フレンドテロリスト

有箱

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 混乱する白都を、御面は引っ張り連行する。
 裏道へ――無人の場所へ近づく度、何度か味わった流れに白都は恐怖心を蘇らせた。

『命令を実行しなかった罰だ』
「…………なん……で……」

 御面が日向だと完全に思い込んでいた白都は、目の前の現実を受け容れられなかった。
 日向は死んでしまったはずだ。警察官の口から聞いたのだから、紛れもない事実だろう。
 だとしたら、残りは和月か穂積の二人になる。それとも、全く関係のない第三者か――。

『残念だったな』

 御面の冷たい声に、白都の中の思考力が飛んだ。完全に思考停止し、一歩も動けなくなる。
 本能だけが、心を動かす。

「……めて……ださい……やめて……」

 御面の手にスタンガンが掲げられた。電流が光り、暗い闇の中で映えている。
 拒絶も空しく、腹部に押し当てられ白都は倒れた。
 激痛が走り、筋肉が硬直して痙攣する。頭が真っ白になり、呼吸だけを必死に続ける。

 屈み込み、低い体勢で顔を覗き込む御面は、目の前にカッターナイフをチラつかせた。
 殺されると分かった。今日死ぬのだと理解した。涙が溢れ出し、地面を濡らす。

 御面は白都の服の襟を捲くると、首にぴたりと刃を当てた。

 運命は決まっていたのかもしれない。始めから決まっていて、回避する方法なんてどこにも無かったのかもしれない。
 駆けずり回って、苦悩して、必死になっても、結末は当初決められていた一つしかなかったのかもしれない。
 どうして数奇な物語は、自分を選んだのだろう――。

『まだ終わりじゃないぞ』

 御面の声が聞こえ、はっと我に帰る。
 具体数は分からないが、闇が深まっていたことからかなりの時が経過したと把握した。比例してか、痺れや苦しさも先程より緩和している。
 白都は痛みに膝を折る。痛覚が働き、首に数箇所傷が付けられていると知った。

『死んだと思っただろ。どうだ? 気分は』

 無慈悲な問いかけに白都は声を失う。仮面が邪魔して一行に表情が読めない。
 いつも、どんな顔をして、御面は刃を振るっているのだろう。暴力を加えているのだろう。その顔が、苦痛に歪むことはあるのだろうか。

 動けないのを良いことに、御面は服の袖を肘元まで捲ってきた。そうして刃の先端で傷を付けて行く。
 それは何度も繰り返され、流れだす血を地面が吸った。

『命令は絶対だ』

 御面は体力の消耗など無視し、服に隠れる部分を捲っては切りつけた。傷を作っては指先でなぞったりと刺激も与えてくる。
 白都は恐怖と痛みに呻き、傷が増えるごとに体を捩じらせた。

『返事は?』
「…………は、い……」
『命令は絶対だ、次こそ厳守しなければ死が待っていると思え』

 立ち上がった御面は、最後に強く腹部に一撃を加える。それからすぐ、早足で去っていった。

 風に晒され痛み続ける傷が、恐怖心を増幅し抵抗力を完全に奪う。
 命令は絶対に厳守しなければならない。幾度と刻まれた概念が、一層強く心に刻み込まれた。

 結局、御面の正体が誰か分からないまま、日向がなぜ帝を殺したか分からないまま、悶々としながら帰宅した。
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