惜別の赤涙

有箱

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第十五話

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 次の日も、次の日も次の日も、何日もリガがシュガの前に姿を見せる事は無かった。見せたとしても、避けるように逃げていってしまう、そんな状態が続いていた。

 シックは「きっとまだ混乱しているだけなのよ」と笑って慰めてくれて、シュガ自身もその内時間が解決してくれるだろうと己を宥めていたが、これだけあからさまに避けられると、やはり良い心地はしない。

「あの時、力を使っているべきだったのでしょうか」

 ついには、後悔まで膨らんできた。
 シックにはその後、当時の状況をそのまま話した。

「きっと使わなくて正解だったよ。リガを殺すなんて私も絶対したくないし、もしたくさんの人に見られていたらシュガの立場もよくないし、これからの事を考えるとね…」
「そうですよね」

 妥当な意見をもらって、また考える。考えると、また違う無意識に気が付いてしまった。
 もしかして自分は、これからの立場を気にして、大切な友人を見殺しにしたのだろうか。

 あの場に居た誰かを使えば、少なくともリュジィは助かり、リガはあれほど落ち込まなかっただろう。
 ーー誰かは死ぬ事になるけれど。
 そうしなかったのは、自分の立場を気にしたからだろうか。

 仲間を殺した場面を見られて、嫌われ非難され、もしかすると迫害され追い出され、最悪殺されるかもしれない。
 もしかすると、無意識の内に、それを気にしたのかもしれない。

 そう結論ずくと、リガに対しての、リュジィに対しての罪悪感が強くなった――気がした。

「そう言えば聞いて、この間レイギアがさー」

 シックは、考え込むシュガを見ていられなくなったのか、軽快なテンポで違う話題を切り出した。

「『シュガばかりに構わないで、たまには他の人間とも仲良くしてみたらどうだ、俺とか』って言い出してね、即否定してやったわ」

 明らかな好意の現れに思えるが、それでもシックは気が付かないらしい。
 相当レイギアの事が嫌いなのか、気付いた上で無視しているのかは見当が付かなかった。

「私はシュガと居るのが楽しいから居るんだーって言ってやったわよ」

 ふふんと、鼻を高くして誇らしげに話す。

「ありがとうございます」
「あっいや!純粋な気持ちでね」

 何について訂正を入れたのかシュガは分からなかったが、気にもならなかったため軽く流した。

「私も、純粋な気持ちで感謝しています」

 シックが嬉しそうに笑う姿に、素直な気持ちで永遠を望んだ。

***

 相変わらず仕事は淡々と用意され、淡々と終わってゆく。
 けれどその間に考えるのは、毎度リュジィの、いや正しくはリガの事で、分からなくなる自分の気持ちや後悔に苛まれてばかりいる。

 リガはまだ怒っているのだろうか。幾らなんでも長すぎやしないか、と逆の発想をしてみたりもしたが、本当に大事な人だったのであれば怒る理由も納得できるような気がしてしまうのだ。
 助けられたのに、助けなかったのだから。

 けれどやはり、リガが死んだ姿を見るのも嫌だ。
 大切な人の死体を見るのは辛く、とても気分の悪い物だと知っているから。
 シュガは久しぶりに入った布団の中で、その事ばかりを巡らせていた。

***

「私の命を使ってよ!そうしたら治るんでしょう!?」

 自分がどこにいるかも分からないのに、そんな声だけがはっきりと聞こえて来た。
 と思った次の瞬間、自分は施設の中に居た。
 自分が見ているのは今とは違う食堂で、でもよく知った懐かしい食堂だった。
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