フレンドテロリスト

有箱

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 週に三、四日ほど、十八時から二十時までの短時間のみのアルバイトをしている。
 大学費用は親の仕送りに頼っているが、せめて私生活で発生する費用だけは自分で賄おうと考えた結果だ。

 焼肉屋の裏方兼ホールスタッフをしており、一番客足の多い時間帯も重なるため、へとへとまでは行かずとも随分疲れてしまう。
 しかし、これから自宅に帰り、レポートを作成するとのミッションが残っていた。

 焼肉屋の所在地は大学の近くで、白都の住むアパートへ帰るには、五分程度の短い時間だが電車に乗らなければならない。
 眠りそうになりながら電車に揺られ、到着駅で降りたら、更に五分歩く必要があった。

 その際、一年ほど前に見つけた近道を通ってゆくのだが、そのお陰で本来八分だった所を五分まで短縮出来ていた。
 帝にも近道の存在を教えたが、帝は自電車を使っていて、畦道は危ないから、と使用はしていない模様だ。
 因みに、白都はその道を勝手に“裏道”と呼んでいる。

 名からも滲む通り、人がほとんどと言っていいほど通らない。朝方は一、二人の人間を見かけるが、夜間となっては一人として見かけたことが無いくらいだ。
 見通しは悪いが車の通りも無く、街灯も無いが草木が覆っているだけなので多少道を踏み外しても問題は無い。

 白都は今日も、そんな裏道を歩いていた。
 細い月の照らす、比較的明るめの夜だ。星も燦燦と輝いており、見上げれば感動的な光景が広がっている。

 穂積のように自分も写真を撮ってみようかと衝動的に考え、鞄からスマートフォンを漁った。
 しかし黒色のスマートフォンは、陰に隠れて中々見つけ出せない。

 夢中で探していると、ふと顔前が影になり、暗くなったのに気付いた。
 顔をあげると、そこには人が立っていた。
 月光を遮る形で、目の前を陣取っている。白都はその黒々しい影に、思わず息を呑んだ。

 なぜならその影は、明らかに白都を見ていたからだ。しかもそのシルエットが特殊で、頭には動物のような三角の耳があり、体は大きなマントで覆われている。
 しかし、肝心の顔が見えない。何故遮って立っているのかの、見当すらつかない。

 事態に思考が追いつかず、混乱していると突然腹部に強い衝撃が走った。訳も分からないまま蹲る。

『動くな』

 ヘリウムガスで加工された声は、危険を彷彿させた。今、自分は事件に巻き込まれているのだ――と、考えずとも察する。

 恐る恐る上目使いすると、月影でキラリと光る刃先が見えた。カッターナイフの刃が全て出され、顔の前に寄せられている。
 命の危機に、呼吸が詰まる。

『言う事を聞かなければ殺す』

 声が喉の奥で滞り、白都は必死に頷いていた。今は命令の内容より、命を守る方が優先だと本能が働いたのだ。

『この事は誰にも話すな。話したらお前も家族も友人も、全員死ぬと思え』

 白都は発言されるまま、全てを飲み込んだ。飲み込まざるを得なかった。
 どういった無理難題が告げられるのか、恐れながら刃先を見ていると、唐突に首に宛てられる。
 夜風に曝された冷たい刃が、喉元にくっ付いて緊張を誘った。

『警察に行っても助からないと思え。自分だけ逃げるなんて絶対に考えるなよ』

 何度も念を押され、何度も頷く。恐怖から逃れたい一心で、ひたすら状況を飲み込み続ける。

『よし、じゃあ命令は連絡で寄越す。待っていろ』

 そう言うと、御面の人間はカッターを仕舞い、マントを揺らして颯爽と去っていった。

 ――解放された瞬間、力が抜け座り込んでいた。土がつくのも構わずに、ぺたりと膝を付いてしまう。
 助かった。殺されずに済んだ。
 そう安堵するのも束の間、残された不可解な台詞が蘇る。そこから、純粋な疑問が湧いた。
 “連絡”とは一体どんな手段でされるのだろうか、と。

 白都は携帯を探していたことを思い出したが、どうしてか触れるのが嫌で、捜索を続行しなかった。
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