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10/19~23
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日曜日は極力一日家でゆっくりしようと、自分の中で決めていた。
病気でこそ無いものの、鈴夜も元々体が丈夫な方ではない。だから無理をすると、直ぐに調子を悪くしてしまうのだ。
そういった理由があり、日曜は休養に充てている。
家の中で、携帯に入っているアプリをしたり調べ物をしたり、あまりしない料理をしてみたりして日曜を過ごす。
意外にも熱中してしまうもので、休日は直ぐに過ぎた。
【10.20】
そしてまた、月曜日がやって来た。
「お早う御座いますってあれ…?」
二日ぶりに対面した歩は、酷く疲れが溜まっているように見えた。
休日にはちゃんと休むと宣言していた歩だったが、明らかに回復している様子はない。
「お早う、鈴夜君」
それでも相変わらず、笑顔を浮かべてはいるのだが。
「…なんだか大変そうですね」
「…いや、大変って訳ではないんだがな」
歩は悩むように、うーん…と目頭を軽く叩く。
「無理はしないで下さいね」
「ありがとう、今日もお互い頑張ろうな」
「はい」
鼓舞しあってから二人は、それぞれの指定位置にて画面に向かい始めた。
仕事は、普通に好きだ。失敗して落ち込む事もあるが、やはり何かに打ち込んでいるというのは良い事だと思う。
だが、ずっと同じ事を繰り返していて意味はあるのだろうか、と時々考えてしまうのも事実だ。
【10.21】
次の日の早朝、ゴミだしをしていると、トラックから降りてきた淑瑠に会った。
一人暮らしだと殆どゴミが溜まらない為、数週間に一度だけゴミだしをしている。
「淑兄おはよう、今帰り?」
「おはよう。そうだよ、今回は少し遠出してきたよ」
「そうなんだ、お疲れ様」
「ありがとう、鈴夜は最近仕事どう?前大変だって言ってたきりだよね」
「そうだね、今は忙しさも落ち着いてるよ」
淑瑠と何度か会話を重ねたのは、久しぶりな気がする。この間のように一言二言交わす事はあっても、どちらかが出かける前だった事が多く、まともに話せていなかったから嬉しい。
「そっか、良かった…あっ、そうだ時間大丈夫?」
「大丈夫だよ」
ゴミだしの時間は地区ごとに決められていて、鈴夜の住む地区は比較的朝が早かった。
なので、いつも起きる時刻よりも早く起きている。
故に、本来準備を始める時間までまだ暫くあった。
アパートの壁に、二人して凭れる。
「大智のところ行ってる?」
「行ってるよ、大分元気そう」
淑瑠も、幼い頃からの馴染みの事が気になるのだろう。
二人は最近、全く会っていないみたいだし。
だから時々話が出来ると、こうして近況報告をしていた。
「そっか、良かった。行きたいとは思ってるんだけど中々纏まった時間が取れなくてさ、会いたいなぁ」
淑瑠も不規則な仕事を始める前は、よく顔を出していたらしい。二人はとても仲が良く、毎日のように通っていたとの事だ。
「もしかしてこの後も仕事?」
「うん、また少し休憩して身支度したら出かけるよ」
「大変そうだね」
最近の淑瑠は見るからに多忙そうで、家に居ないことが殆どだと思われた。夜、帰宅しても電気が点いていない事が多かったからそう思う。
「嫌にならない?」
「あんまり。仕事は大変だけど、色々なところにいけるのは楽しいよ」
「凄いなー、僕はあんまり意義って見出せないや」
「私も始めはそうだったよ、きっとそのうち楽しくなるよ」
「はは、だと良いなー」
淑瑠は、物事を前向きに考えるのが上手い。
何時だって、悩んでは前向きな答えを導き出してきたのを、鈴夜は知っていた。
それに比べて自分は。
暫く雑談をして、淑瑠と別れた。
【10.22】
意義は簡単に見出せないまま、変哲の無い一日は過ぎる。
【10.23】
昼に休憩室に向かった所、歩が怖い顔をして携帯を睨んでいるのを見つけた。
「折原さん、どうかしました?」
「えっ?あぁ、鈴夜君か。なんでもないよ」
そう言うと歩は、二つ折りのガラパゴス携帯を折ってポケットに入れる。
きっと難しい取引相手にでも苦戦しているのだろう、と予測しながら、鈴夜は席を立ち自販機で珈琲を購入した。
二つ分買って席に戻ると、丁度歩が欠伸をしていた。歩の少し抜けた顔を見るのは、久しぶりな気がする。
それほどに、疲れているのだろう。
「眠そうですね」
「ああ、間抜けな顔を見せてしまったな」
口を塞ぐ仕草を見せながら、歩は照れ笑う。
「これ、どうぞ」
「ありがとう、悪いな」
二つ買った内の一本を渡すと、歩は嬉しそうに受け取った。
「大変な案件でも抱えてるんですか?」
少しでも話をすれば軽くなるかもしれないし、こんな自分でも少しは力になれるんじゃないか、なんて思い発言してみたが、歩の返答は想像と少し違っていた。
「いや、そうではなくてな。ただの私事で悩んでいるだけなんだ」
「そうだったんですか!」
仕事熱心な歩の事だから、仕事関連で悩んでいるのだとばかり思ってしまっていた。
「いやいや、仕事に身が入らないなんて情けないな」
「そんな事ないですよ、早く解決すると良いですね、よかったら話聞きますよ」
「うーん、そうだな…じゃあ…」
間の悪いところで、また歩を呼ぶ声が聞こえた。いつもの声だ。
毎度思うのだが、歩は休憩時間いっぱいに休めていない気がする。それでよく体が持つものだ。
進んで人の為に尽くす人だから、きっと苦だと思っていないんだろうけど。
「また今度な、気遣ってくれてありがとう」
「いいえ」
歩は飲みかけの珈琲を手に持ったまま、声の方へ駆け足して行った。
病気でこそ無いものの、鈴夜も元々体が丈夫な方ではない。だから無理をすると、直ぐに調子を悪くしてしまうのだ。
そういった理由があり、日曜は休養に充てている。
家の中で、携帯に入っているアプリをしたり調べ物をしたり、あまりしない料理をしてみたりして日曜を過ごす。
意外にも熱中してしまうもので、休日は直ぐに過ぎた。
【10.20】
そしてまた、月曜日がやって来た。
「お早う御座いますってあれ…?」
二日ぶりに対面した歩は、酷く疲れが溜まっているように見えた。
休日にはちゃんと休むと宣言していた歩だったが、明らかに回復している様子はない。
「お早う、鈴夜君」
それでも相変わらず、笑顔を浮かべてはいるのだが。
「…なんだか大変そうですね」
「…いや、大変って訳ではないんだがな」
歩は悩むように、うーん…と目頭を軽く叩く。
「無理はしないで下さいね」
「ありがとう、今日もお互い頑張ろうな」
「はい」
鼓舞しあってから二人は、それぞれの指定位置にて画面に向かい始めた。
仕事は、普通に好きだ。失敗して落ち込む事もあるが、やはり何かに打ち込んでいるというのは良い事だと思う。
だが、ずっと同じ事を繰り返していて意味はあるのだろうか、と時々考えてしまうのも事実だ。
【10.21】
次の日の早朝、ゴミだしをしていると、トラックから降りてきた淑瑠に会った。
一人暮らしだと殆どゴミが溜まらない為、数週間に一度だけゴミだしをしている。
「淑兄おはよう、今帰り?」
「おはよう。そうだよ、今回は少し遠出してきたよ」
「そうなんだ、お疲れ様」
「ありがとう、鈴夜は最近仕事どう?前大変だって言ってたきりだよね」
「そうだね、今は忙しさも落ち着いてるよ」
淑瑠と何度か会話を重ねたのは、久しぶりな気がする。この間のように一言二言交わす事はあっても、どちらかが出かける前だった事が多く、まともに話せていなかったから嬉しい。
「そっか、良かった…あっ、そうだ時間大丈夫?」
「大丈夫だよ」
ゴミだしの時間は地区ごとに決められていて、鈴夜の住む地区は比較的朝が早かった。
なので、いつも起きる時刻よりも早く起きている。
故に、本来準備を始める時間までまだ暫くあった。
アパートの壁に、二人して凭れる。
「大智のところ行ってる?」
「行ってるよ、大分元気そう」
淑瑠も、幼い頃からの馴染みの事が気になるのだろう。
二人は最近、全く会っていないみたいだし。
だから時々話が出来ると、こうして近況報告をしていた。
「そっか、良かった。行きたいとは思ってるんだけど中々纏まった時間が取れなくてさ、会いたいなぁ」
淑瑠も不規則な仕事を始める前は、よく顔を出していたらしい。二人はとても仲が良く、毎日のように通っていたとの事だ。
「もしかしてこの後も仕事?」
「うん、また少し休憩して身支度したら出かけるよ」
「大変そうだね」
最近の淑瑠は見るからに多忙そうで、家に居ないことが殆どだと思われた。夜、帰宅しても電気が点いていない事が多かったからそう思う。
「嫌にならない?」
「あんまり。仕事は大変だけど、色々なところにいけるのは楽しいよ」
「凄いなー、僕はあんまり意義って見出せないや」
「私も始めはそうだったよ、きっとそのうち楽しくなるよ」
「はは、だと良いなー」
淑瑠は、物事を前向きに考えるのが上手い。
何時だって、悩んでは前向きな答えを導き出してきたのを、鈴夜は知っていた。
それに比べて自分は。
暫く雑談をして、淑瑠と別れた。
【10.22】
意義は簡単に見出せないまま、変哲の無い一日は過ぎる。
【10.23】
昼に休憩室に向かった所、歩が怖い顔をして携帯を睨んでいるのを見つけた。
「折原さん、どうかしました?」
「えっ?あぁ、鈴夜君か。なんでもないよ」
そう言うと歩は、二つ折りのガラパゴス携帯を折ってポケットに入れる。
きっと難しい取引相手にでも苦戦しているのだろう、と予測しながら、鈴夜は席を立ち自販機で珈琲を購入した。
二つ分買って席に戻ると、丁度歩が欠伸をしていた。歩の少し抜けた顔を見るのは、久しぶりな気がする。
それほどに、疲れているのだろう。
「眠そうですね」
「ああ、間抜けな顔を見せてしまったな」
口を塞ぐ仕草を見せながら、歩は照れ笑う。
「これ、どうぞ」
「ありがとう、悪いな」
二つ買った内の一本を渡すと、歩は嬉しそうに受け取った。
「大変な案件でも抱えてるんですか?」
少しでも話をすれば軽くなるかもしれないし、こんな自分でも少しは力になれるんじゃないか、なんて思い発言してみたが、歩の返答は想像と少し違っていた。
「いや、そうではなくてな。ただの私事で悩んでいるだけなんだ」
「そうだったんですか!」
仕事熱心な歩の事だから、仕事関連で悩んでいるのだとばかり思ってしまっていた。
「いやいや、仕事に身が入らないなんて情けないな」
「そんな事ないですよ、早く解決すると良いですね、よかったら話聞きますよ」
「うーん、そうだな…じゃあ…」
間の悪いところで、また歩を呼ぶ声が聞こえた。いつもの声だ。
毎度思うのだが、歩は休憩時間いっぱいに休めていない気がする。それでよく体が持つものだ。
進んで人の為に尽くす人だから、きっと苦だと思っていないんだろうけど。
「また今度な、気遣ってくれてありがとう」
「いいえ」
歩は飲みかけの珈琲を手に持ったまま、声の方へ駆け足して行った。
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