フレンドテロリスト

有箱

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 終わった。いや、終わりたくない。
 強制連行されるまま白都は葛藤していた。思考を必死に掻き回しても、実行可能な術がどこにもない。
 もう少しで、今目の前にいる御面の正体が分かったのに。それさえ知れずに今日自分は死ぬ。
 自然と涙が溢れ出した。切る風で飛ばされては頬を新たな雫が伝う。

 御面はいつものポイントに着くと、振り切るように手を払った。白都は反動で尻餅をつく。無理矢理駆使した左足が、本当に骨折でもしたのか酷く痛む。
 表情を歪めたまま顔を上げると、厳かな佇まいの御面が見えた。

『来いって言ったのに。後悔するって言ったのに』

 突き出た面の耳部分が、月に照らされ際立って見える。それほどに明るい夜だ。
 御面はポケットからカッターナイフを取り出し、カチカチと音を鳴らして刃を出した。手に掲げられた刃が銀に煌く。

 悪夢が蘇り、反射的に喉元を守った。鋭い刃先を直視できず、目を逸らして御面の胴辺りを見ていると、蹴りで体勢を崩された。
 そしてそのまま馬乗りされ、目の前でカッターが振り被られる。
 白都は両腕を盾に掲げ、瞼を強く瞑った。

 ――――痛みが走る。
 だが、コントロールされているのか、腕を切りはしたが致命傷にはならなかった。感覚的には、かなり深く切れているのに。
 血が、一緒に切れた袖を濡らす。白都は恐怖心を極限まで高まらせ、次なる行動を拒絶した。
 とは言え、その恐怖心に行動が抑制され、抵抗一つ出来ないのだが。

 運命に流されるまま目を瞑る白都の腕や腰、胸元など、数多の場所を御面は切りつけた。
 それでも、死の感覚は到底遠く、果ての無い地獄を覚悟した。

***

 はっとなり、白都は目を覚ました。置かれている状況が理解できず、数秒困惑する。
 だが、現在地が変化していないことから、死んでいないとだけははっきり分かった。
 痛みが浅く轟いている。汗と血で湿った服の中が酷く不快だ。
 どうやら自分は、危害を加えられている内に気絶してしまったらしい。

 御面はいつの間にか消えており、月明かりが照らす地上には人影一つない。
 死んだと誤解し、去ってくれたのだろうか。
 腑に落ちないながらも別の理由が思いつかず、一先ずそれで片付けることにした。
 それ以上に、生きていることが嬉しかった。今後が怖いのに、安心してしまった。

 白都はよろりと立ち上がり、激痛の走る左足を引き摺って歩いた。

***

 約束の時間から、随分と経過してしまった。
 けれど帝なら、必ず待っていてくれるはずだ。眠気も全部抑えて、直ぐ対応できるよう構えていてくれるはずだ。
 白都は、傷塗れになった服を取り替えるべく、一時帰宅した。

 ――――これで正体が分かる。
 その後どうするかは想像も付かないが、知ると知らないでは大きく違う。危険度も疲労感も、警戒レベルも引き下げることができる。
 もしかすると、解決策もあるかもしれない。

 白都は持続する痛みを我慢し、着替え終わると直ぐに家を出た。
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