを受けて、私、フィーリア・ディプロマシは王宮に足を運んでいた。
ここに呼ばれたのは、恐らく今後の処遇についての結論等を言付かる為でもあるのだろう。生憎、父も母も、兄も合わせて何やら奔走(?)しているようで、忙しく当事者の私が代替わりに出向いていた。他人がどうこうと言うよりは当事者である私が名指しされたからと言うのも理由である。
「フィーリア令嬢、お手を」
出迎えてくれたのは、この国の第二王太子殿下カエルム・ビジュー王太子。
先刻に、誰もが手をこまねいていた海を越えた東の異国との交友に成功し、その手腕を知らしめ、第一王子の継承権が剥奪された事もあり、今後の基盤を作りたいとの国王の性急な打診から最短で太子を賜った功労者である。
しかしながら婚約破棄された腫れ物の令嬢に対して、招待されたのはこちらだが、通常だったら従者に出迎えられるか、案内人が謁見の間まで案内するか、私個人が呼ばれた場所まで出向くべきだ。
故にこの待遇に面食らってしまい、躊躇いが生じた。しかし物腰の柔らかく、穏やかな微笑みを携えて出迎えてくれたカエルム第二王太子の手を取り、馬車から降りるのが自然のような気さえしてしまい、気付いたら手を取って馬車から降りていた。
「すみません、本当はフィーリア令嬢に御足労頂くのは躊躇われたのですが……」
「……ベアトリス皇女様に何か言われたのですか?」
「あはは、そうですね……本当はこちらから出向くべきなのですが、兄はあの後から体調が優れず、国王や女王が出向く訳にも行かないので、僕もこのように拝命されてしまった以上は、他の貴族に示しがつかないのもあり、このような形になり、お手数をお掛けしまして、この度は本当に失礼致しました」
「え!? カエルム様、頭をお上げください!」
カエルム王太子は深々と頭を下げた。
この騒動の裏で、幾重もの思惑が渦巻いていたのは、私もその中の一人となっていた為、多少の事は把握していた。
でも、だからと言って、私はただ黙って待つだけしか出来てはいない。例え、理由云々あれど、従者を寄越すことも出来たはずだ。このように謝罪を受けるとは思ってもいなかった。しかも、ここは王宮の廊下で、いくら騒動の後とはいえ、私はもう今や王子の婚約者でも無い。一介の侯爵令嬢に過ぎない。それすらも今は立場が曖昧だ。どちらにしても、今日その話も含めて場を設けて貰ったとさえ考えているくらいだ。
だからこそ、彼の行動は少し軽率に思えたし、これではまるで……。
「……もう叱りもしないところを見るとやはり貴方の心は決まっているんですね」
「えっ? ……あ、」
彼は人の気配を察知して、もう既に頭を上げていた。通り過ぎようとする従者が慌てて立ち止まり頭を下げるが、構わないと手で制し、従者は焦りながらも急いで通り過ぎていった。
彼は、別に対外にその場を見せようとした訳でもなく、ただ私を試したのだ。そう、あの頃のままであったなら私はきっと彼を叱責し、どうして駄目なのかを説いては、弟を見る姉のように笑っていただろう。
「まあ、そうなるとは思っていましたからね。もし貴女がまだ少しでもそういう気持ちがあったなら引き留めようと思っていたんだけど、帝国とは話が着いているし、後は返事次第で……それも仕方無い、か。次は隣国の王太子として宜しくね。フィーリア令嬢」
学園に入ってから変わったのは、ヴァルル王子だけでは無い。私もまた蔑ろにされ始めてから臣下としての務めだけでもと果たすべき事柄を出来うる限り尽力していた。
それが、更に気に障っていたのかもしれない。義務的に業務的に思えば、その辺りから立場を越えた関係を忘れ、疎かにしてしまっていただろう。
成長という観点で言うならカエルム王太子もまだ幼さは残るが立派に見据えるモノがあるのだろう。否定も肯定も出来ないまま、まるでもう理解をしたかのように前に進む彼を少し羨ましく思った。
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