12 / 25
第十二話
しおりを挟む
シュガも地下に戻るため、いつもの道を歩いていた。しかし、曲がり角の向こうから会話が聞こえてきて、つい足を止めてしまった。
「…聞いたか?さっきアルマ医院が襲撃されたらしい」
「え?ついこの前セントラル病院が爆撃されたばかりだろ?」
アルマ医院と言うのは、この病院の隣町に立つ病院の名だ。そして、セントラル病院と言うのは、そのアルマ医院の隣町に位置する病院だった。
「…嗚呼、だからここがやられるのも時間の問題だろうて皆言ってる…」
そう考えるのも無理は無い。隣の隣が爆破されて、次に隣が襲撃されたら、次はここだと思うのは当然だ。
「…マジかよ、だったら俺医者辞めようかなぁ」
「そしたらお前どこ行くんだよ、兵にでもなるのか?」
彼らの言葉の通り、この戦地において出来る選択は2択しかない。
配属された場所から逃げ出して家に帰る。それは重罪に値する行為だ。故に自宅には帰れない。
襲撃に怯えながら医者を続けるか、自分も兵に出て戦闘に加わるか、その二つしかない。
どちらにせよ、待つ物は同じだと言えるだろう。
「…兵は嫌だなぁ、でもここで死にたくねぇし」
「…だよなぁ」
ただ自分は、どこにいても、近くに生存者がいれば死は無いのだけれど。
「何喋ってんだよ」
第三者の声が聞こえた。それは先ほど聞いたばかりのレイギアの声だった。
「レ、レイギア!」
「な、何でもない、こっちの話だよ」
二人の医師は、焦りを声にしながらも何とか場を収めようとしていた。
もしかしたら、レイギアは一般の医師からも恐れられる存在なのかもしれない。
そう言えば、決まった人間と話をしている事はあっても、幅広く交友をしている場面は見た事がない気がする。
「……患者来てんぞ」
「そうか、じゃあ俺戻るわ!」
「俺も!じゃあな!」
逃げるように去っていった医師たちが、シュガには目もくれずに走り去っていった。
シュガからも完全に見えなくなったタイミングで、レイギアが大きな一人事を放った。
「………仕事は誇りを持ってやんなきゃなぁ…」
こつりこつりと足音がなって、レイギアが顔を覗かせる。
「なぁ、あんたもそう思うだろ?シュガ」
「勘が良いですね、吃驚しました」
どうやら、レイギアは気配を察知していたらしい。なんて勘の鋭い人間なのだろう。
「俺はちょっとだけど戦闘経験もあるからな――、気配には敏感なんだわ」
「そうですか」
「……隣の病院やられたらしいな。聞いてたろ?」
「そうですね」
「シュガはさ、死ぬまでここで¨仕事¨すんのか?」
人の命を奪い、元に戻す、レイギアの大嫌いな¨仕事¨だ。命を奪う行為を続けるのか、と彼は訊ねているのだろう。
「そうですね、それが役目だと思ってます」
幾ら非難されようとも、自分の出来る方法を貫いてゆくつもりだ。第一、他に行く宛ても思いつかないし。
「ふーん、気味悪い仕事だけど中途半端では無い訳だ。俺もそうだ、死ぬまでここにいてやる」
「そうですか」
どうして今決意を自分に突きつけてきたのか、シュガは理解出来なかった、レイギアなりに思う事があるのだろうが。
「シュガ、あんた自分の仕事好きか?」
「………どうなんでしょうね」
好きでは無いとの答えが本音だ。けれど、自分にしか出来ない方法で仕事が出来る事に、誇りは持っているつもりだ。
「俺は好きでやってるぜ!そりゃ無念も多いけどな!」
¨戦場に戻す為に患者を治す事¨についても含まれているのだろう。
それをひっくるめて、好きで仕事をしていたとは。
「以外ですね、そんな風に考えていたなんて」
「どんなイメージだよ」
普段の、皮肉屋のレイギアからは想像も出来なかった。
「…それをシックに話したらいいのに、と思います」
「は?あ?何でシック?」
意味が分からない振りをしながらも、動揺が言葉に滲んでいるのを見て、シュガは小さく微笑んだ。
***
「ただいま戻りました」
「患者を収容いたしました」
おかえりなさいの代わりに、淡々と述べられた用件に、思い付きを何の気もなく口にする。
「もしや隣の医院からですか?」
「よくご存知ですね」
「…グロードさん、ここも襲撃されると思いますか」
「そうですね」
躊躇なく返された当然の答えに、シュガは一人納得部屋へと入っていった。
――きっと、近いうちに襲撃されてしまう。
病院の最期を考えながら、シュガはいつも通り業務をこなした。
「…聞いたか?さっきアルマ医院が襲撃されたらしい」
「え?ついこの前セントラル病院が爆撃されたばかりだろ?」
アルマ医院と言うのは、この病院の隣町に立つ病院の名だ。そして、セントラル病院と言うのは、そのアルマ医院の隣町に位置する病院だった。
「…嗚呼、だからここがやられるのも時間の問題だろうて皆言ってる…」
そう考えるのも無理は無い。隣の隣が爆破されて、次に隣が襲撃されたら、次はここだと思うのは当然だ。
「…マジかよ、だったら俺医者辞めようかなぁ」
「そしたらお前どこ行くんだよ、兵にでもなるのか?」
彼らの言葉の通り、この戦地において出来る選択は2択しかない。
配属された場所から逃げ出して家に帰る。それは重罪に値する行為だ。故に自宅には帰れない。
襲撃に怯えながら医者を続けるか、自分も兵に出て戦闘に加わるか、その二つしかない。
どちらにせよ、待つ物は同じだと言えるだろう。
「…兵は嫌だなぁ、でもここで死にたくねぇし」
「…だよなぁ」
ただ自分は、どこにいても、近くに生存者がいれば死は無いのだけれど。
「何喋ってんだよ」
第三者の声が聞こえた。それは先ほど聞いたばかりのレイギアの声だった。
「レ、レイギア!」
「な、何でもない、こっちの話だよ」
二人の医師は、焦りを声にしながらも何とか場を収めようとしていた。
もしかしたら、レイギアは一般の医師からも恐れられる存在なのかもしれない。
そう言えば、決まった人間と話をしている事はあっても、幅広く交友をしている場面は見た事がない気がする。
「……患者来てんぞ」
「そうか、じゃあ俺戻るわ!」
「俺も!じゃあな!」
逃げるように去っていった医師たちが、シュガには目もくれずに走り去っていった。
シュガからも完全に見えなくなったタイミングで、レイギアが大きな一人事を放った。
「………仕事は誇りを持ってやんなきゃなぁ…」
こつりこつりと足音がなって、レイギアが顔を覗かせる。
「なぁ、あんたもそう思うだろ?シュガ」
「勘が良いですね、吃驚しました」
どうやら、レイギアは気配を察知していたらしい。なんて勘の鋭い人間なのだろう。
「俺はちょっとだけど戦闘経験もあるからな――、気配には敏感なんだわ」
「そうですか」
「……隣の病院やられたらしいな。聞いてたろ?」
「そうですね」
「シュガはさ、死ぬまでここで¨仕事¨すんのか?」
人の命を奪い、元に戻す、レイギアの大嫌いな¨仕事¨だ。命を奪う行為を続けるのか、と彼は訊ねているのだろう。
「そうですね、それが役目だと思ってます」
幾ら非難されようとも、自分の出来る方法を貫いてゆくつもりだ。第一、他に行く宛ても思いつかないし。
「ふーん、気味悪い仕事だけど中途半端では無い訳だ。俺もそうだ、死ぬまでここにいてやる」
「そうですか」
どうして今決意を自分に突きつけてきたのか、シュガは理解出来なかった、レイギアなりに思う事があるのだろうが。
「シュガ、あんた自分の仕事好きか?」
「………どうなんでしょうね」
好きでは無いとの答えが本音だ。けれど、自分にしか出来ない方法で仕事が出来る事に、誇りは持っているつもりだ。
「俺は好きでやってるぜ!そりゃ無念も多いけどな!」
¨戦場に戻す為に患者を治す事¨についても含まれているのだろう。
それをひっくるめて、好きで仕事をしていたとは。
「以外ですね、そんな風に考えていたなんて」
「どんなイメージだよ」
普段の、皮肉屋のレイギアからは想像も出来なかった。
「…それをシックに話したらいいのに、と思います」
「は?あ?何でシック?」
意味が分からない振りをしながらも、動揺が言葉に滲んでいるのを見て、シュガは小さく微笑んだ。
***
「ただいま戻りました」
「患者を収容いたしました」
おかえりなさいの代わりに、淡々と述べられた用件に、思い付きを何の気もなく口にする。
「もしや隣の医院からですか?」
「よくご存知ですね」
「…グロードさん、ここも襲撃されると思いますか」
「そうですね」
躊躇なく返された当然の答えに、シュガは一人納得部屋へと入っていった。
――きっと、近いうちに襲撃されてしまう。
病院の最期を考えながら、シュガはいつも通り業務をこなした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる