フレンドテロリスト

有箱

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 もちろんだが、日が空けても尚、窓ガラスの話題は消えていなかった。

 授業開始の数分間、待機中の生徒の口から様々な臆測が飛び交う。それが僅かでも真実に掠ると、緊張感が強く胸を締め付けた。

 見解の多くが内部犯を疑っていて、侑也の予想と同じく、ブザーも同一犯によるものだろう……との声が幾つも聞こえてきた。
 その日は授業も多く、休まらない一日となった。

***

 急遽変更になったシフト通り、授業を終えるとくぐに職場へと入る。
 どうやら欠勤者は二名だったらしく、もう一人の代理人を確保出来なかったとあって仕事は大忙しだった。

「白都くん。ごめんね、無理言って。でもしばらくはお願いしなきゃいけないかも……」

 ロッカーで、制服である黒いエプロンを脱いでいると、ノックと共に和月が入室してきた。

「あ、大丈夫ですよ、仕方ないですし」
「まさか二人一気に休むとは思わなくて……しかもインフルエンザとか時期早すぎだよね……」

 向かいのロッカーを開き、エプロンを取る和月の力ない溜め息が聞こえる。

「大変ですね、シフトまで管理しなきゃいけないなんて」
「まぁでも就職するまでだよ」
「卒業したら辞めるんですか?」
「うん、そうなるね。……就職だよ、就職。嫌だなぁ」
「…………ですよね」

 そう答えつつも、白都の気持ちは“今”にしか向かず、適当に相槌を打ったようになってしまった。

 簡単な脱衣は直ぐに終了し、二人同時に帰り支度が完了した。
 その為、白都と和月は二人で裏口を出た。
 外に出ると、和月は徐に頭上を見上げる。店の灯りが眩しかったのか、目を細めていた。

「お疲れ様。今日曇ってるね」

 白都は声に反応し、空を軽く眺望した。遠くに行けば行くほど、暗がりが深まっている。

「お疲れ様です。……そうですね、曇ってますね」

 夜の歩行は、どうしても不安が付き纏う。事件がトラウマになっているようで、意識せずとも沸いて来る。

「……駅まで送ろうか?」
「えっ?」

 驚いて視線を下げると、和月は控え目に笑んでいた。

「……なんだか不安げな顔してるように見えたから、話でも聞こうかなと思ってね」

 率直に告げられ、白都は蒼褪めた。
 今すぐ言葉にしてしまいたい気持ちは十二分に満ちているのに、絶対に打ち明けてはならないと無意識が制御する。

「……えっ、えっと……ただ暗いのがちょっと怖いなって思っただけですよ……いつもより少し暗いだけなのに変ですよね……はは、恥ずかしいな……」

 白都は本音も交えつつ嘘を語った。イメージダウンに繋がる覚悟で苦笑う。
 だが和月の笑みは、嘲笑にはならなかった。

「学校であんなことがあったからじゃない? 不審者が校外から割ったって噂も流れてるし。怖くなっても仕方ないよ」

 それは白都も耳にした噂だった。大学を狙った不審人物が、悪戯に石を投げ入れたとの説だ。

「……実際どうなんだろう? もう同じことがなければ良いんだけど……。穂積も不安そうだったし……」
「……そうですね」

 命令が悪い、と罪悪感を否定するも、行動した事実が後ろめたさを感じさせる。

「とりあえず歩こうか」

 自然に誘導され、白都は駅までの道を歩きだした。

 襲われたことも、現在進行形で御面と繋がっていることも、何一つ話せないまま短い時間は経過した。
 和月は、時々表情を窺う様子を見せながらも、何も聞いてこなかった。
 それだけでなく、駅に辿り着き、電車がやってくるまで寄り添っていてくれた。

「すみません、わざわざ有り難う御座いました」
「ううん。今日は助かったよ、また明日」
「はい、また」

 電車の中からホームに会釈し、二人は別れた。

***

 白都は、電車に揺られながら俯いていた。溜め息を吐くことさえ忘れ、沈思してしまう。
 今回は上手い具合に回避できたが、同じ調子で逃れ続けられるかと言われては自信がない。

 誰にも話してはならないのだ。勘付かれることさえ、違和感を抱かれることさえ許されないのだ。

 犯人を確認する方法は今のところ無い。突き止めたところで、撃退法も思いつかない。
 せめて、せめて知られないように。自然消滅か、逃れ道が出来るまで懸念を察知されないように。

 降車駅のアナウンスが聞こえ、白都は毅然とした態度を誰かに見せ付けるよう、電車を降りた。
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