15 / 25
第十五話
しおりを挟む
次の日も、次の日も次の日も、何日もリガがシュガの前に姿を見せる事は無かった。見せたとしても、避けるように逃げていってしまう、そんな状態が続いていた。
シックは「きっとまだ混乱しているだけなのよ」と笑って慰めてくれて、シュガ自身もその内時間が解決してくれるだろうと己を宥めていたが、これだけあからさまに避けられると、やはり良い心地はしない。
「あの時、力を使っているべきだったのでしょうか」
ついには、後悔まで膨らんできた。
シックにはその後、当時の状況をそのまま話した。
「きっと使わなくて正解だったよ。リガを殺すなんて私も絶対したくないし、もしたくさんの人に見られていたらシュガの立場もよくないし、これからの事を考えるとね…」
「そうですよね」
妥当な意見をもらって、また考える。考えると、また違う無意識に気が付いてしまった。
もしかして自分は、これからの立場を気にして、大切な友人を見殺しにしたのだろうか。
あの場に居た誰かを使えば、少なくともリュジィは助かり、リガはあれほど落ち込まなかっただろう。
ーー誰かは死ぬ事になるけれど。
そうしなかったのは、自分の立場を気にしたからだろうか。
仲間を殺した場面を見られて、嫌われ非難され、もしかすると迫害され追い出され、最悪殺されるかもしれない。
もしかすると、無意識の内に、それを気にしたのかもしれない。
そう結論ずくと、リガに対しての、リュジィに対しての罪悪感が強くなった――気がした。
「そう言えば聞いて、この間レイギアがさー」
シックは、考え込むシュガを見ていられなくなったのか、軽快なテンポで違う話題を切り出した。
「『シュガばかりに構わないで、たまには他の人間とも仲良くしてみたらどうだ、俺とか』って言い出してね、即否定してやったわ」
明らかな好意の現れに思えるが、それでもシックは気が付かないらしい。
相当レイギアの事が嫌いなのか、気付いた上で無視しているのかは見当が付かなかった。
「私はシュガと居るのが楽しいから居るんだーって言ってやったわよ」
ふふんと、鼻を高くして誇らしげに話す。
「ありがとうございます」
「あっいや!純粋な気持ちでね」
何について訂正を入れたのかシュガは分からなかったが、気にもならなかったため軽く流した。
「私も、純粋な気持ちで感謝しています」
シックが嬉しそうに笑う姿に、素直な気持ちで永遠を望んだ。
***
相変わらず仕事は淡々と用意され、淡々と終わってゆく。
けれどその間に考えるのは、毎度リュジィの、いや正しくはリガの事で、分からなくなる自分の気持ちや後悔に苛まれてばかりいる。
リガはまだ怒っているのだろうか。幾らなんでも長すぎやしないか、と逆の発想をしてみたりもしたが、本当に大事な人だったのであれば怒る理由も納得できるような気がしてしまうのだ。
助けられたのに、助けなかったのだから。
けれどやはり、リガが死んだ姿を見るのも嫌だ。
大切な人の死体を見るのは辛く、とても気分の悪い物だと知っているから。
シュガは久しぶりに入った布団の中で、その事ばかりを巡らせていた。
***
「私の命を使ってよ!そうしたら治るんでしょう!?」
自分がどこにいるかも分からないのに、そんな声だけがはっきりと聞こえて来た。
と思った次の瞬間、自分は施設の中に居た。
自分が見ているのは今とは違う食堂で、でもよく知った懐かしい食堂だった。
シックは「きっとまだ混乱しているだけなのよ」と笑って慰めてくれて、シュガ自身もその内時間が解決してくれるだろうと己を宥めていたが、これだけあからさまに避けられると、やはり良い心地はしない。
「あの時、力を使っているべきだったのでしょうか」
ついには、後悔まで膨らんできた。
シックにはその後、当時の状況をそのまま話した。
「きっと使わなくて正解だったよ。リガを殺すなんて私も絶対したくないし、もしたくさんの人に見られていたらシュガの立場もよくないし、これからの事を考えるとね…」
「そうですよね」
妥当な意見をもらって、また考える。考えると、また違う無意識に気が付いてしまった。
もしかして自分は、これからの立場を気にして、大切な友人を見殺しにしたのだろうか。
あの場に居た誰かを使えば、少なくともリュジィは助かり、リガはあれほど落ち込まなかっただろう。
ーー誰かは死ぬ事になるけれど。
そうしなかったのは、自分の立場を気にしたからだろうか。
仲間を殺した場面を見られて、嫌われ非難され、もしかすると迫害され追い出され、最悪殺されるかもしれない。
もしかすると、無意識の内に、それを気にしたのかもしれない。
そう結論ずくと、リガに対しての、リュジィに対しての罪悪感が強くなった――気がした。
「そう言えば聞いて、この間レイギアがさー」
シックは、考え込むシュガを見ていられなくなったのか、軽快なテンポで違う話題を切り出した。
「『シュガばかりに構わないで、たまには他の人間とも仲良くしてみたらどうだ、俺とか』って言い出してね、即否定してやったわ」
明らかな好意の現れに思えるが、それでもシックは気が付かないらしい。
相当レイギアの事が嫌いなのか、気付いた上で無視しているのかは見当が付かなかった。
「私はシュガと居るのが楽しいから居るんだーって言ってやったわよ」
ふふんと、鼻を高くして誇らしげに話す。
「ありがとうございます」
「あっいや!純粋な気持ちでね」
何について訂正を入れたのかシュガは分からなかったが、気にもならなかったため軽く流した。
「私も、純粋な気持ちで感謝しています」
シックが嬉しそうに笑う姿に、素直な気持ちで永遠を望んだ。
***
相変わらず仕事は淡々と用意され、淡々と終わってゆく。
けれどその間に考えるのは、毎度リュジィの、いや正しくはリガの事で、分からなくなる自分の気持ちや後悔に苛まれてばかりいる。
リガはまだ怒っているのだろうか。幾らなんでも長すぎやしないか、と逆の発想をしてみたりもしたが、本当に大事な人だったのであれば怒る理由も納得できるような気がしてしまうのだ。
助けられたのに、助けなかったのだから。
けれどやはり、リガが死んだ姿を見るのも嫌だ。
大切な人の死体を見るのは辛く、とても気分の悪い物だと知っているから。
シュガは久しぶりに入った布団の中で、その事ばかりを巡らせていた。
***
「私の命を使ってよ!そうしたら治るんでしょう!?」
自分がどこにいるかも分からないのに、そんな声だけがはっきりと聞こえて来た。
と思った次の瞬間、自分は施設の中に居た。
自分が見ているのは今とは違う食堂で、でもよく知った懐かしい食堂だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる