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力の抜けた足で、美しい町を歩く。しかし、今は景観など目に入らなかった。微塵も考えなかった訳ではないが、視野に入っていなかった――いや、除いていた。
兄が、既に亡くなっていたなんて。
あの後、現場への案内を頼んだところ、青年は快く承ってくれた。アロは話が嘘であると証明したくて頼んだのだが、結果は真実を突きつけられただけに終わった。
夕暮れの町を、フラフラと歩く。アロ自身、ここまでの絶望感を覚えるなど予測していなかった。
不意に腕が引かれる。力の先には淡く怒気を見せるアロがいた。だが、すぐに心配そうな顔に変わる。
「……大丈夫? 探したんだよ」
「ロン……」
受け止めきれない現実を逃がすように、声が溢れ出した。
「お兄ちゃん、死んじゃってた……!」
何度も何度も、繰り返し叫ぶ。兄は事故の少し後、病で亡くなったのだと青年は言った。
そこからの会話はよく覚えていない。ただ目の前が真っ暗になっていた。
「落ちついてアロ!」
「嫌だ、なんで! だってそんな……」
「まだ決まった訳じゃないでしょ!」
「え?」
「ほら、誰に聞いたのか分からないけど間違った情報かもしれないでしょ」
混乱の中に入り込んだ声が、小さく煌めきを放っている。すがりつきたい気持ちが揺れたが、受け入れるにはあまりにも根拠がない。
脳内が纏まりのない感情でまぜこぜだ。
「そんなことない……だってすごく詳しかった……」
「じゃあ伝えられない事情とかがあるのかもしれないじゃない。だからもう諦めて帰ろうよ」
「でも、嘘言ってる顔には見えなかったよ……」
「それなら尚更だよ。死んでしまってる人を探すなんて」
ロンの発言に、アロははっと気付く。候補から外していた、ある可能性が残っていることに。
「そっか、そうだ……」
「アロ、どちらにしても、もう探すのはやめようよ。そろそろ帰る時間だし、これ以上アロが傷つくのは見たくない」
「ロンごめん、私もうちょっとだけ探す! だから先に帰ってて!」
「え、ちょっとアロ!」
ロンの制止を振り切り、アロは走り出す。もう一度兄に会える。そんな気がした。
がむしゃらに青年を探す。アロが見出した可能性、それは生まれ変わりだった。現に自分がそうなのだ。ゆえに非現実だとは思わなかった。
違ったとしても、隠し事があるなら知りたいし、聞き損ねた話も聞き直したい。例え強引になっても。深く消えない傷ができても。
運命は味方しているのか、すぐに青年の姿を見つけた。アロには、その姿が兄に似て映った。彼の年齢は定かではないが、生まれ変わった兄であってもおかしくない。
見失わないよう一心に姿を追う。時々人にぶつかりかけたが、構う暇さえなかった。
もうすぐ真実に届く――と、得体のしれない感覚が荒ぶりだす。
ずっと言いたかった。ごめんと。貴方が好きだ、と。もうすぐ言える気がする――。
「リゼット!」
「えっ」
ロンの叫びが耳を突いた。同時に、激しい空気の動きも察知する。それと音も。
状況に困惑するアロの前には、あの日と同じ景色があった。
なぜ、ロンが言ってもいない生前の名を知っているのか。
その理由は一つしかない。ああ、そうかロンが――。
馬車が近付く。動いていた足は完全に止まってしまった。擦れ違いは運命との言葉は、真実だったのかもしれない。
次の瞬間、体が地面から浮き上がっていた。不可抗力の内に飛ばされ、空を見た。
兄が、既に亡くなっていたなんて。
あの後、現場への案内を頼んだところ、青年は快く承ってくれた。アロは話が嘘であると証明したくて頼んだのだが、結果は真実を突きつけられただけに終わった。
夕暮れの町を、フラフラと歩く。アロ自身、ここまでの絶望感を覚えるなど予測していなかった。
不意に腕が引かれる。力の先には淡く怒気を見せるアロがいた。だが、すぐに心配そうな顔に変わる。
「……大丈夫? 探したんだよ」
「ロン……」
受け止めきれない現実を逃がすように、声が溢れ出した。
「お兄ちゃん、死んじゃってた……!」
何度も何度も、繰り返し叫ぶ。兄は事故の少し後、病で亡くなったのだと青年は言った。
そこからの会話はよく覚えていない。ただ目の前が真っ暗になっていた。
「落ちついてアロ!」
「嫌だ、なんで! だってそんな……」
「まだ決まった訳じゃないでしょ!」
「え?」
「ほら、誰に聞いたのか分からないけど間違った情報かもしれないでしょ」
混乱の中に入り込んだ声が、小さく煌めきを放っている。すがりつきたい気持ちが揺れたが、受け入れるにはあまりにも根拠がない。
脳内が纏まりのない感情でまぜこぜだ。
「そんなことない……だってすごく詳しかった……」
「じゃあ伝えられない事情とかがあるのかもしれないじゃない。だからもう諦めて帰ろうよ」
「でも、嘘言ってる顔には見えなかったよ……」
「それなら尚更だよ。死んでしまってる人を探すなんて」
ロンの発言に、アロははっと気付く。候補から外していた、ある可能性が残っていることに。
「そっか、そうだ……」
「アロ、どちらにしても、もう探すのはやめようよ。そろそろ帰る時間だし、これ以上アロが傷つくのは見たくない」
「ロンごめん、私もうちょっとだけ探す! だから先に帰ってて!」
「え、ちょっとアロ!」
ロンの制止を振り切り、アロは走り出す。もう一度兄に会える。そんな気がした。
がむしゃらに青年を探す。アロが見出した可能性、それは生まれ変わりだった。現に自分がそうなのだ。ゆえに非現実だとは思わなかった。
違ったとしても、隠し事があるなら知りたいし、聞き損ねた話も聞き直したい。例え強引になっても。深く消えない傷ができても。
運命は味方しているのか、すぐに青年の姿を見つけた。アロには、その姿が兄に似て映った。彼の年齢は定かではないが、生まれ変わった兄であってもおかしくない。
見失わないよう一心に姿を追う。時々人にぶつかりかけたが、構う暇さえなかった。
もうすぐ真実に届く――と、得体のしれない感覚が荒ぶりだす。
ずっと言いたかった。ごめんと。貴方が好きだ、と。もうすぐ言える気がする――。
「リゼット!」
「えっ」
ロンの叫びが耳を突いた。同時に、激しい空気の動きも察知する。それと音も。
状況に困惑するアロの前には、あの日と同じ景色があった。
なぜ、ロンが言ってもいない生前の名を知っているのか。
その理由は一つしかない。ああ、そうかロンが――。
馬車が近付く。動いていた足は完全に止まってしまった。擦れ違いは運命との言葉は、真実だったのかもしれない。
次の瞬間、体が地面から浮き上がっていた。不可抗力の内に飛ばされ、空を見た。
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