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第二話
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葉月との出会いは、これまた特殊だった。
2冊目の出版が決定し、発売日に本屋へ赴いた時の事だった。
因みに何故赴いたかというと、自分で自分の本を買う事で、売り上げ部数を増やそうと画策したからだ。たったの一冊や二冊でどうにかなる物ではないと分かりながら、居ても立ってもいられなかった。
もちろんのこと、僕の本の前には誰一人として人が居なかった。通り過ぎる人間も、誰一人として見向きもしていなかった。
深い深い寂しさを覚えつつ、袋に包まれた本を一冊手に取る。そうして、同じ物をもう一冊取る。
保存用と観賞用、それから頒布用にでもしようかと、三冊目に踏み切るか迷っていたその時だった。
「あ、あの、高羽さん好きなんですか!?」
突然名が呼ばれ、驚き振り返ると、瞳を輝かせた葉月が立っていた。
ドキドキしつつも、作者である事を隠し、一ファンとの設定を自らに課して話をした。
話の中で葉月は『私はこの本に救われた』と何度も口にした。詳しい事情は分からないが、何らかの辛い経験をしてきたのだろうとは把握した。
葉月は嬉しかったのだろう。周囲に分かり合える人間が居なかったのかもしれない。いや、いなかったのだろう。
『ファン同士仲良くして下さい』と笑顔で言われ、成り行きからメールアドレスの交換までしてしまった。
結局、切り出すタイミングが分からずに、その後暫くファンとしての自分を演じ続けた。名前については、漢字は教えず『同名なんだ』とだけ告げた。
時には無理矢理に自作を褒めてみたり、何気なく批判してみて葉月の反応を窺ったりと、今思えば申し訳ない事をしていたと思う。
因みに、葉月は相当作品を気に入ってくれているのか、批判を全てポジティブな発想で包んでくれた。その意見に何度救われたことだろう。意欲を燃やした事だろう。
褒められ、肯定され続け、自然と葉月に好感を抱いていった。愛しくなる度、彼女と会話を重ねる度、演技している自分に嫌気が差していった。
結果、何十回目かの会合で、僕は真実を打ち明けた。
ドキドキした。心臓が破裂するかと思った。嫌われるのでは無いだろうか、裏切られたと感じ冷たい瞳を向けられるのでないか、とマイナス思考が脳内で加速を極める。
衝撃的だったのか、葉月は暫くの間、絶句し唖然としていた。
「…………そうだったんだ」
第一声、僕は関係の終了を覚悟した。数少ないファンを、一番近しいファンを無くしてしまったと一瞬の内に悲しみに暮れた。しかし、
「すごい! すごい! 司佐くん作者さんだったんだ! 疑ってたけど本当にそうなんだ!!」
まるで、星々が煌くかのような輝く瞳で見詰められ、今度は僕が唖然としてしまった。
「話してる内に何と無くそうじゃないかなーって思ってたんだよね! でも大好きな作家さんがこんな近くにいるわけ無いって勝手に思っちゃってて…って私はしゃぎすぎだね!」
満面の笑顔を湛えるその頬に、雫が伝った場面を今でも鮮明に覚えている。
それからも、二人の関係は何も変わらなかった。良い方にも悪い方にも傾かず、作者とファンとして語り合った。もちろん、内容は少し変化した部分もあるが。
どれだけ時が経過しても、どれだけ愛情を覚えても、彼氏彼女としての関係性は間には出来ず、ただただ遠いような近いような関係を続けた。言うなれば兄妹のような感覚だろうか。
それらが、出会いと今までの経緯だ。
2冊目の出版が決定し、発売日に本屋へ赴いた時の事だった。
因みに何故赴いたかというと、自分で自分の本を買う事で、売り上げ部数を増やそうと画策したからだ。たったの一冊や二冊でどうにかなる物ではないと分かりながら、居ても立ってもいられなかった。
もちろんのこと、僕の本の前には誰一人として人が居なかった。通り過ぎる人間も、誰一人として見向きもしていなかった。
深い深い寂しさを覚えつつ、袋に包まれた本を一冊手に取る。そうして、同じ物をもう一冊取る。
保存用と観賞用、それから頒布用にでもしようかと、三冊目に踏み切るか迷っていたその時だった。
「あ、あの、高羽さん好きなんですか!?」
突然名が呼ばれ、驚き振り返ると、瞳を輝かせた葉月が立っていた。
ドキドキしつつも、作者である事を隠し、一ファンとの設定を自らに課して話をした。
話の中で葉月は『私はこの本に救われた』と何度も口にした。詳しい事情は分からないが、何らかの辛い経験をしてきたのだろうとは把握した。
葉月は嬉しかったのだろう。周囲に分かり合える人間が居なかったのかもしれない。いや、いなかったのだろう。
『ファン同士仲良くして下さい』と笑顔で言われ、成り行きからメールアドレスの交換までしてしまった。
結局、切り出すタイミングが分からずに、その後暫くファンとしての自分を演じ続けた。名前については、漢字は教えず『同名なんだ』とだけ告げた。
時には無理矢理に自作を褒めてみたり、何気なく批判してみて葉月の反応を窺ったりと、今思えば申し訳ない事をしていたと思う。
因みに、葉月は相当作品を気に入ってくれているのか、批判を全てポジティブな発想で包んでくれた。その意見に何度救われたことだろう。意欲を燃やした事だろう。
褒められ、肯定され続け、自然と葉月に好感を抱いていった。愛しくなる度、彼女と会話を重ねる度、演技している自分に嫌気が差していった。
結果、何十回目かの会合で、僕は真実を打ち明けた。
ドキドキした。心臓が破裂するかと思った。嫌われるのでは無いだろうか、裏切られたと感じ冷たい瞳を向けられるのでないか、とマイナス思考が脳内で加速を極める。
衝撃的だったのか、葉月は暫くの間、絶句し唖然としていた。
「…………そうだったんだ」
第一声、僕は関係の終了を覚悟した。数少ないファンを、一番近しいファンを無くしてしまったと一瞬の内に悲しみに暮れた。しかし、
「すごい! すごい! 司佐くん作者さんだったんだ! 疑ってたけど本当にそうなんだ!!」
まるで、星々が煌くかのような輝く瞳で見詰められ、今度は僕が唖然としてしまった。
「話してる内に何と無くそうじゃないかなーって思ってたんだよね! でも大好きな作家さんがこんな近くにいるわけ無いって勝手に思っちゃってて…って私はしゃぎすぎだね!」
満面の笑顔を湛えるその頬に、雫が伝った場面を今でも鮮明に覚えている。
それからも、二人の関係は何も変わらなかった。良い方にも悪い方にも傾かず、作者とファンとして語り合った。もちろん、内容は少し変化した部分もあるが。
どれだけ時が経過しても、どれだけ愛情を覚えても、彼氏彼女としての関係性は間には出来ず、ただただ遠いような近いような関係を続けた。言うなれば兄妹のような感覚だろうか。
それらが、出会いと今までの経緯だ。
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