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11月3日
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[11月3日、木曜日]
アラーム起動の前に、月裏は目を覚ましていた。確認した時刻は、まだ早朝3時を表示している。
何だか体が熱い。どうやら、雨に打たれた所為で熱を出してしまったらしい。
雨の中を走るなど、我ながら何て馬鹿な事をしたのだろうと今更後悔する。
体調が悪いと思い込むと、そこに吐き気も加わって来て胸まで苦しくなってきた。
眠っていられずにベッドを抜け出ると、水分補給を目的にリビングへと向かった。
体が震える。コップを持った手も震えている。あと数時間で仕事に向かわなくてはならないのに、体調を崩してしまうとはなんて失態だ。
月裏の視線は、自然と戸棚に向かっていた。面倒な事があると、直ぐに逃げたい衝動に駆られる。
しかし、扉が開く小さな音に気持ちは止められた。
「……月裏さん、大丈夫か?」
扉から姿を見せたのは、どこか不安げな譲葉だった。
「…………譲葉くん、ごめん起こした?」
「いや、辛いのか?」
「ううん、起きちゃっただけだよ、大丈夫」
月裏は震えを悟らせないように、コップをキッチンに置いた。
譲葉は少し黙り込んでから、指定席に腰を落とす。
「……寝ないの?」
「俺も起きてる」
やはり、倒れた日の事を気にしているのだろうか。
月裏は、譲葉の鋭い瞳に監視されている気がして窮屈間を覚えた。その為、笑顔で回避の一手を差す。
「大丈夫だよー、水飲んだらもう一回寝るから先に行ってて」
「…………分かった」
譲葉は浅く頷くと、立ち上がり部屋を出て行った。
月裏は後ろ姿を見送りながらも、段々悲しくなってきて、譲葉が去った直後また泣いてしまった。
譲葉に不審視されないよう一応ベッドには戻ったが、眠れるはずも無く、結局意識が途切れる事は無かった。
頭が真っ白だ。明らかに熱の上昇を感じる。
けれど悟られないよう、普段の行動を心がけた。
作り笑いも時間配分も、変動のないように意識して平常を保つ。
上手く騙せたのか、譲葉は何の変化も無く送り出してくれた。
仕事中も地獄だった。頭は何時も以上にフワフワとしていて、相まって気持ちも落ち込む。時間は全く経過していかないし、一向に体は辛くなるばかりだ。
逃げたいと、またいつもの気持ちが浮上する。一分一秒を越すのが苦しくて苦しくて、いっそ、と考えてしまう。
けれど考えるだけで体は動かず、結局一歩たりともその場から動く事無く、時計は針だけ動かし続けた。
10時20分頃になり、月裏は自宅までの道を歩いていた。ふらふらとして、足元が覚束ない。
けれど極限状態になってまでも、譲葉に不調を悟られたくなくて、月裏は無意識の内に演技の仕方を考えていた。
譲葉は優しい。だからこそ、情けない姿を見せるのは避けたい。
もう気付かれているとしても失望されているとしても、これ以上イメージが落ちてしまわないよう自分を守りたいのだ。
月裏は笑顔の仮面を被り、扉を開いた。
「ただいま」
「おかえり」
譲葉は、小説に付属している紐を開いていた場所に挟みこみ、本を閉じた。そうして壁に手を宛て立ち上がる。
「今日も遅くなってごめんね、寝ようか」
睡眠を促す合図に、譲葉は首肯した。
「……おやすみ月裏さん」
「おやすみー」
少しずつ遠くなる背中に笑顔で手を振っていたが、奥の部屋に消えると同時に仮面は剥がれた。
アラーム起動の前に、月裏は目を覚ましていた。確認した時刻は、まだ早朝3時を表示している。
何だか体が熱い。どうやら、雨に打たれた所為で熱を出してしまったらしい。
雨の中を走るなど、我ながら何て馬鹿な事をしたのだろうと今更後悔する。
体調が悪いと思い込むと、そこに吐き気も加わって来て胸まで苦しくなってきた。
眠っていられずにベッドを抜け出ると、水分補給を目的にリビングへと向かった。
体が震える。コップを持った手も震えている。あと数時間で仕事に向かわなくてはならないのに、体調を崩してしまうとはなんて失態だ。
月裏の視線は、自然と戸棚に向かっていた。面倒な事があると、直ぐに逃げたい衝動に駆られる。
しかし、扉が開く小さな音に気持ちは止められた。
「……月裏さん、大丈夫か?」
扉から姿を見せたのは、どこか不安げな譲葉だった。
「…………譲葉くん、ごめん起こした?」
「いや、辛いのか?」
「ううん、起きちゃっただけだよ、大丈夫」
月裏は震えを悟らせないように、コップをキッチンに置いた。
譲葉は少し黙り込んでから、指定席に腰を落とす。
「……寝ないの?」
「俺も起きてる」
やはり、倒れた日の事を気にしているのだろうか。
月裏は、譲葉の鋭い瞳に監視されている気がして窮屈間を覚えた。その為、笑顔で回避の一手を差す。
「大丈夫だよー、水飲んだらもう一回寝るから先に行ってて」
「…………分かった」
譲葉は浅く頷くと、立ち上がり部屋を出て行った。
月裏は後ろ姿を見送りながらも、段々悲しくなってきて、譲葉が去った直後また泣いてしまった。
譲葉に不審視されないよう一応ベッドには戻ったが、眠れるはずも無く、結局意識が途切れる事は無かった。
頭が真っ白だ。明らかに熱の上昇を感じる。
けれど悟られないよう、普段の行動を心がけた。
作り笑いも時間配分も、変動のないように意識して平常を保つ。
上手く騙せたのか、譲葉は何の変化も無く送り出してくれた。
仕事中も地獄だった。頭は何時も以上にフワフワとしていて、相まって気持ちも落ち込む。時間は全く経過していかないし、一向に体は辛くなるばかりだ。
逃げたいと、またいつもの気持ちが浮上する。一分一秒を越すのが苦しくて苦しくて、いっそ、と考えてしまう。
けれど考えるだけで体は動かず、結局一歩たりともその場から動く事無く、時計は針だけ動かし続けた。
10時20分頃になり、月裏は自宅までの道を歩いていた。ふらふらとして、足元が覚束ない。
けれど極限状態になってまでも、譲葉に不調を悟られたくなくて、月裏は無意識の内に演技の仕方を考えていた。
譲葉は優しい。だからこそ、情けない姿を見せるのは避けたい。
もう気付かれているとしても失望されているとしても、これ以上イメージが落ちてしまわないよう自分を守りたいのだ。
月裏は笑顔の仮面を被り、扉を開いた。
「ただいま」
「おかえり」
譲葉は、小説に付属している紐を開いていた場所に挟みこみ、本を閉じた。そうして壁に手を宛て立ち上がる。
「今日も遅くなってごめんね、寝ようか」
睡眠を促す合図に、譲葉は首肯した。
「……おやすみ月裏さん」
「おやすみー」
少しずつ遠くなる背中に笑顔で手を振っていたが、奥の部屋に消えると同時に仮面は剥がれた。
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