造花の開く頃に

有箱

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11月4日

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[11月4日、金曜日]
 また、アラーム前に目覚めてしまった。熱に侵されているからか、酷い悪夢を見た。うろ覚えで内容は分からなかったが、不快感がそうであると悟らせた。
 汗で服が湿っている。
 月裏は一旦着替える為、譲葉を起こさないよう、そっと部屋を変えた。

 真っ暗な部屋に灯りを点すと、突然の眩しさが目を刺激する。
 月裏は急に、自分がまともに立っていないような感覚に襲われて、その場で屈み込んでいた。

 体も辛いが心が苦しい。形の定かでない恐怖感が、上から圧し掛かってくるみたいだ。
 不安定さをどこかで客観視しながらも、対処できない自分の弱さがとても不愉快だ。

 月裏は、揺れないカーテンを見つめて壁伝いに立ち上がった。
 カーテンの向こうへと意識が向く。
 だがその時、後ろの扉が薄く開いた。

「月裏さん」

 譲葉だ。彼は本当に丁度良いタイミングで訪れる。それはもう、不思議なくらいに。
 月裏は遠ざかった死を見送り、また笑って見せた。

 無理は月裏のスタンダードである。意識をしてもしなくても、人前で自分は正常だと演じてしまうのだ。
 それが更に己を苦しめていると気付きながらも、どうしても止められなかった。

「月裏さん、大丈夫か?」
「……大丈夫だよ」

 月裏は、火にかけた薬缶を見守りながら返事していた。故に、譲葉から背を向けた体勢になっている。

「…………なら良いが」

 譲葉の声が憂いを帯びている気がして、月裏はどうにか気持ちを逸らそうと試みた。

「……小説、面白い?」
「え? あぁ、面白い」
「どんな話か今度教えてね」

 沸騰したお湯が、薬缶を鳴らした。火を止めて、用意した急須にお湯を注ぐ。
 ゆらゆらと湯の中で踊りだす茶葉を、月裏はただ無情に見ていた。

 辛さが増している気がする。
 月裏はパソコンを見つめながら、零れそうになる咳を意識的に堪えていた。息を飲み込み、必死に静寂を守る。

「朝日奈、聞いてるか!」

 予測もしない名指しに、月裏は驚き肩を窄めた。恐る恐る上司の顔を見ると、酷い怒りを宿していた。

「昨日の書類、ここ間違ってたぞ。なんでこのくらい出来ないんだ、何年仕事してきてる」
「……す、すみません……」
「仕事って自覚あんのか? 遊びに来てるわけじゃ――」

 次々と並んでゆく言葉を拒否しながらも、更なる怒りを誘発しないため耳を塞ぐのは我慢だ。
 涙を堪え、震える手を隠して聞き続ける。
 しかし体は正直で、心の限界値を感じ取ったのか急な眩暈に襲われた。

「…………す、すみません、少、し…………」

 倒れる前に部屋を出ようと席を立ったのも束の間、月裏はその場で転倒していた。
 現状理解が出来ず、混乱する。
 しかしその中においても、起き上がらなくては謝らなくてはと心は叫んでいて、無意識の行動を促した。
 だが、意識で体は動かせず、月裏はその場で気を失ってしまった。
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