僕らのカノンは響かない

有箱

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私は歌いたい(2)

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 既に歌声は紡がれていた。やはり技術は高くない。けれど、変わらぬ深い愛が編み込まれていた。

 この間はごめん。それとありがとう。一緒に練習していいかな。

 歌唱後に伝えるつもりで、ひっそりと旋律を追いかける。因みに、伝言は全て手帳に書いてきた。

 耳に集中を移動しても、やっぱり自分の声は聞こえない。確かめる為、思い切って大声を出す勇気はない。それでも、存在を知らせるため一生懸命歌った。
 最後の符号を音にし、吐き切った息を吸う。

「来てくれたんだね! 嬉しい!」

 覚悟へ踏み出す前に、少女の声が扉を通ってきた。シュミレーションの順序が狂い、焦って手がもつれる。間が開かないよう手帳を――取り出そうとして空のポケットに触れた。
 ページを準備し、扉を開くつもりだったのに。これでは無言と同じだ。

「一緒に歌うと楽しいね!」

 無回答など物ともせず、少女は歓喜を重ねる。動揺が深くなり、ただたじろいでしまう。

「また歌おうよ」

 だが、問いがきて静寂もくっついてきた。
 回答の時間が与えられ、迷いながらも何とか決意を固める。手帳がないなら、声で伝えるしかない。

「……う」

 惨めな声が、ボロリと溢れた。恐怖に続きが奪われてしまう。

 歌いたいです。歌いたいって言ってくれて嬉しいです。この間は、褒めてくれたのに無視しちゃってごめんなさい。私、声に自信がなくて…でもありがとう。今さらだけどありがとう。

 必死に唇を震わせても、言葉は出てきてくれなかった。代わりに涙が溢れ出し、地面に向かって逃げてゆく。

「全然大丈夫! 事情はそれぞれあるんだし怒ってないよ」

 ――え?

「あとね、私、貴方の声本当に好きだよ。いい声してて羨ましいと思う!」

 返答に呆然としてしまう。今回こそは勘違いじゃない。私の声は内に留まったままだった。けれど、的確な返事をくれた。

 彼女は、私の言葉が聞こえるの?

“あの、私、歌うのが怖くて。一緒に練習していいですか?”

 扉に向かって、はっきりと告げた。当然、声はない。鼓動が緊張と興奮で騒いだ。

「もちろん! 待ってるよ!」
 
 その日から、私たちの放課後は始まった。
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