フレンドテロリスト

有箱

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「どうかしたか?」

 帝の第一声に、白都は驚く他なかった。
 偶然出る時間が被り、上階から降りてきた彼と出会った直後、そう言われたのだ。

「え? 何か可笑しかった? あっ、上着? まだ変かな?」

 普段通りの顔付きを意識し、無理矢理でも堅くもない笑顔を作り上げる。

「いや、確かにまだ昼間は暑いが、夜間は寒いから良いんじゃないか?」
「そうだよね、僕も迷ったんだけど――」

 帝は訝しげにしながらも、眼鏡のフレームに人差し指をかけ軽く持ち上げる。それから、『私もそろそろ出すか』と言いながら目を逸らした。

 昨日の一件が、まだ脳内に鮮明なまま残っている。
 負傷こそなかったが、ありのままの恐怖が心に刻まれており、気を抜くと感情に飲まれそうになってしまう。
 帝はもちろん、周囲の人間に昨日の一件を知られる訳には行かないのに。

 知られてしまえば、恐らく自分は殺されるだろう。
 勝手な想像が働き、残酷な場景が浮上した。淡い死の恐怖に、悪寒が走り表情が硬くなる。
 しかし気付かれないよう、意識しては直し、を繰り返した。

 帝は元々あまり干渉してこないタイプだったため、以降気にかける発言は無かった。

***

 昼食時、屋上に行くと侑也と日向が既に食事を開始していた。どうやら今日は、穂積と和月は居ないらしい。
 専攻も違えば学年も違う為、昼食の時間にメンバー全員が揃うことはあまり無い。

「白都さん、帝さん、待ってましたよ!」

 嬉しそうに右手を大振りする侑也の横、日向も控え目に会釈する。その手に弁当は無いが、彼には昼食を取る習慣がないため、これは普通だ。
 侑也は、共に暮らしていると言う祖母手作りの、和食中心の弁当を膝の上に広げている。

「……そうだ、安斎さん今日ってバイトありましたっけ?」

 表情の乏しい日向が、小さな欠伸を語尾に付け零す。視線は、全く白都に注がれていなかった。

「いや、今日は無いよ」

 日向の用件は、言葉にされずとも理解出来る。なぜならこの会話は、よくある遣り取りだからだ。

「……だったら、大学終わってからどうですか……」
「うん、そうだね。じゃあお願いしようかな」

 何を頼んだかと言うと、勉強の指南だ。バイトの無い日を中心に、勉強を見てもらっているのだ。
 当初の抵抗は、見下す気のない日向の無頓着さによって直ぐ消えた。

 心の中では昨日の一件が引っかかっていたが、普段通りにしていないと、幾ら日向でも勘づいてしまうかもしれない。
 白都は内心悶々としながらも、極力表面に現さないよう努めた。

***

 帰り道、わざと裏道を避け帰宅した。時間帯的にもまだ日差しが残っていたが、拒否感が拭いきれず長距離になる道を使用した。
 安全性の高い道を利用すれば、今後あの得体の知れない人物と会うことは無いだろう。
 ――恐らくは。

 描ききれない未来を懸念しながら、白都は忙しく駆け足で道を辿った。
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