10 / 25
第十話
しおりを挟む
シュガは、リガの背中を見送ると、着替えを急いで済ませて自分の仕事場に戻った。
「お疲れ様ですグロードさん」
「お疲れ様です、シュガ」
一階から、バタバタと忙しい足音が聞こえる。
「また患者が収容されましたね」
確信的な言葉を敢えて口にしたグロードは、じっとシュガの目を見詰めてきた。
シュガは言いたい事を理解し、小さく溜め息を吐く。
「どうなされますか?受け入れますか?」
ようやく視線の意味を口にしたグロードの、質問に対する答えを考えてみる。
「はい、直ぐに連れて来て下さい」
仕事が終わっても、また次の仕事が舞い込むなんていうのは日常茶飯事である。休憩時間が満足に取れないのも、もう慣れている。
終わった後に来るならまだしも、仕事中の追加も茶飯事なのだ。
「はい、では直ぐに」
グロードは意見に反論しない。
シュガが休憩を優先して患者を見捨てた日には、近いポジションに要るグロードも酷く責められる訳だが、そんな事が何度あってもグロードはいつも個人の意見を言わない。
シュガにとっても、グロードは不思議な人物だった。
自分が助けた兵士が少しでも敵を減らしてくれて、少しでも早く戦争を終わりへと導いてくれれば。
そんな風に、意味も無く一寸した理由を作り上げて、シュガは仕事を開始した。
命が流れて、人が死に、人が回復する。
回復した人間は、医師など影から戦争を支える役職にあった者ならまだしも、一般の兵士である場合、否応無く戦場にまた送り出される。
そうして、同じように戻って来られればまだ良いだろう。だが、大体の人間は二回目は戻ってこない。
能力を使い治した人間も、結局は戦場の中に失せる。それを考えると、行為に意味はあるのだろうかとの疑問が生じる。しかし、この特殊能力の使い道なんて、この役職くらいしかないだろう。
最終的にはその結論に辿り着き、仕事を辞めようとも思わなかった。
それにきっと、その思いは自分よりも、リガやシック、それにレイギアも含む一般の医師の方が強いだろう。
折角頑張って治療した患者も、直ぐに戦場に帰ってゆくのだ。そうして塵と消えるのだ。
それを知りながら、彼らはどうして治し続けるのだろう。やはり戦場に出たくないからだろうか。だが、それだけで頑張れるものなのだろうか。
シャツを真っ赤に染めて仕事を終えたシュガは、患者や死体の消え去ったベッドに腰をかけ、溜め息をついた。
体が重い。自分の中を命が移動するのだから、何等かの副作用があっても可笑しくは無いとは思うが、やはり出来れば疲労はしたくない。
ふと思う。今まで何も気にせず、使いたいだけ力を使ってきたが、疲労以外に副作用は無いのだろうか。
例えば、寿命が短くなるだとか、体の機能が弱まっていくだとか。
考え始めた直後現れた結論は、あっさりと疑問を跳ね除けた。
最終的にはどこかで自分も死ぬ。だから、どうでもいい。
出来るなら戦争の終了を見届けてからが本望だ。
しかし、それまで生きていられるとも正直思っていない。
昔は、能力を駆使し戦争を終結させると本気で考えていたのに、今じゃ夢物語を浮かべるかのように浅い願いになっている。
現実的な願いを掲げるならば、大切な人達にだけは戦争の終わりを見せたいと思う。
それまで持てばいいや、とシュガは結論付けた。
「お疲れ様ですグロードさん」
「お疲れ様です、シュガ」
一階から、バタバタと忙しい足音が聞こえる。
「また患者が収容されましたね」
確信的な言葉を敢えて口にしたグロードは、じっとシュガの目を見詰めてきた。
シュガは言いたい事を理解し、小さく溜め息を吐く。
「どうなされますか?受け入れますか?」
ようやく視線の意味を口にしたグロードの、質問に対する答えを考えてみる。
「はい、直ぐに連れて来て下さい」
仕事が終わっても、また次の仕事が舞い込むなんていうのは日常茶飯事である。休憩時間が満足に取れないのも、もう慣れている。
終わった後に来るならまだしも、仕事中の追加も茶飯事なのだ。
「はい、では直ぐに」
グロードは意見に反論しない。
シュガが休憩を優先して患者を見捨てた日には、近いポジションに要るグロードも酷く責められる訳だが、そんな事が何度あってもグロードはいつも個人の意見を言わない。
シュガにとっても、グロードは不思議な人物だった。
自分が助けた兵士が少しでも敵を減らしてくれて、少しでも早く戦争を終わりへと導いてくれれば。
そんな風に、意味も無く一寸した理由を作り上げて、シュガは仕事を開始した。
命が流れて、人が死に、人が回復する。
回復した人間は、医師など影から戦争を支える役職にあった者ならまだしも、一般の兵士である場合、否応無く戦場にまた送り出される。
そうして、同じように戻って来られればまだ良いだろう。だが、大体の人間は二回目は戻ってこない。
能力を使い治した人間も、結局は戦場の中に失せる。それを考えると、行為に意味はあるのだろうかとの疑問が生じる。しかし、この特殊能力の使い道なんて、この役職くらいしかないだろう。
最終的にはその結論に辿り着き、仕事を辞めようとも思わなかった。
それにきっと、その思いは自分よりも、リガやシック、それにレイギアも含む一般の医師の方が強いだろう。
折角頑張って治療した患者も、直ぐに戦場に帰ってゆくのだ。そうして塵と消えるのだ。
それを知りながら、彼らはどうして治し続けるのだろう。やはり戦場に出たくないからだろうか。だが、それだけで頑張れるものなのだろうか。
シャツを真っ赤に染めて仕事を終えたシュガは、患者や死体の消え去ったベッドに腰をかけ、溜め息をついた。
体が重い。自分の中を命が移動するのだから、何等かの副作用があっても可笑しくは無いとは思うが、やはり出来れば疲労はしたくない。
ふと思う。今まで何も気にせず、使いたいだけ力を使ってきたが、疲労以外に副作用は無いのだろうか。
例えば、寿命が短くなるだとか、体の機能が弱まっていくだとか。
考え始めた直後現れた結論は、あっさりと疑問を跳ね除けた。
最終的にはどこかで自分も死ぬ。だから、どうでもいい。
出来るなら戦争の終了を見届けてからが本望だ。
しかし、それまで生きていられるとも正直思っていない。
昔は、能力を駆使し戦争を終結させると本気で考えていたのに、今じゃ夢物語を浮かべるかのように浅い願いになっている。
現実的な願いを掲げるならば、大切な人達にだけは戦争の終わりを見せたいと思う。
それまで持てばいいや、とシュガは結論付けた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる