Criminal marrygoraund

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 歩は鈴夜の、そして明灯の事について考えていた。明灯は昨日¨明日は用事があるから来られない¨と言っていた。
 体に負担を掛けながら多忙な日々を送る明灯を、懸念しずにはいられない。精神状態についても、まだ万全であるとは言い難いだろう。
 いつか取り返しのつかない事にならなければいいが、と、歩は自ら描いた暗い未来に軽く首を振った。

 続けざまに昨日の電話を思い出す。朝、泉から掛かって来ていて折り返したのだが、用件は端的に一つ、¨サイトの件は警察内だけに留める¨といった物だった。これまた簡潔に¨逆に暴動が起きても困るから¨と聞かされ納得はしたが、何だか遣り切れない気持ちになってしまった。

 明灯や鈴夜のため、一日でも早く安心する町になって欲しいと願う反面、動きに実りが無いと焦りまで生まれてしまう。
 自分が救わなければならないのに。二人を、いや巻き込んでしまった皆を。罪を償うつもりで。

 脆く壊れてしまいそうな後ろ姿を浮かべて、歩は次なる策を練りだした。


 鈴夜はリフレッシュを目的に、久しぶりに自宅の窓を開き、目を閉じ無心で風を浴びていた。浴びる風はまだ冷たいが、分厚めの服を纏っていれば心地良さも味わえる。
 暫く浴びてから目を開き、3階から景色を見ると、いつもより少しだけ上からの世界が望めた。だが視線を下げてゆく内その行為が裏目に出て、鈴夜は働いた感情に襲われ窓を閉めてしまった。

 呼吸が上がる。湧き上がってくる罪悪感に胸が締め付けられる。鈴夜は落ちだした雫をそのままに、その場で屈みこんだ。
 岳の恐怖を想像してしまった。見ていた景色よりも更に高所から転落した岳が、最後に見た景色の色や感情を一瞬の内に考慮してしまい、辛くなったのだ。
 志喜を追いかけて逝った、岳の気持ちを。


「最近どうしていましたか?」

 唐突な質問に対し、美音は少しだけ考えて発言した。

「最近はゲームセンターばっかり行ってます」

 最近は思考遮断の為、五月蝿い場所に赴く傾向にある。故にゲームセンターが多いのだ。

「ゲームセンターですか、懐かしいですね」
「行った事あるんですか?」

 大人の女性のイメージが強い柚李からは想像出来ない発言に、美音はキラキラ瞳を輝かせる。

「あのリズムに合わせて踊るやつが好きで。今では恥ずかしくて出来ませんが……美音さんはどういうゲームが好きなんですか?」

 美音は何の気なしに、ゲームの内容を簡潔に纏めた。

「ゾンビ殺す奴、楽しいですよ」

 が、柚李は少し絶句する。美音はその意味も分からないまま、平然と話を続けた。

「一回やってみてくださいよー、嵌りますよ。リズムのやつもやってみようかな」
「…そ、そうですね」

 美音は空想の中で、人を撃ち殺している場面を描いた。


 淑瑠は帰宅すると、直ぐに鈴夜の部屋へと寄った。
 本部に戻り、新人の繰り出す質問に丁寧に答えていたら、いつしか夜になってしまった。
 鈴夜は待っていてくれたのか、インターホンを介す事無く扉が開いた。

「…淑兄、長い時間お疲れ様」

 少し疲れが映る顔の上に、微笑が乗っかっている。今日は調子が悪いのだろうと考え、深くは掘り込まないよう努めた。

「ありがとう、待っててくれたの?」
「……うん、来るって言ってたから。いつもありがとう、今日のも美味しかったよ。淑兄レベル上がってるね」

 差し出された二つのタッパーを袋ごと受け取り、淑瑠は満面の笑みを浮かべた。疲れはあるものの、声色もあまり迷いがなく、精神面は安定しているように見える。

「また一緒に作れたらいいね」
「……そうだね、次のお休み何時?」
「明後日だよ」
「……じゃあ明後日作ろうか」

 正直、恐る恐る提案した部分があったが、意外に前向きな態度に素直に喜びを重ねた。

「うん、鈴夜の調子が良かったら作ろう」

 鈴夜は一瞬目を丸くしてから、ふわりと笑みを湛えた。

「…ありがとう」


 依仁は樹野を送り届けた後、自宅で考え事をしていた。
 勿論樹野のことだ。そこから繋がる騒ぎの件も片隅にはあったが、殆ど樹野の様子についてが占めていた。

 なんだかんだ言っても、やはり恐怖しているのかもしれない。一般人でさえテレビを見て不安になるのだ。CHS事件当事者である樹野は尚更、事件に何時巻き込まれてしまうかもしれないと怯えていたって可笑しくない。
 態度の原因が定かでなくとも、恐怖がない訳ではないだろう。だから欠片一つさえ残さずに、全て取り去りたい。樹野の、心からの純粋な笑顔が見たい。

 その為にはやはり、もっと突き進むしかない。どんどん突き進んで、怪しい人間を暴いてゆくしかないのだ。
 自分の恐怖が樹野の笑顔に繋がるのならば、幾らだって恐怖しよう。
 大好きな樹野の為ならば。自分はどうなったって良いんだ。どんな痛みにでも、恐怖にでも、耐えてやろう。

 依仁は樹野の子どものような笑顔を思い出し、一人はにかんだ。
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