造花の開く頃に

有箱

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10月1日

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[10月1日、土曜日]
 カレンダーが、暦を変えた。今日から10月が始まる。
 月裏はリビングにて、剥がした9月のカレンダーを横目で見た。
 過ぎ去った過去はとても単調で、しかし後半に限り新しい風も運んできた。
 月日の始まりに対し、月裏は暗い感情しか持てなかった。

「おはよう」

 レンジが回るのを、考え事で頭をいっぱいにしながら見ていた月裏だったが、声に直ぐ顔を上げる。

「おはよう」

 譲葉は何も言わずに、指定の席に腰掛けた。
 その瞳の下に、隈がある事に気付く。その原因は明確だ。

「ごめんね、早い時間に起こして」
「…起きたくて、起きてるからいい」

 早朝から深夜まで、自分に合わせた生活リズムをとっているのだから、眠くなってしまうのは自然だ。

「昼寝とかしてる?」
「…………まぁ…」

 曖昧な、どちらとも付かない返事だったが、無言ならまだしも、受け取った上での追求は月裏には出来なかった。

「そう」

 レンジの音が鳴って、準備完了を知らせた。

 今日も、譲葉に見送られて家を出た。
 また、苦しい一日が始まる。死にたくなる一日が始まる。それでもここ数日、真剣に死に付いて考える暇が減ったように思う。
 その分、隙間を埋めているのは――。

 月裏は思わぬ効能に気付き、小さな希望を見つけた気がした。
 勿論、一瞬思っただけだが。

 会社にいる間は、なぜか我慢ができる。
 軽い手の震えや強迫感などは毎日あるが、嘔吐したり泣いてしまったりと、明らかな症状は我慢できてしまう。
 いっその事、現れれば何か変わるだろうか。
 と思いながらも、我慢して遣り過ごしてしまうのだ。つくづく、都合の悪い身体である。

 月裏は、降り注ぐ厳しい言葉の数々を聞き流しながらも、ストレス感情だけ心に残していった。

 10月の夜風は、冷たい。
 月裏は無意識に早足になっていて、その勢いで扉を開け放った。

「えっ」

 すると玄関先の廊下に、僅かに瞳を見開いた譲葉が座っていた。
 直ぐに理由を理解する。
 左手でスケッチブックが支えられ、右手に鉛筆があったのだ。顔向きから、描いていたのは飾られていた造花だと思われる。

「早速使ってくれてたんだ」

 譲葉は浅く頷くと、ページを閉じてしまった。

「…ありがとう」

 親切を迷惑がらず受け容れてくれた事実が見えて、月裏は少し傷が癒された気分になった。
 譲葉はというと、感謝された意味が分からないのか、訝しげに少し眉を顰めていた。
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