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鳥の鳴き声が聞こえて、朝の訪れを知った。目元を覆っていた毛布を剥がすと、眩しい光が差し込めた。
白都は重い頭を起こし、続いて腰を上げる。
結局、様々な方向から物事を煎じ詰めていた結果、一睡も出来ず徹夜してしまったのだ。
命令が未実行に終わった今、帝の安否も気になる。でも今は、何にも踏み込みたくはない。
携帯の電源を切り、玄関扉にはチェーンをかけ、大学もバイトも辞めて引きこもってしまいたい。何もかもから逃げ出してしまいたい。
あぁ、もういっそ死んでしまった方が楽なのでは無いだろうか。殺されるより、自分で死んだ方が苦しさは少ないのでは無いだろうか。
白都はふわりと浮かんだ結論が正論である気がして、暗い気持ちのまま押入れを漁っていた。
何も知らず、今後のことも知らず、今すぐに何も分からなくなってしまえたなら。それほど素晴らしいことは無い。
以前、同じ事を思いついた時とは、大分と感じ方が違うように思う。
白都は見つけたコードを手に、上手く引っ掛けられそうな場所を探した。
輪を作り、やや斜め上に位置するように吊り下げる。極々一般的で、よくある自殺方法だ。苦しくないと聞いたこともあるが、実際はどうだか分かったものでは無い。
いざ現実を目の前にし逡巡したが、誰かに出来て自分に出来ない訳がない、と白都は幾度と己を奮い立たせる。
椅子を用意し、一歩踏み上がると輪と同じ高さになった。
死んだら御面は何を思うのだろう。残した友人達は何を思うのだろう。
死ななければ、未来は残されていただろうか。
***
部屋で登校の準備をしていた穂積は、母親に呼ばれリビングに来ていた。
リビングでは、母親が何枚もの紙を見詰めて悩んでいるようだった。
「どうしたの?」
「……あのね、私仕事増やそうと思うんだけど良いかな?」
「えっ、でも今でも結構大変そうなのに……」
今でさえ母親は朝昼と働き詰め状態だ。恐らく、唯一空いている夜間に入れようとでも考えているのだろう。
「穂積君が学校卒業するまでの間だけだよ。その間アズミちゃんの病院とか頼みっぱなしになるけど良い?」
「…………うん、良いけど……」
妹は二年前に病を発症させた。日常生活に支障は無いが定期的な通院が必要で、その分費用も掛かる。
それに加えて大学費が必要となれば、幾ら働いても足りないだろう。
「……やっぱり大学やめようかな」
穂積は二年前と同じ台詞を吐く。
「それは言わないの。やりたいことがあるんだったらやらなきゃ! そこは遠慮しちゃ駄目!」
母親は涼しい顔で笑ってみせるが、内側にある疲労感に気付かない訳がなかった。
「……分かった。アズミちゃんのことは任せて」
「ありがとー、お母さん頑張るね!」
穂積は母親と同じように、嘘の笑顔を飾りつけた。
内心では哀感が巻き起こり、纏まった金さえあれば苦労させずに済むのになぁ、と境遇を呪ってさえいた。
***
――――椅子を蹴り倒す寸前、白都はぞっとし踏み止まっていた。
直ぐに掛けた輪を外し、結んでいた結び目も解く。そのまま元の形状に戻し、押入れの中に突っ込んだ。
ぞわぞわと、背中を悪寒が駆け抜ける。命を絶つ行為自体がおぞましく、拒絶感が走り続けている。
最善策だと感じるのは未だに変わらない。しかし、どうしても実行は出来ないらしい。
死が怖い。傷つくのも怖いが、それ以上に怖い。どれだけ不安に押し潰されようとも、自らの心臓を止めることは出来ないと分かった。
だったらせめて、帝だけでも救おう。
白都は決心し、携帯電話を手に取った。
白都は重い頭を起こし、続いて腰を上げる。
結局、様々な方向から物事を煎じ詰めていた結果、一睡も出来ず徹夜してしまったのだ。
命令が未実行に終わった今、帝の安否も気になる。でも今は、何にも踏み込みたくはない。
携帯の電源を切り、玄関扉にはチェーンをかけ、大学もバイトも辞めて引きこもってしまいたい。何もかもから逃げ出してしまいたい。
あぁ、もういっそ死んでしまった方が楽なのでは無いだろうか。殺されるより、自分で死んだ方が苦しさは少ないのでは無いだろうか。
白都はふわりと浮かんだ結論が正論である気がして、暗い気持ちのまま押入れを漁っていた。
何も知らず、今後のことも知らず、今すぐに何も分からなくなってしまえたなら。それほど素晴らしいことは無い。
以前、同じ事を思いついた時とは、大分と感じ方が違うように思う。
白都は見つけたコードを手に、上手く引っ掛けられそうな場所を探した。
輪を作り、やや斜め上に位置するように吊り下げる。極々一般的で、よくある自殺方法だ。苦しくないと聞いたこともあるが、実際はどうだか分かったものでは無い。
いざ現実を目の前にし逡巡したが、誰かに出来て自分に出来ない訳がない、と白都は幾度と己を奮い立たせる。
椅子を用意し、一歩踏み上がると輪と同じ高さになった。
死んだら御面は何を思うのだろう。残した友人達は何を思うのだろう。
死ななければ、未来は残されていただろうか。
***
部屋で登校の準備をしていた穂積は、母親に呼ばれリビングに来ていた。
リビングでは、母親が何枚もの紙を見詰めて悩んでいるようだった。
「どうしたの?」
「……あのね、私仕事増やそうと思うんだけど良いかな?」
「えっ、でも今でも結構大変そうなのに……」
今でさえ母親は朝昼と働き詰め状態だ。恐らく、唯一空いている夜間に入れようとでも考えているのだろう。
「穂積君が学校卒業するまでの間だけだよ。その間アズミちゃんの病院とか頼みっぱなしになるけど良い?」
「…………うん、良いけど……」
妹は二年前に病を発症させた。日常生活に支障は無いが定期的な通院が必要で、その分費用も掛かる。
それに加えて大学費が必要となれば、幾ら働いても足りないだろう。
「……やっぱり大学やめようかな」
穂積は二年前と同じ台詞を吐く。
「それは言わないの。やりたいことがあるんだったらやらなきゃ! そこは遠慮しちゃ駄目!」
母親は涼しい顔で笑ってみせるが、内側にある疲労感に気付かない訳がなかった。
「……分かった。アズミちゃんのことは任せて」
「ありがとー、お母さん頑張るね!」
穂積は母親と同じように、嘘の笑顔を飾りつけた。
内心では哀感が巻き起こり、纏まった金さえあれば苦労させずに済むのになぁ、と境遇を呪ってさえいた。
***
――――椅子を蹴り倒す寸前、白都はぞっとし踏み止まっていた。
直ぐに掛けた輪を外し、結んでいた結び目も解く。そのまま元の形状に戻し、押入れの中に突っ込んだ。
ぞわぞわと、背中を悪寒が駆け抜ける。命を絶つ行為自体がおぞましく、拒絶感が走り続けている。
最善策だと感じるのは未だに変わらない。しかし、どうしても実行は出来ないらしい。
死が怖い。傷つくのも怖いが、それ以上に怖い。どれだけ不安に押し潰されようとも、自らの心臓を止めることは出来ないと分かった。
だったらせめて、帝だけでも救おう。
白都は決心し、携帯電話を手に取った。
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