1 / 9
僕だけの灯台
しおりを挟む
立入禁止の札なんて、もはや飾りだ。朽ちたロープを潜れば、そこから先は僕だけの空間になる。
埃っぽさと錆の臭いに、混ざる磯の香りが心地いい。昼間なのに、幽霊でも出そうな古び具合もいい。
長い螺旋階段を上った先、置かれた長椅子が僕の特等席だ。
*
落ち込んだ時、思案に浸りたい時、必ず向かう場所がある。十二歳で今の町に越してきて、寂しさに侵されていた時偶然見つけた。
忘れ去られた海と浜を、見守り佇む灯台だ。中には小さめの長椅子と、海の青で埋まる窓がある。空間自体もこじんまりとしており、冷静を集めるには十分すぎる環境だった。虜になり、早四年は世話になっている。
最近は専ら、自らの不器用さを嘆いていた。運動も勉強も苦手で、コミュニケーション能力も恐らく平均。今日なんか、変な発言をしてしまい空気を白けさせてしまった。しかし、ここにこれば、波が後悔すら拐ってくれる。
こんな場所だ。独り占めする特別感は素直に悪くなかった。むしろ、誰かに侵入されたら寂しくなってしまうかもな。
なんて考えながら、静けさを満喫していたのに。しれっと椅子にいたのは見知らぬ少女だった。
埃っぽさと錆の臭いに、混ざる磯の香りが心地いい。昼間なのに、幽霊でも出そうな古び具合もいい。
長い螺旋階段を上った先、置かれた長椅子が僕の特等席だ。
*
落ち込んだ時、思案に浸りたい時、必ず向かう場所がある。十二歳で今の町に越してきて、寂しさに侵されていた時偶然見つけた。
忘れ去られた海と浜を、見守り佇む灯台だ。中には小さめの長椅子と、海の青で埋まる窓がある。空間自体もこじんまりとしており、冷静を集めるには十分すぎる環境だった。虜になり、早四年は世話になっている。
最近は専ら、自らの不器用さを嘆いていた。運動も勉強も苦手で、コミュニケーション能力も恐らく平均。今日なんか、変な発言をしてしまい空気を白けさせてしまった。しかし、ここにこれば、波が後悔すら拐ってくれる。
こんな場所だ。独り占めする特別感は素直に悪くなかった。むしろ、誰かに侵入されたら寂しくなってしまうかもな。
なんて考えながら、静けさを満喫していたのに。しれっと椅子にいたのは見知らぬ少女だった。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
侯爵様の懺悔
宇野 肇
恋愛
女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。
そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。
侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。
その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。
おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。
――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる