一年の川田まで!

有箱

文字の大きさ
1 / 3

一冊の本

しおりを挟む
 長い昼休みは、いつも図書室で時間を潰す。
 なぜなら、人が苦手だからだ。

 決して、友達が要らない訳じゃない。
 しかし、話が途切れてしまうことや、飽きられてしまうことが怖く話し掛けられないのだ。
 結果、二年生中期に入っても、私は一人ぼっちだった。

 いや、自ら孤立しているというべきか。最近は、人付き合いは諦めて、一人でも寂しくならない方法を探すようになった。
 その結果が、この場所だ。

 元から本好きと言うこともあり、この場所は最高の退屈凌ぎになった。
 それでも、〝このままで良いのか〟との疑問は毎日のように付き纏ったが。


 我が校の図書室は、はっきり言って過疎化している。
 元々が児童数の少ない学校だ。加えて、本の数も地元図書館の半分以下。更に、部屋自体が狭いとなれば来たがらないのも当然だろう。

 と言うことで、図書室は、ほぼ毎日貸し切り状態だった。



 丸一年ほど通い詰めたからか、ここにある本は大体読破した。最近では、未読の本を探す方が大変だ。

 最初からこうなる事を見越し、端から読んでいけば良かった。そう後悔するのは何度目だろう。

 壁際から順に、棚の前をうろうろする。まだ見ぬタイトルを探し、目を凝らして背表紙を見ていく――。

 すると、とある棚の端、一冊の本が奥まっている事に気付いた。妙な隙間を発見し、覗き込んでみたところ入っていたのだ。

 指先を滑らせ、本に手を掛ける。意外にも、それはするりと抜けた。文庫本程度の小さな本が出てくる。

 ――瞬間、目に入った表紙は白かった。
 本当に真っ白で、ロゴ一つ描かれていない。斬新過ぎてワクワクする表紙だ。

 どんな本かを想像する為、自然の流れで背表紙を見る。

「えっ……」

 思わず声が漏れた。確かめるように、文字を少しなぞってみる。

 確りとした本の背表紙、そこには手書きのタイトルがあった。
 綺麗な文字で〝僕は恋心を知らない〟と書かれている。
 一瞬、そういう字体なのかと思ったが、インクの滲みなどが明らかに印刷とは違った。

 と、いう事は。

 確信を得るため、中身を開いてみた。視界に入ってきたのは、全てボールペンで書かれた文字だった。

 その瞬間、想像は確信に変わる。
 これは、誰かが綴った物語だ。



 本探しに時間を費やしてしまい、結局目を通せなかった。しかし、内容が気になったため借用した。

 教師は、放課後しか図書室に来ない。ゆえに、誰かにも見られずに借りられた。
 自分だけの楽しみを得たようで、少し胸が躍った。



 午後からの授業も、ずっと上の空だった。本の内容や、どういった経緯で収められていたのかを想像し、期待を高まらせた。

 そうして、やっとのこと帰宅し、今から本を開けるところだ。
 本日は金曜日で、土日は丸々休み。好きなだけ本に没頭できる。
 
 どんな世界が、ここにはあるのか。
 私は、宝箱を開くようにページを開けた。



 この物語の主人公は、恋心を持たない男子高校生。知らないのではなく、持たないのだと強調されていた。

 そんな彼がある日、別の組の女の子から告白される。けれど、もちろんのこと彼は断る。

『僕は、貴方を好きにはなれないから』
『知っています。それでも私にチャンスを与えて欲しいんです。恋人ごっこでも良い、友達からだって良い。私と付き合ってくれませんか?』

 そこから、二人の物語は幕を開ける――。


 読み進める度、引き込まれた。手書きゆえ、誤字が盛大に塗り潰してあったりもするが、それでも集中を切らさずに読めてしまう。
 情景描写、ストーリー展開、どれをとっても上手い。

 執筆経験はないが、それでも分かった。きっと、これを書いた人も本が好きなのだろう。
 特に心理描写が細かく書かれており、話にリアリティを感じる。
 最後、この二人がどうなるか楽しみだ――。

 と、期待していたのも束の間、突然ページから文字が消えた。切り良くは切られているが、明らかに途中だ。

 次のページを捲ってみても、空白が広がっているだけで何もない。当然、次も、その次も何も無かった。

 だが、最後のページに、やっと文字を見つけた。

〝これを見つけた勇者には素敵なプレゼントをあげます。一年の川田まで〟

 そんなメッセージと共に、住所まで記載されている。
 正直、唖然とした。胸の騒がしさは、違う形となり再始動する。

 ――プレゼントもだけど、先が気になる。
 こんな事なら、課題を済ませてから読むんだった。

 そう後悔すると同時に、どうするべきか悩み始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

処理中です...