1 / 4
私、決めました!
しおりを挟む
『以上、プロポーズスポット特集でした! 続いては今、大人気! 可愛くて美味しいチョコレート特集――』
番組が切り替わり、釘付けになっていた画面から目を離す。
ソファーに背を預け、凝った身体を大きく逸らした。コキコキと小さく骨が鳴る。
目を開いた先、風呂上がりの彼が現れた。景色ごと反転している。
「千代、風呂お先。で、ひっくり返ってどうしたの?」
濡れた髪を拭きながら、穏やかな笑みを飾っている。だが、流しっぱなしの放送に目を向け、ぱっと表情を変化させた。
二種類の笑顔は、どちらも愛らしい。
「番組に集中しすぎてね、終わったから伸びてた。これも面白そうだから、お風呂は見たら入ってくるね。て言うか一緒に見るでしょ?」
「見る見る。チョコ特集かー、食べたくなるなー」
「ねー」
彼は、画面を見詰めたまま、私の横に移動した。
肩が触れ合うくらい、間近に腰掛ける。いつも使っているはずの、シャンプーの香りが心地良かった。
彼、佐藤 景は恋人だ。付き合い始めて四年になる。加えて半年ほど同棲もしており、今ではすっかり家族のような存在になっていた。
周りからも、「素敵な夫婦ね」と間違われるくらいだ。その度に「まだですよ」と否定すると、心の底から驚かれた。
そうなれば、なぜ結婚しないのか、と聞かれるが単純な理由だ。
なぜなら、私たちがのんびりカップルだからである。
早急に結婚を考える二人も居れば、そこに至るまでの期間が長い二人も存在する。その後者だっただけの話だ。
しかし、最近近所や職場から立て続けに話が持ち上がり、意識するようになっているのも事実だった。
そろそろ結婚しても良いのではないか、そう考えるようになって来た。
ただ、彼の意思が分からず、少し怖く思っているのが本音だ。否定は無いとしても、早いと考えている可能性もあるだろう。
だから、中々一歩が踏み出せなかった。
しかし、踏み出さなくては進まないのも現実だ。
そう考えた私は、計画した。その上で決めた。
明日、彼にプロポーズする。
*
チョコレートの特番は、次々と目に麗しい品を紹介してゆく。画面越しのそれに、二人して魅入った。
脳内のプロポーズ計画に負けないくらい、情報は頭の中を埋めてくる。
私にとって――いや、私たちにとって、甘味と言うものは特別な存在なのだ。
「このチョコ、すっごい美味しそう……」
「俺も思った。確かこの店、この間出来たところだよ」
「えっ、もしかして一駅向こうに出来たって言ってた奴? 特集で取り上げられるくらい有名なんだ」
「日本進出は初めてらしいけどね。情報によると、ここのチョコは一度食べたら病み付きになるらしい」
「だから知らなかった訳ね。病みつきかー! 食べてみたいなー!」
そんな私達の出会いは、とあるケーキ屋さんだった。ケーキ屋と言えど、チョコレートやクッキー等のお菓子も豊富に取り揃えている。
しかし、店舗自体が小さく、奥まった場所に立っていた為、目立つ店ではなかった。
だが、その味は絶品で、虜になった私は足繁く通うようになった。
そんな私同様、味に魅了され通い詰めていたのが景だ。
元々、客足の少ない店で、何度も出会えば自然と顔見知りになる。始めは挨拶だけだったものが、会話するようになり、そこから意気投合して仲良くなった。
その結果が、今という訳だ。
私たちは、二人とも甘いものが大好きだ。生き甲斐と言っても良い程に愛している。デートはほぼ甘味処巡りだったし、情報を共有し語り合う事もあった。
だから、プロポーズのプランにも、甘味が取り込まれていたりする。
考えるだけで、ワクワクドキドキする作戦だ。
「景。明日さ、何時頃に帰って来る?」
「うーん、明日はちょっとした用事があるから六時半くらいかな。何かあった?」
「ううん、特別な事は何も! ただ、明日は私お休みだし手の込んだものでも用意しようかなーと」
「ありがとう、嬉しいな。でも、無理はしなくて良いからね」
私も景も、それぞれの職場で正社員をしている。だが、私の仕事が不定休ゆえ、こうして擦れ違う日が時々あった。
――実は、そういう日をずっと狙っていた。
秘密裏に物事を進める必要があり、彼が家にいない時間が必須だったのだ。
明日一日の流れを、脳内で改めて汲んでみる。その最後、景の驚く顔が浮かび上がった。
「あ」
突然の声に、シュミレーションが停止する。横を見ると、景はスマホを触っていた。
「用事先からお店近いかも。せっかくだしチョコレート買って来ようか。さっき見てた奴」
「えっ、良いの!? 遠回りとかしない?」
どうやら、店の位置を検索していたらしい。
確認出来たのか、電源を落とした景は優しい顔で笑った。
「しないよ、本当に近いみたい。じゃあ明日帰りに買って来るね」
「わーい、やったー!」
甘味への喜びが自然と溢れる。それと同時に、時間の増加を喜んでいたのは秘密で。
番組が切り替わり、釘付けになっていた画面から目を離す。
ソファーに背を預け、凝った身体を大きく逸らした。コキコキと小さく骨が鳴る。
目を開いた先、風呂上がりの彼が現れた。景色ごと反転している。
「千代、風呂お先。で、ひっくり返ってどうしたの?」
濡れた髪を拭きながら、穏やかな笑みを飾っている。だが、流しっぱなしの放送に目を向け、ぱっと表情を変化させた。
二種類の笑顔は、どちらも愛らしい。
「番組に集中しすぎてね、終わったから伸びてた。これも面白そうだから、お風呂は見たら入ってくるね。て言うか一緒に見るでしょ?」
「見る見る。チョコ特集かー、食べたくなるなー」
「ねー」
彼は、画面を見詰めたまま、私の横に移動した。
肩が触れ合うくらい、間近に腰掛ける。いつも使っているはずの、シャンプーの香りが心地良かった。
彼、佐藤 景は恋人だ。付き合い始めて四年になる。加えて半年ほど同棲もしており、今ではすっかり家族のような存在になっていた。
周りからも、「素敵な夫婦ね」と間違われるくらいだ。その度に「まだですよ」と否定すると、心の底から驚かれた。
そうなれば、なぜ結婚しないのか、と聞かれるが単純な理由だ。
なぜなら、私たちがのんびりカップルだからである。
早急に結婚を考える二人も居れば、そこに至るまでの期間が長い二人も存在する。その後者だっただけの話だ。
しかし、最近近所や職場から立て続けに話が持ち上がり、意識するようになっているのも事実だった。
そろそろ結婚しても良いのではないか、そう考えるようになって来た。
ただ、彼の意思が分からず、少し怖く思っているのが本音だ。否定は無いとしても、早いと考えている可能性もあるだろう。
だから、中々一歩が踏み出せなかった。
しかし、踏み出さなくては進まないのも現実だ。
そう考えた私は、計画した。その上で決めた。
明日、彼にプロポーズする。
*
チョコレートの特番は、次々と目に麗しい品を紹介してゆく。画面越しのそれに、二人して魅入った。
脳内のプロポーズ計画に負けないくらい、情報は頭の中を埋めてくる。
私にとって――いや、私たちにとって、甘味と言うものは特別な存在なのだ。
「このチョコ、すっごい美味しそう……」
「俺も思った。確かこの店、この間出来たところだよ」
「えっ、もしかして一駅向こうに出来たって言ってた奴? 特集で取り上げられるくらい有名なんだ」
「日本進出は初めてらしいけどね。情報によると、ここのチョコは一度食べたら病み付きになるらしい」
「だから知らなかった訳ね。病みつきかー! 食べてみたいなー!」
そんな私達の出会いは、とあるケーキ屋さんだった。ケーキ屋と言えど、チョコレートやクッキー等のお菓子も豊富に取り揃えている。
しかし、店舗自体が小さく、奥まった場所に立っていた為、目立つ店ではなかった。
だが、その味は絶品で、虜になった私は足繁く通うようになった。
そんな私同様、味に魅了され通い詰めていたのが景だ。
元々、客足の少ない店で、何度も出会えば自然と顔見知りになる。始めは挨拶だけだったものが、会話するようになり、そこから意気投合して仲良くなった。
その結果が、今という訳だ。
私たちは、二人とも甘いものが大好きだ。生き甲斐と言っても良い程に愛している。デートはほぼ甘味処巡りだったし、情報を共有し語り合う事もあった。
だから、プロポーズのプランにも、甘味が取り込まれていたりする。
考えるだけで、ワクワクドキドキする作戦だ。
「景。明日さ、何時頃に帰って来る?」
「うーん、明日はちょっとした用事があるから六時半くらいかな。何かあった?」
「ううん、特別な事は何も! ただ、明日は私お休みだし手の込んだものでも用意しようかなーと」
「ありがとう、嬉しいな。でも、無理はしなくて良いからね」
私も景も、それぞれの職場で正社員をしている。だが、私の仕事が不定休ゆえ、こうして擦れ違う日が時々あった。
――実は、そういう日をずっと狙っていた。
秘密裏に物事を進める必要があり、彼が家にいない時間が必須だったのだ。
明日一日の流れを、脳内で改めて汲んでみる。その最後、景の驚く顔が浮かび上がった。
「あ」
突然の声に、シュミレーションが停止する。横を見ると、景はスマホを触っていた。
「用事先からお店近いかも。せっかくだしチョコレート買って来ようか。さっき見てた奴」
「えっ、良いの!? 遠回りとかしない?」
どうやら、店の位置を検索していたらしい。
確認出来たのか、電源を落とした景は優しい顔で笑った。
「しないよ、本当に近いみたい。じゃあ明日帰りに買って来るね」
「わーい、やったー!」
甘味への喜びが自然と溢れる。それと同時に、時間の増加を喜んでいたのは秘密で。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。
真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。
婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。
白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる