存在抹消ボタン

有箱

文字の大きさ
4 / 22

第四話

しおりを挟む
 執筆目的は1つ、コンテストに応募して再び本を出版する事だ。一度形になる喜びを知ってしまったからか、諦めが付かず何度も挑んでいる。
 今度こそ、今度こそと挑戦し、何度も落選して落ち込みつつも、まだ諦めきれず書き続けている。

 書いては推敲し、修正し、納得なら無いと破り捨てては書き直し、また推敲……のサイクルを繰り返して我武者羅に書き続けた結果、やっと自信を持てる作品が出来上がった。

 ちらりと横を見遣ったが、何時もの場所に葉月は居ない。彼女も社会人だ。正社員では無いが仕事を持つ身である。故に、毎日同じ時間、家に居るわけでは無い。
 完成を直ぐ分かち合えない事を残念に思いつつも、早速投稿準備として、溢れ返る物の中から封筒の捜索を始めた。

 完成品は、葉月に披露しないつもりだ。
 当選する確信までは出来ないが、今作は特に自信がある。だから掠るぐらいしないだろうか。

 そんな淡い期待を胸に、もし当選したら、その時に内容を披露しよう。一番目の読者として葉月に見せよう。完成が近付いて来た時から、そう決めていた。

「完成したんだって!?」

 家に遣って来た葉月は、走ってきたのか息を切らしている。だが、その顔は想像通り清々しく煌いている。

「もう出してきたけどな」
「えっ! 早っ! メール見たから急いで来たのにー」

 葉月の手には携帯電話が握られている。恐らく、喜びを分かち合う為に急いでくれたのだろう。いそいそと携帯を鞄にしまいながらも、表情は笑顔を維持したままだった。

「ありがと。今回のは自信作なんだ、だから結果出てから見せるな」
「おぉ、自信作出来たんだ! 本出るの楽しみだね!」
「いや、まだ決まってないから……原稿送っただけだしさ」

 疑いのない眼差しに自然と頬を紅潮させ、斜め下に目線を下げる。妙な期待と不安が、胸の奥を駆け巡っている。

「何はともあれ、はい!」

 掛け声につられ顔を上げると、開いた両の手が目の前に掲げられていた。ハイタッチを求めているのだと判断し、恥ずかしさと嬉しさでいっぱいになりながらも、両の手を勢いよく合わせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...