惜別の赤涙

有箱

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第十四話

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 翌日、普段通りを装い食堂に赴いたが、席にはシック一人しか居なかった。

「リガは?」

 いつもは聞かない事を、敢えて訊ねてみたりする。普段は、業務の都合で居なくても不思議では無いと訊ねていない。

「どうしたの?」
「いいえ」

 変わらないシックの表情に、なぜだか安堵している自分がいる。そんな自分の心の動きに、シュガ自身驚いてしまった。

「…シックは自分の命を投げてまで助けたい人って居ますか?」

 シックは急な質問に少し戸惑いながらも、いつもの様に正直な答えをくれた。

「え、うーん、どうだろう?急に言われると分からないなぁ…その時になってみないと本当に命捨てれるかも分からないし…」

 それは正論だ。言葉では幾らでも言える。けれど、実際に行動に移せるかはまた別だ。
 そう考えれば、あの状況でああ言えるリガはとても強く、優しい人物なのだろう。
 そして、昔に同じ台詞を言ってみせた彼女も。

「あっ、リガ…!」

 シュガの後ろ、シックの向かいから現れたリガを見てシックの表情が変化する。何を見たのか、表情が歪んでいる。

「どうしたのですか…?」

 振り向くと、リガは黒い影を纏い俯いていた。

「……リュジィは死んだよ…」

 台詞が、まるで自分に向けられているようで、シュガは少し罪悪感を覚えた。

「どうして助けてくれなかったんだよ…」

 急に声が篭りだす。シックは聞かされた訃報に心を痛めているのか何も言わない。

「……なんで見捨てたんだよ…なんで……シュガの力なら助けられたかもしれないのに…本当は助かっていたかもしれないのに…」

 シュガは、突きつけられる言葉の数々に、心が傷ついているのが分かった。

「どうしてだよ!シュガのバカ!」

 子どもみたいな罵倒を残し、小走りで去っていったリガの後ろ姿をただ呆然と見る。
 言葉の選択の所為で、周りにはただの小さな喧嘩に聞こえたかもしれない。けれど、シュガには酷く痛く感じた。

 こんな痛みは久しぶりだ。
 相手がリガだからだろうか。仲間の死を久しぶりに見たからだろうか。それとも、昔にあったあの出来事を、また鮮明に思い出してしまったからだろうか。
 理由は不確かだか、心が酷く痛んでいるという事実だけは、確かに分かった。

 この力を使って大切な人を守るだなんて、何を言っているんだ私は。
 そうだ、大切な人を守るだけでは駄目なんだ。
 嗚呼、私は、なんて無力なんだ。

 食事中も、仕事中も、何をしている時も、シュガはずっと昔の、自分がほんの小さく子供だった頃の思い出を追憶していた。
 はっきりと覚えていると思っていたのに、意外にも所々が抜けていて、その穴を思うと何だか寂しくなった。
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