フレンドテロリスト

有箱

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 夜、日向が自宅に訪ねて来た。チャイムが鳴った時は一瞬警戒心を抱いたが、日向だと分かった途端、警戒心は薄れた。

「どうぞ」

 日向はぼうっとしながらも、脱いだ靴を丁寧に揃え、廊下にあがる。見た目に反し、彼は意外に几帳面なのだ。
 玄関脇の靴入れの上、置かれた家族写真を横目に見ながら、日向は思い出すような仕草を取る。だが、すぐに通り過ぎた。

 白都の部屋はとても殺風景である。基本的に物が少なく、ほとんど必要物しか置いていない。冷蔵庫も冷凍食品が多く、冷凍機能ばかりが使われている状態だ。
 キッチンや冷蔵庫などの必需品を除けば、パソコンとベッドと丸机、それと勉強机が各一つずつ置かれている程度だった。因みにパソコンは勉強机の方にある。

 日向と学習する際は、床に置かれた丸机の方を使用した。ペットボトルからコップに移した茶と、コンビニで買ったお菓子を用意して、相対して勉強する。これが、いつものスタイルだった。

 日向は教え方が上手く、わざわざ足を運んでくれるのが申し訳ないほどには短時間で勉強は終了する。

「お疲れ様です。じゃあ僕も良いですか」

 しかし、あえて足を運んでくれるのは、勉強後の週間が関与していた。
 日向は睡眠が好きで、常に寝心地の良い場所を探しているらしい。そんな彼にとっての、現時点のベストポジションこそ、白都の膝の上だった。

 丸机の上を片付け次第、日向は白都の膝に頭を委ねる。そうして数秒で眠ってしまった。スピーディな就寝には、いつも驚かされる。元々幼顔ではあるが、眠っていると更に幼く見えた。

 静かになった空間に居ると、背後に気配を感じてしまい、心がざわつく。
 もし、あの人物に見られていたら。日向を危険に晒してしまうかもしれない。
 けれど、友人を遠ざけることで、事件を悟られてしまうリスクも避けなければならない。

 変化していないはずの有り触れた日常が、薄暗い闇の中に沈んでゆく――そんな形の無い恐怖が湧き上がり、延々消えなかった。
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