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現れた少女は

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 年齢は同じくらいだろうか。美しい横顔から推定したが、上下黒の大きめジャージからは確信できなかった。長い黒髪もプラスされ、空気のこもる空間では暑そうに見える。隙間から覗く白い肌には不自然な痣があった。

 突然の遭遇に唖然としていると、少女が僕を見やり――素っ気なく目を逸らした。何事もなかったかのように海を眺めだす。
 さすがに少し驚き、しかし様子は伺いつつ近付く。視界の端に入り込めたのか、少女は目線一つ寄越さず端に寄った。避けられているのか優しさなのか、探りながらも座る。だが、凝視は気色悪がられてしまうと、海を見る演技のもとチラチラ横を見た。

 結局その日は、視線同士を掠めることすらなかった。
 
 少女のせいで、新たな問題ができてしまった。しかも、原因が灯台にあるのだ。行けば解消される問題ではない。席を譲る選択肢もあるが、シンプルに愛すべき空間を放したくなかった。
 またあの子がいたら、どうやって接しよう――脳内でシュミレーションしては、何かが違うと首を振った。



 快活な人間だったなら、勇ましく会話を振れたのだろうか。緊張なんてせず、階段を駆け上がれたのだろうか。考えながら上りきると、当然のように少女はいた。ただ、学習したのか既に端に落ち着いている。
 学校帰りのこの時間は、落ち行く夕日が世界を色付ける。今日もジャージの彼女は、変わらず釘付けだった。

「……や、やぁ、また会ったね!」

 敢えてトーン少しと右手を上げ、爽やかな挨拶をかます。これは、約一週間考え抜いた末の行動だ。第一印象を塗り替えるため、笑ってもみる。教室より狭い空間で、互いに息をしやすくするための勇気だった。
 まぁ、呆気なく撃沈したけど。

 一瞥だけした彼女は、笑みも会釈もなくそっぽを向く。場に膨らむ沈黙は、前回よりも重かった。夕日が去れば帰宅時間となるが、短時間でも気まずいものは気まずい。
 結局、引きずったままで夕日は去り、会釈だけ残して帰った。
 
 ――行きにくい。しかし、純粋に彼女のことが気になる。無表情を貼りつけ、声すら分からない彼女が気になって仕方ない。
 明確な理由は不明だが、敢えて言うならば未知への興味というやつかもしれない。
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