サンタヤーナの警句

宗像紫雲

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サンタヤーナの警句(第十二話)

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                 十二

 吉川がつくった原油価格とインフレの図表に賃金上昇率の推移を重ねてみた。ローソク足に折れ線グラフは合成できないから、原油は終値をつなぐ折れ線で表示した。



 パンデミック前のアメリカ経済は、インフレ率が1~2%という「ディスインフレ」の状態が続いた。この間、賃金上昇率は2~3%台前半と、マイルドで心地よい“成長”を享受していた。
 その均衡が崩れたのは2020年3~4月のこと。異変に反応したのは株価よりも原油価格が先だった。その年の1月から下落をはじめ、4月になると輸送中のタンカーを含めて在庫がだぶつき、一時はマイナス40ドルという途方もない価格を付けた。同じ頃、ディスインフレはデフレーションすれすれまで落ち込んだが、巣ごもりで極度の人手不足に陥った街では求人のために時間給を前年比8%まで引き上げねばならなくなった。
 賃金はいったん5%台まで収まるが、従来の水準に比して高止まりが続いた。これがインフレに火を着けたとみるのが自然だろう。

 隆三はこのグラフと同じことを1960年代後半から80年までの期間でつくってみた。当時は先物市場のWTIがなかったから、クルード・オイルのスポットを参照。また管理職を含む全従業員の賃金データはついぞ見つからなかったので、商務省統計局が出している非管理職の賃金の趨勢で代用した。



 出来上がったグラフを見て、隆三は思わずうなった。
 かねて予想していた通り、インフレが原油価格の上昇に起因するという俗説にはあまりに説得力がなかったからだ。第四次中東戦争の勃発で始まった、いわゆる「第一次オイルショック」のときもイラン革命で原油が急騰した「第二次オイルショック」の局面でも、インフレ率の方が先に上昇している。そればかりかインフレ率が上昇する前の原油価格は、むしろ下落傾向を示しているのだ。いわば、「オイルショックがインフレを引き起こした」というよりも、「アメリカのインフレ率が上昇した局面で、が起こった」という方が事実に即していると言える。
 一方、グラフ左端の賃金の上昇とインフレ率の動向は見事に連動し、第二次オイルショック前のインフレ局面でも賃金が先導している様が見て取れる。いったん火が着いたインフレの炎に、文字通り“油を差した”のが原油高だったとするならば、その通りなのだろう。

 ただ問題は1970年の夏ごろから72年末まで、賃金の山とインフレの谷が噛み合わないことだ。ここに何らかの整合性がなければ、仮説はすべて無効となる。
 隆三は“はた”と困った。
 
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