フレンドテロリスト

有箱

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 授業に参加すると早速、窓の話が教師の口からされた。名指しされるのではないかと内心怯えていたが、『犯人はまだ分からない』との言葉を聞き、深い安堵に包まれる。

 ざわつく教室はすぐに沈められ、講義が開始された頃にはいつもの空気へと戻っていた。
 抜けきらない緊張感と、取りあえずの安堵感が、交じり合って心が重い。

「窓の話、聞いた?」

 昼食中、口火を切ったのは和月だった。恐らく全授業前に教師が話をしているのだろう。
 授業が昼からなのに拘らず、昼食に参加していた日向と穂積だけが知らなかったらしく、浅く首を傾げた。

 帝はパンを頬張りながら同意する。白都は傷のある手の平に――見えているのは甲だが――気を取られながらも、気付いて流れで頷いた。
 因みに、気を遣っているだけあって、まだ誰の視線も手の平に集めていない。

「いったい誰が割ったんですかね? 窓割るなんて学校に恨みでもあったとか……前にも椅子に模型? みたいな悪戯もありましたし……」

 侑也は仕草と表情つきで疑問を声にする。少し間をあけてから、「あ、窓はどうやら石で割られたらしいですよ」と情報を付け足した。

 白都は、出来事の数々が目の前で話題にされ、緊迫感と罪悪感を感じていた。真実を知るせいで、それは深く、重くなる。だが、笑って話を聞き続けた。

「ブザーも結局誤作動で片付けられてたけど今になればちょっと怪しいですよね……」

 何か言わなければ、話に参加しなければ――と焦りを覚えたが、上手く入れず聞くばかりになってしまう。終わったはずの出来事まで話に足されてゆき、更に迷いが生じてしまう。

「……まぁ、ストレス溜まってたのかもねぇ……」
「なるほど、ストレスね。就活とか息詰まるもんね」

 だが、穂積の見解と和月の同意に、白都はやっと救われた気持ちになった。ようやく、自然な台詞を一つ思いつく。

「やっぱ大変ですか? 就活」
「うん。就活だけならまだしも、卒論制作とかあるしね」

 四年生である彼らは、授業の他に就職活動や卒業論文、作品制作などを抱えていると聞く。必然的に、他の学年に比べ多忙になるのだ。

「でも、誰にも怪我がなくて良かったねぇ……」

 穂積はにっこりと微笑むと「それより」と話題を早々切り替えた。

 他愛ない会話だけが、心を穏やかにする。危害を加えられる心配が無いからか、心労が緩和される。それでも緊張感は続いたままだが。

 ふと、背後から鋭い視線を感じた。皆の気に障らない程度に浅く振り向いたが、扉には誰も居なかった。

「白都」
「えっ、あっ、何?」

 帝に呼ばれ焦りを覚える。

「やっぱり、野菜は新鮮な方が良いから、玄関にでも掛けておこうと思うが良いか?」

 しかし早めに用件を告げられ、すぐ笑顔の演技に専念できた。

「いや、貰いに行くよ」

 自ら行くと告げておいて、手間ばかり掛けさせても申し訳ない。そう考え、白都は反射的に告げてしまっていた。
 接触は避けた方がいいと考える傍ら、距離を取りすぎていては違和感にも繋がりかねない――そう考えた結果の答えだ。

「そうか、分かった。駄目になったなら連絡をくれ」
「うん、ありがとう」

 カメラのシャッター音が不意に鳴り、振り向くと穂積が微笑んでいた。

「今いっぱい写真取らなきゃね」

 卒業の話をしたからか、穂積はほんの少し寂しげに眉を落とす。
 白都は、穂積の見ているであろう少し先の未来を描いてみたが、上手く形にすることが出来なかった。

 彼らが卒業式を迎える頃、現状はどう変化しているだろうか。誰かが傷ついたり傷付けられたり、耐え難い出来事があったりしていないだろうか。
 得体の知れない苛めは終わっているだろうか。

「…………卒業したら寂しくなりますね……」

 白いフェンスに凭れて目を閉じていた日向が、言葉だけで会話に参加した。
 神妙な空気が可笑しかったのか、和月が不意に笑みを噴き出す。

「ははっ、その前に卒業できるように頑張らなきゃね」
「そうだねぇ。皆も進級出来るように頑張るんだよ」

 半ば冗談にも聞こえない台詞に、日向と侑也は「はーい」と同じ返答をした。帝と白都は相槌だけ返した。
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