Criminal marrygoraund

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「よぉ、久しぶり」

 髪を赤紫に染めた、左目の眼帯とピアスの目立つ青年が、大智を見て言う。
 鈴夜の知人でない、イコール大智の知人でしかない訳だが、大智の人柄から、こんな俗に言うチャラ男と交友があるとは思えず、一瞬何事かと思ってしまった。

「…って、来客居たか、悪いな」

 鈴夜を見て、青年は少し申し訳無さそうに言う。
「…いや良いよ、久しぶり依仁(よりひと)」

 大智も、突然で驚いていたのだろう。
 でも知人との再会が嬉しかったのか、状況を理解すると笑顔を零していた。

「鈴夜、彼の名は浅羽依仁、小学生からの友人だよ」

 依仁は入室して、直ぐ横の壁に背を預けた。

「どうも」

 鋭い目付きを向けながらも、依仁は挨拶してくる。

「あっ、どうも」

 反射的に、会釈と返答をした。

「依仁、彼は水無鈴夜、団地が一緒で小さい頃から仲が良かったんだ。鈴夜は一時転校してて小学校は一緒じゃないから、依仁は知らないかもしれないけど」
「そか」
「ところでよく部屋が分かったね、この部屋来た事あったっけ?」

 鈴夜は、部屋の変更があった日の事を思い出した。
 確か、随分前の事だったような気がする。年単位で昔の事だったと。その時、今の個室に変わったと記憶している。
 この二人は相当久しぶりの再会を果たしたのだと、鈴夜は無意識に理解した。

「ああ、前の部屋に居なかったから聞いてきた」
「そっか、ありがと。会えて嬉しいよ」

 突き刺すような語気にも柔らかく対応する辺り、きっと昔から彼は変わらないのだろう。

「水無さんは、よく来てんすか?」

 急に話が振られて少し怖気づいたものの、比較的丁寧に訪ねられて、返答する事に対する怖さは感じなかった。

「毎週土曜日に来てます」
「そうすか」

 何を確認したかったのか分からないが、何かに納得したらしく依仁は会話を括った。

「平日とかはどうしてんの?」
「え?どうしてるって、まぁ話をしたり本を読んだりかな、依仁は?」
「仕事して携帯見てって感じ、前と変わってねぇな」
「そっか、仕事はずっと同じやつ?」

 鈴夜を他所に、二人は会話を重ねる。
 何だか少し寂しい気もしたが、久しぶりに会った友人なら積もる話もある事だろうと、静かに話を聞くことにした。

「ずっと変わってねぇな、それより」

 意外な答えに、外見からのイメージが少し崩れる。一つの仕事をずっと続けられるという事は、根は真面目なのだろう。
 これは、勝手な解釈に過ぎないが。

「最近変わったこととか無かったか?」

 依仁の口から出た明らかに不自然な問い掛けに、鈴夜は違和感を抱いた。
 二人の間だけに、通じる質問なのだろうか。

「何もないよ、どうして?」

 そうでもないらしく、大智も疑問を浮かべていた。だが、

「いや、無いならいいや」

 そう言って、返答を濁らせてしまった。

「ちょっと聞きたかっただけだから、今日はもう帰るわ。じゃ、また来る」

 結局、椅子に腰掛ける事も無く話を済ませた依仁は、自分の中で何かを纏めると、颯爽と部屋を出て行ってしまった。

「…なんだったんだろう?」

 大智は急に現れて急に居なくなった旧友に対し、不思議そうな顔をしていた。
 鈴夜にも、何年も会っていなかった友人の元にやってきて、ものの数分で帰宅してしまった依仁の考えがよく分からなかった。
 それに何やら、目的も感じさせる来訪だった気がする。

「…顔を見に来ただけ、なのかな?」

 大智が、違和感のなさそうな見解を零す。本当に思い立ったから、顔を見に来て無事を確認したかっただけ。
 確かに、それはそれで納得は出来る。
 違和感はあったが、彼の性格を知らない以上、意見は出来なかった。

「浅羽さんはずっとあんな感じなの?」
「ああ、びっくりした?そうだね、性格はあんな感じだよ、髪を染め出したりしたのは中学に入る前くらいかな」
「そっか、…こんな事言ったら失礼だけど、大智と浅羽さんが一緒にいるところがイメージできなくて…」

 優しくて、でもお人よし過ぎなくて付き合いやすい大智と、勝手なイメージになってしまうが攻撃的で自己中心的そうな依仁と、二人が仲良くしているシーンがどうしても思い描けない。

「確かにそうかもね、でも依仁も根はいいやつだよ」
「それは何と無く思った」
「そっか、良かった」

 依仁のイメージが完全に悪いものになっていなかった事に対してだろう、大智は嬉しそうに微笑んだ。

「小学生の頃はいつも何してたの?」

 大智は考える為か間を開けていたが、とある事に気が付き時計を見た。

「…そう言えばさ、岳遅いね?」
「本当だ」

 岳は優柔不断なところがあるらしく、いつも売店に行くと帰りが遅いが、こんなに遅い事は今まで無かった。

「もしかして入れずに居たかな?」

 鈴夜では欠片も思わなかった理由を、大智は挙げてみせた。そしてベッドから出ると、勢いよく扉を開ける。

「やっぱり」

 鈴夜から見た大智は、向かって左側の壁を見ていたため、そこに岳が居るのだと直ぐに分かった。
 来客が居た為に、入って来られなかったのだろう。
 岳は人見知りが激しいから、きっと見知らぬ人の気配がして入り辛かったのだと思われる。

「依仁ならもう帰ったよ、大丈夫、おいで」

 ―――前言撤回。
 岳と依仁は恐らく知り合いだ。それでいて、岳は依仁が苦手であるに違いない。
 この結論に、違和は全く感じられなかった。
 岳は手招きされて、漸く部屋へと入ってきた。手には弁当と箸、小型ペットボトルに入ったお茶を持っている。

「話してたから入り辛かった?ごめんね」
「…うん…」

 大智は、暗い顔をして俯く岳に謝罪する。岳は相当依仁の事が苦手なのか、しゅんとしていた。

 その後もちらちらと話をしながら、刻々と時は過ぎていった。
 夕刻になり、ナースが夕食を運んで来る。

「もうこんな時間か」
「あ、ああ、もう帰っちゃうのか…」
「うん、そろそろ帰るよ」

 何も決め事が無い時に夜遅くまで語りすぎて、二人とも体調を崩すという失態をした時から、夕食の時間になったら帰宅すると約束事を決めていた。
 鈴夜は惜しくも立ち上がり「またね」と手を振って、部屋を後にした。

 大智と居ると、心が休まる。
あの空間に、ずっと居たいと思ってしまう。
 孤独という寂しさを知ってからと言うもの、誰かと居るのがとても心地良いと気付いた。

 特に、級友である淑瑠や大智と共に居る時は、まるで昔に戻ったみたいに楽しかった。
 だから「はやく土曜日にならないかな」なんて、土曜が終わってさえ居ないのに思ってしまうのだった。
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