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悲劇の記憶(1/2)
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“家事を終わらせて、いつも通り窓から外を眺めようとしてた。満開の桜を見ようとして、見えたのは隣の家の火事だった。
火事を目にした時、私の頭の中に知らない記憶が蘇ってきた。一瞬だったと思う。火事自体はこの一年にはなくて、私にとっては初めての目撃だったはずだった。なのに心と脳を揺さぶってきた。
まず見えたのは、目の前で血まみれになって倒れている二人だった。その人たちが両親であると、私は不思議と理解していた。どうしてか私も震えが止まらなくて、ただ“怖い”との感情だけで座り込んでいた。
けれど、聞こえてきた足音に勝手に顔が持ち上げられて。小刻みに視線を上げた先、いたのはナイフを持ったお兄ちゃんだった。
『君の名前は何て言うの?』
問いに ただ私は答える。
『そう、いい名前だね。おいで僕の愛しいサク。大丈夫、君は殺したりなんかしない……殺しはね。だって僕は、君が欲しくてここに来たんだから。僕の言うことを聞いてくれれば、傷つけさえしないよ』
不思議なくらい真っ白な顔も、声もとても穏やかだった。けど貼られた柔和さでは、怖さを薄められなかったのだろう。私は何も言えずにいた。
『さて行こうか。僕の家からも桜がよく見えるんだ。だから気に入ってくれると思うよ』
声を合図にお兄ちゃんがナイフを捨てた。代わりに黒いジャケットと、マッチ棒を取り出した。小さな火が両親の間に落とされる。
その時、開いていた窓から、強風に招かれて桜が舞い込んできた。視界を塞ぐよう花びらが目蓋を掠め、反射的に目を瞑ったら声が聞こえた。
――いっそのこと、全部忘れてしまえ――
そこまで蘇って、見知らぬ記憶は途切れた。
終わった瞬間は、よく分からなかった。意識が現実に戻った時には、火は庭の木にまで燃え移っていた。家にまで伸びてくるのも時間の問題だったと思う。
私の中の優しいお兄ちゃんと、記憶のお兄ちゃんが遠すぎて受け入れがたかった。けれど、あれが幻だとは疑えなかった。あれは現実だと体が言っていた。
『サク、火事が……!』
叫びながら部屋に飛び込んできたお兄ちゃんを、私は見られなかった。
『サク、どうかした……?』
どうもしていないと言えないどころか、震えを止めることさえ私は出来なかった。
『…………もしかして、思い出しちゃった?』
やっと見られた顔は悲しく、それでいて泣きそうに笑っていた。
『そっか、残念だね……でも、ちょうどよかったのかも。ねぇサク、僕の言うこと聞いてくれる?』
敢えて台詞を重ねたのか、無意識かはわからない。けれど問われて体が固まった。お兄ちゃんは扉の前を塞いだまま、動こうとはしなかった。
『このままいけばきっと炎は家も燃やす。でも君の存在が知られたら、僕はきっと捕まってしまうだろう。でも、僕はサクと離れて過ごすなんて死んでも嫌なんだ。本当に君を愛しているから』
何を思えばいいのか分からなかった。焦げ臭い臭いが、少しずつ強くなっていった。
『だからサク、一緒に死のう?』”
火事を目にした時、私の頭の中に知らない記憶が蘇ってきた。一瞬だったと思う。火事自体はこの一年にはなくて、私にとっては初めての目撃だったはずだった。なのに心と脳を揺さぶってきた。
まず見えたのは、目の前で血まみれになって倒れている二人だった。その人たちが両親であると、私は不思議と理解していた。どうしてか私も震えが止まらなくて、ただ“怖い”との感情だけで座り込んでいた。
けれど、聞こえてきた足音に勝手に顔が持ち上げられて。小刻みに視線を上げた先、いたのはナイフを持ったお兄ちゃんだった。
『君の名前は何て言うの?』
問いに ただ私は答える。
『そう、いい名前だね。おいで僕の愛しいサク。大丈夫、君は殺したりなんかしない……殺しはね。だって僕は、君が欲しくてここに来たんだから。僕の言うことを聞いてくれれば、傷つけさえしないよ』
不思議なくらい真っ白な顔も、声もとても穏やかだった。けど貼られた柔和さでは、怖さを薄められなかったのだろう。私は何も言えずにいた。
『さて行こうか。僕の家からも桜がよく見えるんだ。だから気に入ってくれると思うよ』
声を合図にお兄ちゃんがナイフを捨てた。代わりに黒いジャケットと、マッチ棒を取り出した。小さな火が両親の間に落とされる。
その時、開いていた窓から、強風に招かれて桜が舞い込んできた。視界を塞ぐよう花びらが目蓋を掠め、反射的に目を瞑ったら声が聞こえた。
――いっそのこと、全部忘れてしまえ――
そこまで蘇って、見知らぬ記憶は途切れた。
終わった瞬間は、よく分からなかった。意識が現実に戻った時には、火は庭の木にまで燃え移っていた。家にまで伸びてくるのも時間の問題だったと思う。
私の中の優しいお兄ちゃんと、記憶のお兄ちゃんが遠すぎて受け入れがたかった。けれど、あれが幻だとは疑えなかった。あれは現実だと体が言っていた。
『サク、火事が……!』
叫びながら部屋に飛び込んできたお兄ちゃんを、私は見られなかった。
『サク、どうかした……?』
どうもしていないと言えないどころか、震えを止めることさえ私は出来なかった。
『…………もしかして、思い出しちゃった?』
やっと見られた顔は悲しく、それでいて泣きそうに笑っていた。
『そっか、残念だね……でも、ちょうどよかったのかも。ねぇサク、僕の言うこと聞いてくれる?』
敢えて台詞を重ねたのか、無意識かはわからない。けれど問われて体が固まった。お兄ちゃんは扉の前を塞いだまま、動こうとはしなかった。
『このままいけばきっと炎は家も燃やす。でも君の存在が知られたら、僕はきっと捕まってしまうだろう。でも、僕はサクと離れて過ごすなんて死んでも嫌なんだ。本当に君を愛しているから』
何を思えばいいのか分からなかった。焦げ臭い臭いが、少しずつ強くなっていった。
『だからサク、一緒に死のう?』”
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