この世界はLOVEで溢れてる

有箱

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後編

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「リコも誰かと付き合わないの? 絶対楽しいよ!」
 不意に話を振られ、またかと苦笑する。サヤカは恋バナが好きなマジョリティ側の人間なのだ。楽しげにクラス中の男子の名を呟きながら、時々『アイツはないな』などと値踏みした。
「本当にそういうの興味ないからいいって」
「まーた、そんなこと言って! ヒロもいい男子紹介してあげてよ」
「考えとくわ」
 本当に恋愛感情が持てないんだよ。と言うと、そんなわけないじゃん、との切り返しがきた。運命の人に出会えてないだけだと言いながら、また目の前で熱烈なキスをしはじめた。
 
 この世はLOVEで溢れている。特に若者たちは、恋だの愛だのに敏感だ。
 そんなんさー、好きな人って作るものじゃなくて出来るものでしょ?
 と言おうと思ったが、嫌な顔をされた記憶が蘇ったため止めた。
 
 本当に、うんざりするほど適当なLOVEばかりだ。この小さな世界の中は。
 
***


「サヤカ今日も休みかー。結構長いけどヒロなんか知ってる? 私、メッセージ送ったんだけど返信なくて」
 再確認の為、開いていたスマホから視線をあげる。視線の先のヒロは、なぜか深刻そうな顔をしていた。
 予想外の表情に瞠目する。黙り混むヒロの顔は、確実に何かを知っている顔だった。
 まさか、事故か事件に巻き込まれた? けどそんな話はどこからもーー。
「俺が振った」
 思考に突き刺さってきた言葉に、脳内が真っ白になる。数秒してやっと、"え"の一音が溢れた。
「な、なんで? だって二人、あんなにラブラブだったのに」
 お気楽な恋愛ばかりが転がる世界で、二人だけは特別だと思っていた。なのに、こんな簡単に壊れるなんて。やっぱり恋は理解ができないことだらけだ。
「リコが好きだったからだ」
「え」
「俺、実はずっとリコのこと好きだったんだ。だからサヤカのこと振った」
 思いもよらない理由に唖然とする。様々な考えが溢れかえった結果、これはドッキリだとの解釈に至った。だが、こちらに向けられる表情が、解釈に確信を持たせてくれない。
「や、やめてよドッキリとか……」
「そんなんじゃない! 本気で好きなんだ!」
 ーー真剣な瞳が、口を噤ませる。ああ、多分これは本気で言っている目だ。
 
 若者のLOVEって、やっぱりよく分からない。
 すぐ好きって言うし、恋愛に結びつけるし。彼氏がいるのが普通とか。寧ろ、いない方が駄目みたいな。
 結婚する気なんてないくせに、軽い気持ちで付き合って。はい、あっさりと別れました、みたいなね。
 そんな、ライトで羽みたいにふわふわした退屈凌ぎの恋愛ばかりだーーとか思っていたのに。
 
 もしかしたら、そのどれもが本気だったのかもしれない。
 
 終わり。
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