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(11/17) 11/18
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【11.17】
また日常に戻ろうと決意したその夜、また思案に暮れた末に漸く決心し、歩に連絡を入れた。
明日から復帰したいとの旨を伝えると、我が事のように喜んで回復を祝福してくれた。
【11.18】
「ご迷惑おかけしました」
同僚にも上司にも、本当に迷惑をかけたと思う。
風邪を引いた所から始まり、続けて事件が起こり、精神を病んでしまい、結局長い事休んでしまったのだから。
鈴夜は、心の底から謝った。
だが、欠勤の理由が知られているのか、慰める者は居ても叱ってくるものはいなかった。
話題が事件に触れる事は一度たりとも無く、真相は掴めなかったけれど。
「折原さんも済みませんでした、それから色々とありがとうございました」
「いいよ、元気になってくれて本当に良かった」
「本当にすみませんでした」
歩には、特に感謝が尽きない。忙しい中で自分にも構ってくれて、時間は幾らあっても足りなかったことだろう。
それを物語るように、歩の顔色は優れなかった。だが、今の自分が心配するのも、おこがましさに似た感情を感じ出来なかった。
病み上がりだからと言う理由で、定時よりも少し前に終了許可をもらった鈴夜は、ゆっくりと家路を歩んでいた。
歩は「送ろうか?」と配慮を示してくれたが、久しぶりに外の空気を吸いたいから、とやんわり断った。
今朝も俄かに感じたが、長い事外気に晒されると改めて冷たさを実感する。
それもその筈だ、もう11月の中旬なのだから。
踏み切りに差し掛かると、自然に岳の事を思い出した。
変な分かれ方をしてから、彼とは一度も会っていない。
原因は¨自分が長期間部屋に引きこもっていたから¨だろうが。と言うか、そう思いたい。
あの日死のうとしていた岳は、今どうしているのだろうか。この数日の内に、また死を計っていないといいのだが。
だが、心配したところで確かめる術もなく、不安は深まるだけだった。
階段をあがると、玄関の前に淑瑠が立っていた。淑瑠はこちらに気付くと、直ぐに優しい笑みを浮かべる。
「おかえり鈴夜、お疲れ様」
「ただいま淑兄、どうしたの?」
「仕事から帰ったから寄ってみたところだよ、ナイスタイミングだね」
ふふふと柔らかな笑みを零して、淑瑠は微笑んでいる。悲しみも、昨日の事も忘れた訳ではないだろう。
だが、淑瑠はいつもの、ずっと前から自分が知っている淑瑠だった。自分を引っ張ってくれる大事な友人。
淑瑠のお陰で少し前向きになれたのだから、感謝しなければならないな。
「淑兄ありがとう、今日から仕事に復帰したよ」
「ううん全然、鈴夜よく頑張ったね」
「淑兄のお陰だよ」
「そんな事ないよ、私は何も」
「ううん、ありがとう」
こんなに純粋な笑顔を浮かべたのは、いつ振りだろうか。鈴夜は最後に笑った時を、懐かしく感じた。
実際はそこまで前の話ではないのだが、この数日間は何時もより随分と長く感じたから。
「鈴夜に会えて良かったよ」
まだ会って間もないと言うのに、綺麗に話を締め括った淑瑠の考えが鈴夜には読めた。
「もしかして、また仕事?」
「うん、実はそうなんだ」
「忙しそうだね」
仕事の合間を塗って様子を見に来てくれたのだと分かり、優しさに心が暖かくなった。
「そうだね、でも元気そうな姿見たら安心したよ。じゃあ行くね」
「うん、行ってらっしゃい」
鈴夜はひらひらと手を振り、淑瑠を送り出した。
玄関が閉まると、急に不安が押し寄せた。けれど飲み込まれないように必死に抵抗する。
思い出しても考えても、それは自分の為にも大智のためにもならない。だから、できるだけ違う事を考えよう。
鈴夜は、あまり手がつけられずに、綺麗なままだった料理本を手に取った。
あのサイトの、書き込みを読むのはやめた。読めばきっとまた不安が襲うだろうから。
暫くは、―――いや、もうサイトを見るのはやめよう。
と、心に誓った。
また日常に戻ろうと決意したその夜、また思案に暮れた末に漸く決心し、歩に連絡を入れた。
明日から復帰したいとの旨を伝えると、我が事のように喜んで回復を祝福してくれた。
【11.18】
「ご迷惑おかけしました」
同僚にも上司にも、本当に迷惑をかけたと思う。
風邪を引いた所から始まり、続けて事件が起こり、精神を病んでしまい、結局長い事休んでしまったのだから。
鈴夜は、心の底から謝った。
だが、欠勤の理由が知られているのか、慰める者は居ても叱ってくるものはいなかった。
話題が事件に触れる事は一度たりとも無く、真相は掴めなかったけれど。
「折原さんも済みませんでした、それから色々とありがとうございました」
「いいよ、元気になってくれて本当に良かった」
「本当にすみませんでした」
歩には、特に感謝が尽きない。忙しい中で自分にも構ってくれて、時間は幾らあっても足りなかったことだろう。
それを物語るように、歩の顔色は優れなかった。だが、今の自分が心配するのも、おこがましさに似た感情を感じ出来なかった。
病み上がりだからと言う理由で、定時よりも少し前に終了許可をもらった鈴夜は、ゆっくりと家路を歩んでいた。
歩は「送ろうか?」と配慮を示してくれたが、久しぶりに外の空気を吸いたいから、とやんわり断った。
今朝も俄かに感じたが、長い事外気に晒されると改めて冷たさを実感する。
それもその筈だ、もう11月の中旬なのだから。
踏み切りに差し掛かると、自然に岳の事を思い出した。
変な分かれ方をしてから、彼とは一度も会っていない。
原因は¨自分が長期間部屋に引きこもっていたから¨だろうが。と言うか、そう思いたい。
あの日死のうとしていた岳は、今どうしているのだろうか。この数日の内に、また死を計っていないといいのだが。
だが、心配したところで確かめる術もなく、不安は深まるだけだった。
階段をあがると、玄関の前に淑瑠が立っていた。淑瑠はこちらに気付くと、直ぐに優しい笑みを浮かべる。
「おかえり鈴夜、お疲れ様」
「ただいま淑兄、どうしたの?」
「仕事から帰ったから寄ってみたところだよ、ナイスタイミングだね」
ふふふと柔らかな笑みを零して、淑瑠は微笑んでいる。悲しみも、昨日の事も忘れた訳ではないだろう。
だが、淑瑠はいつもの、ずっと前から自分が知っている淑瑠だった。自分を引っ張ってくれる大事な友人。
淑瑠のお陰で少し前向きになれたのだから、感謝しなければならないな。
「淑兄ありがとう、今日から仕事に復帰したよ」
「ううん全然、鈴夜よく頑張ったね」
「淑兄のお陰だよ」
「そんな事ないよ、私は何も」
「ううん、ありがとう」
こんなに純粋な笑顔を浮かべたのは、いつ振りだろうか。鈴夜は最後に笑った時を、懐かしく感じた。
実際はそこまで前の話ではないのだが、この数日間は何時もより随分と長く感じたから。
「鈴夜に会えて良かったよ」
まだ会って間もないと言うのに、綺麗に話を締め括った淑瑠の考えが鈴夜には読めた。
「もしかして、また仕事?」
「うん、実はそうなんだ」
「忙しそうだね」
仕事の合間を塗って様子を見に来てくれたのだと分かり、優しさに心が暖かくなった。
「そうだね、でも元気そうな姿見たら安心したよ。じゃあ行くね」
「うん、行ってらっしゃい」
鈴夜はひらひらと手を振り、淑瑠を送り出した。
玄関が閉まると、急に不安が押し寄せた。けれど飲み込まれないように必死に抵抗する。
思い出しても考えても、それは自分の為にも大智のためにもならない。だから、できるだけ違う事を考えよう。
鈴夜は、あまり手がつけられずに、綺麗なままだった料理本を手に取った。
あのサイトの、書き込みを読むのはやめた。読めばきっとまた不安が襲うだろうから。
暫くは、―――いや、もうサイトを見るのはやめよう。
と、心に誓った。
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