フレンドテロリスト

有箱

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 目覚めは最悪だった。原因は昨夜の一件に寄る警戒心と、もう一つ、受信音が聞こえたからだ。

 恐る恐る机上の携帯を手繰り寄せ、ボタンを押すと通知が表示される。
 ぱっと目に飛び込んだ名前は、負の感情を容赦なく連れ込んだ。白都は躊躇いつつも、即刻内容に目を通す。

¨お早うございます。方法に困っていると思いましたので、アドバイスです。壊す備品が見つからないなら、遠くから石を投げて、窓ガラスを壊すのはいかがでしょうか。東側の校舎裏の端辺りには、丁度良い大きさの石がありますよ。¨

 用件はそれだけだった。命令が付け加わるか、無茶振りを要求されるか、と怯えていた白都にとって、アドバイス一つだけの連絡は意外でしかなかった。

 それに、方法に困っていたのは事実だ。見つけられない、イコール実行不可に繋がってしまうのだから、アドバイスは純粋にありがたい。
 だが、それでも親切心は妙でしかなかった。

 自分が御面だったら、遂行されない方が面白いのではと考えてしまう。どうやら御面は、一般人とどこか掛け離れた部分を持っているらしい。

 白都は、一刻でも早く完了しなければ……と逸りだす心に背けず、早い時間にも拘らず登校準備を開始した。

***

 裏道を使用し徒歩で五分、そして駅から五分――合計十分で学校に着いてしまった。
 授業までには、まだ多くの時間が残されており、余裕はかなりある。ただ、時間的余裕があっても、精神的余裕はあまり無いが。
 白都は、早めに済ませてしまいたいと、アドバイス通り校舎裏へと直行した。

 罠が張られている可能性も考慮したが、それらしいものは愚か、今回も人っ子一人居なかった。授業中の所為もあるかもしれないが、何とも奇妙だ。
 あまりに都合が良すぎて、訝しさが立ち込める。しかし疑っていては何も出来ないと、白都は適度な大きさの石を手にとった。

 ――このまま窓を割ったら、直ぐに人が駆けつけ、犯人探しが開始されるだろう。
 目撃者が居たら、捕まって動機を問いただされるかもしれない。答えられなければ退学かもしれないし、家族に迷惑もかけてしまうだろう。

 いや、その前に御面に罰を下されるのが先か。
 大事《おおごと》になったとして命を奪われるかもしれない。そこまで行かなくとも、再起不能になるまで痛めつけられるかもしれない。
 なんにせよ、上手く遂げるしか道は無いのだ。

 白都は様々な可能性を考慮し、張り詰めた緊張感の中で感覚を研ぎ澄ませた。
 どこかを歩く人の足音、声の距離、窓ガラスを破壊した後の逃亡ルート、その後の授業までの時間の潰し方など、極限まで神経を張り、見極め、白都は意を決して石を窓に投げつけた。

 窓ガラスの割れる鋭い音を聞きながら、白都は走っていた。
 御面が事後行動まで考えていたのか定かでは無いが、偶然にも付近に裏口が有り、しかも鍵が開いていた為、そこから大学敷地外へ飛び出すことが出来た。

 しかも飛び出した先も裏通りらしき場所で、人の気配は全くない。
 白都は予定していた目的地に向かって、違和感の無いよう早歩きで向かった。

 目的地とは図書館だった。
 大学にも図書室はあるが、図書館の方が本の種類が充実しており、しかも近いという理由で、こちらを利用する学生は数多く存在する。
 白都もレポートに詰まったりした際、時々訪れた経験があった。

 ちらほら居る利用客や従業員の目が自分に向いているようで身が縮まったが、冷静でいなければとの意識が平然とした態度を維持させた。
 適当に本を手に取り、一人用の椅子へと腰掛ける。
 今頃大学は大騒ぎだろう。意図的に窓が破壊されたのだ、問題にならない訳がない。

「……あれ? 安斎さん……?」

 背後から掛けられた声に一瞬背筋が凍った。だが、相手を認識し、すぐに緊張は解ける。

「日向君、来てたんだ」
「……はい。安斎さんも授業まだなんですね……」
「うん、あと一時間くらいはあるかな」

 日向は図書館の常連だ。以前も今と同じように出会った経験があり、その時に聞いた。本が好きで、よく借りてもいるそうだ。
 日向は、声を掛けた後のことを考えていなかったらしく、その場で立ち尽くしてしまった。相変わらず眠そうで、上の空にも見える。

「……眠そうだね?」
「…………はい……眠いです……」
「授業何時から?」
「……お昼過ぎです……」
「少し仮眠取ったら?」
「…………そうですね、じゃあ安斎さんが行くまで……」

 日向は近い位置にあるソファに座り込むと、早くも寝息を立てだした。その無防備な寝顔を見詰めながらも、白都の意識は現在の大学へと注がれていた。
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