フレンドテロリスト

有箱

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 しかし、現実は理想通りに行かないものだ。
 連絡が来なくなって十日、ついに一通のメールが送られてきた。久しぶりの文面に、ぞわりと感情が蘇る。

“今回の命令は、金を用意すること、です。金額は先月の給料額で良いです。
指定場所は学校の屋上、指定時間は朝一、一時限目の授業開始前まで、です。
屋上の換気扇の上に、風で飛ばされないよう置いておいて下さい。
期限は明後日の朝まで、です。”

 勝手な期待をしていたのは自分だが、裏切られて白都は深い落胆を覚えた。気分屋過ぎる御面に腹まで立ってくる。

 しかし、今回の命令は決して目立つ命令では無い。個人的に損害は大きいが、以前の何件かと比較すれば実行しやすいとすら感じる。

 “命令”そのものに恐怖は感じるが、内容に否定感情は起きなかった。
 指定が朝一という事は、恐らく昼前までに回収に来るのだろう。もしかすると、御面は金に困っている人間なのかもしれない――。

 白都は突然浮かんだ名案に、半笑いした。
 成功が確信出来ず安心は出来ないが、可能性があるなら行動したい。
 白都は早速、命令に従う為に先月分の給与明細を引き出しから探し始めた。

 しかし、証明を律儀に取っておく性格では無い白都の手元に、給与明細書は無かった。これは想定内である。
 加えて、大まかな金額は何と無く覚えていたため、それほど焦りは覚えなかった。

 明日の朝早く、普段通り昼食を買いにコンビニに寄った際、少し多めに引き出してこよう。
 そうして指定場所に封筒ごと置き、昼まで隠れて見張ってみよう。予定していた授業は、別の日に実施されるもので穴埋めをすれば良い。
 正体を割り出して、何としても話をつけよう。

 御面の正体は、恐らく学生だ。延々自分を見張ることなど出来ないはずだ、と好都合な見解まで作り上げて明日に備える。
 白都は珍しく前向きで、自分でも奇妙なくらいだった。

 大切な五人の友人達に何かがある前に。
 強い本心の裏側、もう一つの本心が顔を覗かせた。実は、こう言ったことは以前からよく起こっている。
 自分では認めたくない、もう一つの本心が激しい焦燥を覚えさせた。

 ――――五人の友人の中に、御面が居るかもしれない。

 白都はそんな、信じるべき人間を疑う醜い感情を否定したくて、半ば躍起になっていた。
 話し合いまで繋げなくとも、人物が誰かを特定することで、醜い意識が払拭できれば――もうそれだけで良い、とさえ思っていた。

 皆、大切な友人だ。大好きな友人だ。家族と同じだけの価値がある、大事な人たちだ。
 大丈夫。気付かれない。上手くやってみせる。

 白都は何度もシュミレーションし、躊躇いの残る自分を強めた。
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